【完結】左目をやる契約をしたら、極上の美形悪魔に言い寄られています

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)

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18.惑わせても嘘を吐かない悪魔

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「お前を待っていた」

「幽霊騒ぎはお前が犯人か?」

「そうだ」

 あっさり肯定する。そこで気付いた。アモルは今までオレに嘘を言ったことはない。本当のことを言わなかっただけで、聞かれたことに嘘を吐いて誤魔化したことはなかった。聞かれなかったから言わないのは、オレもよく使う手法だ。

「なんで俺を?」

「この瞳は俺のものだ」

 だから見たいときに逢うのだと言い切ったアモルが近づく。退くのが癪で動かずにいれば、伸ばした手で左目の縁をなぞる。何度も行われた仕草だが、相変わらずの手の冷たさに肌が粟立った。

『セイル!』

「わかってる」

 心配から声を掛ける相棒へ、オレは一言吐き出した。すると、悪魔はくすくすと笑い出す。

「セイル、俺を警戒するのは自由だが……その武器、元は魔王の手にあったと知っているか? 神の道具ではなく、悪魔の側の存在だ……信じてもいいのか?」

「そんな言葉に騙されないさ」

 悪魔の言葉など信じないと言い切れば、アモルは身を翻して距離を取った。楽しそうに頬を緩めたまま、ふわりと白い羽を広げてみせる。悪魔の背に広がる天使の翼は美しく、オレは息を飲んだ。

「ならば、ハデスに尋ねてみるがいい。魔王の手にあったかどうかを」

 言いたいことだけ言って消えるアモルの残像を瞬きで消し、今告げられた言葉を反芻してみる。さきほど感じた彼は今まで嘘をつかなかった事実と、嘘であって欲しい言葉の間で喉が張り付いた。声が声にならず、呼吸音にまぎれて消えていく。

 ゆっくり目を伏せて、音だけに集中する。

「ハデス……今の話、本当……か?」

『……』

 やっとの思いで吐き出した言葉……いつもならば答えるハデスの声は返らず、ただ気まずい沈黙が落ちる。それは否定できない言葉を肯定しているようだった。奪った目を抉らない悪魔、彼の残した声が相棒との信頼を冷やしていく。

 沈黙が耳を貫き、痛みすら感じる空間で……ようやくオレは伏せていた目を開いた。

「……もう、いい」

 覚悟を秘めた声にも応(いら)えはなかった。
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