【完結】左目をやる契約をしたら、極上の美形悪魔に言い寄られています

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)

文字の大きさ
上 下
28 / 61

28.不器用な友人関係

しおりを挟む
*****SIDE ラウム

 コンコン。

「セイル?」

 ノックの音が軽く響き、遠慮なくドアを開く。いくら教団本部内とはいえ、鍵をかけないのはセイルくらいだった。それを知っているから、遠慮なく扉を開いたおれは部屋の様子にため息をついた。

 質素倹約を通りこし、もはや貧相としか表現できない部屋はみすぼらしい。足がぐらつく椅子は使い物になりそうにないし、本棚はところどころ棚板が抜けている。そもそも置いてある本は数冊で、本棚など必要ない状況だった。

 シーツや毛布は祓魔師見習いが交代で洗濯し、床は掃除されているはずだ。なのに、長い間放置された建物のような雰囲気がある。

 どこから拾ってきた? と聞きたくなるような古いベッドに丸くなる姿は、まるで幼子だ。枕を抱きかかえてくるりと身を丸め、他人からの干渉を拒んでいるように見えた。

 普段はドアの外の人の気配を感じるほど敏感なので、こんな風に寝ている姿を見せることはない。油断した様子を装いながら隙を見せないセイルの有り様は、その育ちや境遇を考えると納得できた。

 大差ない環境で育ったラウムも理解できる部分が多い。だが、そんな彼が起きずに眠っている姿に、よほど傷が酷いのか……と心配に眉を顰める。傷による微熱で勘が鈍っているのだろう。もしかしたら体力回復のための眠りが普段より深いのかもしれない。

「セイル……」

 次に声をかけて起きなければ放っておこうと決めて、最後にもう一度だけ名を呼ぶと……彼は飛び起きた。他人が部屋にいることに驚いたらしく、咄嗟にベッドの上を後ろへ逃げ……すぐに瞬きして欠伸をする。

 見慣れたおれの姿に安心したのか。それとも咄嗟に過剰反応した自分を誤魔化したいのか。

「ラウムか……どうした?」

 小首を傾げて乱れた三つ編みを直している姿は、さきほどまで熟睡していた人間とは思えないほどしっかりしていた。他人を頼ることを覚えたおれと違い、セイルは途上にある。頼ることが自らを弱くすると信じている姿はひどく危うい、と彼が気付くのはまだ先らしい。

 不器用な同僚に肩を竦め、さっさと用件を切り出した。

「先日の約束の食事でも……と思ってな」

 クルスから頼まれた件を話すにしても、食事でもしながらの方が気楽だ。そう考えて提案するおれに、セイルは一瞬だけ探るように目を細めた。すぐに表情を和らげた彼は

「ラウムの奢りだっけ? オレ、美味しいピッツァがいいな」

 顔の半分を前髪で隠すおれの表情が苦笑いに変わる。

「わかった……それでいい」

「やったね!」

 無邪気に喜んでみせるセイルも、兄よろしく友人の我が侭を許容するおれも、互いが与えられた立場を演じていた。普段と同じように、互いの内面には踏み込まない居心地の良い関係のまま……2人で連れ立って部屋を出る。

「あっ……クルスにまた叱られるな」

 顔を顰めて、軟禁状態を匂わせるセイルは困ったと足を止めた。しかし「大丈夫だ、彼は知っている」と告げれば、「あ、ならいいか」と再び歩き出す。

 鼻歌まじりにローブを揺らす横顔は、仕事以外で外出することを楽しんでいるようだった。

「傷はどうだ?」

「それが……思ってたより深かったみたいで、まだ塞がらないんだよ」

 ぼやきながら包帯を巻いた手を大げさに嘆いてみせる。以前は怪我をしてもセイルが隠すから、指摘されて誤魔化さなくなっただけマシだ。そこに漕ぎつけるまでのクルスの苦労を思い出しながら、柔らかく相槌を打つ。

「イタリアでの仕事はどうだった?」

 逆に質問を向けられ、珍しいと目を見開いた後、おれは表情を和らげる。

「珍しい事象だったが、悪魔ではなく自然現象だった」

「そりゃよかった」

 世間では「悪魔」絡みの事象は「迷信」だと思われている。科学が進んだ分だけ夜の闇を侵食した人々は、同様に心の闇も減らせたと考えるらしいが……実際には逆だった。夜の闇が減るだけ、心の闇は広がっていく。まるで総量が決まっている箱の中で中身が左右入れ替わるように。

 闇が濃くなった人々の心に巣食う悪魔は「心の病という隠れ蓑」を得て、中世の頃より自由に人間たちを捕食した。表に見える科学的な現象しか信じなくなった人々は――信仰すら捻じ曲げて己の利得を追求する。

 まさに世紀末と呼ぶに相応しい世界。

「そっちは大変だったな」

「ほんと……厄介な悪魔に気に入られちゃって」

 文句を口にしながらも、セイルは大げさに先日から立て続けだった仕事の内容を愚痴り始めた。それを相槌や質問を交えながら聞くおれは、気付かれぬよう溜め息を殺す。

 互いに隠し事をしたまま、おれ達は夜の街へ繰り出した。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

学園と夜の街での鬼ごっこ――標的は白の皇帝――

天海みつき
BL
 族の総長と副総長の恋の話。  アルビノの主人公――聖月はかつて黒いキャップを被って目元を隠しつつ、夜の街を駆け喧嘩に明け暮れ、いつしか"皇帝"と呼ばれるように。しかし、ある日突然、姿を晦ました。  その後、街では聖月は死んだという噂が蔓延していた。しかし、彼の族――Nukesは実際に遺体を見ていないと、その捜索を止めていなかった。 「どうしようかなぁ。……そぉだ。俺を見つけて御覧。そしたら捕まってあげる。これはゲームだよ。俺と君たちとの、ね」  学園と夜の街を巻き込んだ、追いかけっこが始まった。  族、学園、などと言っていますが全く知識がないため完全に想像です。何でも許せる方のみご覧下さい。  何とか完結までこぎつけました……!番外編を投稿完了しました。楽しんでいただけたら幸いです。

嫌われ者の長男

りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!

ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。 「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」 なんだか義兄の様子がおかしいのですが…? このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ! ファンタジーラブコメBLです。 平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります♡ 【登場人物】 攻→ヴィルヘルム 完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが… 受→レイナード 和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

処理中です...