【完結】左目をやる契約をしたら、極上の美形悪魔に言い寄られています

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)

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30.悪魔を呼び出す方法は

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 酔いを冷ますために窓を大きく開けて空を見上げる。冷たい風が火照った肌に心地よく、ぼんやりと見上げた月は雲に覆われていた。薄暗い月明かりが覆う町は静かだ。

「問題は……」

 ――アモルをどうやって呼びだすか。

 うーんと唸ってため息を吐いた。

 アモルという名前しか知らない。それが真名であった場合は呼べば現れるだろうが、違えば無視される。自分から名乗ったからといって真名である保証は無いのだ。ましてや……あれだけ上級の悪魔が、束縛を生じる名を教えるはずがなかった。

「やっぱ……通り名だよなぁ」

 それが普通だ。悪魔にとって名前は非常に深い意味を持ち、真名をフルネームで名乗るのは契約以上の価値があった。クルスは簡単に「呼び出してくれ」と言ったらしいが、どうやって彼をここに呼ぶか。そして、裏とはいえ教皇の立場にあるクルスに悪魔を会わせる安全な方法も考えなくてはならない。

「無理だよな」

 部屋のベッドで独り言を言うのはもともとの癖、冷えてきた身体をぶるりと震わせて窓を閉めた。背筋がぞくぞくするが、気のせいだと片付けて毛布に包まる。寝るときは解く髪がふわふわとベッドの上に散らばった。

 だいぶ酔いはさめてきた。ラウムと飲むのは久し振りで、あんな頼みごとを聞いた所為もあり、少々飲みすぎた自覚はある。酔いが残りにくい体質なのを逆手に取り、とにかく酒を限界まで飲んで寝転がった身体は酔いの余韻でまだ温かかった。

「……呼んで、すぐアモルが来るなら苦労しないっての」

 考えるのが嫌になり吐き捨てる。窓際のベッドに月光が差し込み、雲が晴れたことを間接的に知る。少し明るくなった部屋に、再び影が落ちた。

「呼んだか?」

 聞きなれた声が響き、オレは慌てて上体を起こした。気配はないのに、確かに目の前に立っている。ベッドサイドに現れたアモルは、長い足を見せつけるようにベッドの端に腰を下ろした。

「……アモ、ル?」

「お前が呼んだのだろう」

 言い聞かせるような口調でつげ、彼は手を伸ばす。白い手が熱るオレの頬を包み込み、魅惑の笑みで小首をかしげた。計算し尽くされた悪魔の微笑みに、オレはごくりと喉を鳴らす。月光を浴びた象牙色の肌が抜けるように白くみえ、まるで幻想のような光景だった。

「いや、よく気付いたなって」

 どうせ通り名だったんだろうに……オレの呟きに隠された意味を汲み取ったアモルは、明らかに落ち込んだ様子をみせた。

「真名だからな、お前に嘘を吐く気はない」

 嘘つき呼ばわりされたと落ち込む悪魔など、かつて見たことがない。肘をついて上体を起こした姿勢を正し、きちんとベッドの上に起き上がった。赤い唇を尖らせて不満を訴えるアモルに、「ごめん」と謝罪する。

 確かに先入観で一方的に疑った自分が悪い。

「悪いついでに、頼みがあるんだけど?」

 じっと続きを待つ悪魔へ迷いながら言葉を探して……結局面倒になってしまった。直球で問いかけることにして、オレは乱れた髪をぐしゃりとかき上げた。解いた銀髪を一房指に絡めたアモルが、笑う。

「願いは願いと引き換えだ」

 やっぱり悪魔だ。

 どれだけ親しくなったつもりでも、親切そうに振舞っても――悪魔は悪魔でしかない。常に代償をもとめ、何かを与える代わりに奪うのが彼らの常だった。忘れそうになっていた不文律を仄めかしたアモルへ、用心深く言葉を選ぶ。

「お互いの条件が出てから、決める。それでいいか?」

 いままで瞬きひとつしなかった蒼瞳が、ゆっくりと伏せられた。少しの時間を置いて、アモルの笑みが口元を鮮やかに彩る。

「ああ、構わない」

 その一言に、なぜか……取り返しのつかない不安を感じて、オレは唇を噛んだ。
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