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17.神の住まう家は夜に集う
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深夜の教会はいつでも暗く、寂しい。神が住まう家という名目で、マリア像周辺や礼拝堂には蝋燭の火が灯されるが、少し離れると顔の判別もつかない不気味な空間だった。
中央の通路を歩き、大扉を背にして振り返った。マリア像や十字架を飾った祭壇を見つめ、背の扉に指先で封印を施す。これで外から邪魔をされる可能性は格段に減った。
わずかな月光が差し込む礼拝堂は古く、どこか懐かしい気がする。ゆらりと蝋燭の火が大きく揺れて、煤が立ち上った。
子供の頃、神父さまに叱られて祭壇の裏に隠れたことがある。その時の複雑な感情を思い出していた。暗闇を怖いと思うより安心する自分がいて、寄りかかった祭壇の内側で守られている気がしたのだ。あの後、すぐに見つかってしまったが……。
叱られると覚悟して身を竦めたオレを、神父は大きな身体で抱き締めてくれた。「神よ、感謝します」とマリア像に告げ、抱き上げたオレを暖かい部屋へ連れて行く。その大きな腕と己を許す温もり……あの日、初めて神という曖昧な存在を信じようとしたことまで思い出した。
「まあ……子供だったんだよなぁ」
『今でも変わらないだろう』
ハデスの突っ込みにため息を吐く。
「それなりに大人のつもりなんだが?」
『思うのは自由だな』
突き放した言い様に苦笑いが浮かんだ。どれだけ前から存在するのか知らないが、人間の……それも20歳に満たない者が何を言っても彼には敵わない。諦めてそれ以上の反論をやめれば、ハデスは小さく付け加えた。
『きたぞ』
何が? 誰が? そんな無駄な質問はいらなかった。マリア像へ向かって礼拝堂入り口に立つオレの正面……椅子が並ぶ間をぼんやりと白い影が移動していく。
人影といわれれば、そんな気もする。目を細めて眺めていたオレだが、ゆっくりと足を踏み出した。たっぷりと絨毯が敷き詰められた本部の聖堂とは違い、木造の礼拝堂は硬い足音が響く。
人外であるというのに、白い靄(もや)は足を止めてこちらを窺っていた。足音を感じ取る能力はあるらしい。数歩歩いて近づけば、もう少し靄の形が掴めた。
確かに女性を思わせる形をしている。長い髪といわれれば、そう見えた。だが……オレの青紫の瞳には別の影が重なって見えた。それは嫣然と笑う悪魔――
「何してるんだ、アモル」
名を呼んでため息を吐けば、白い靄は急激に薄くなって消えた。代わりにその場に現れたのは、しっかりした実体のある堕天使アモルだ。子供達の話に出てきた髪の長い美しい女性ではなく、黒髪の美人な少年だった。
中央の通路を歩き、大扉を背にして振り返った。マリア像や十字架を飾った祭壇を見つめ、背の扉に指先で封印を施す。これで外から邪魔をされる可能性は格段に減った。
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