【完結】左目をやる契約をしたら、極上の美形悪魔に言い寄られています

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)

文字の大きさ
上 下
17 / 61

17.神の住まう家は夜に集う

しおりを挟む
 深夜の教会はいつでも暗く、寂しい。神が住まう家という名目で、マリア像周辺や礼拝堂には蝋燭の火が灯されるが、少し離れると顔の判別もつかない不気味な空間だった。

 中央の通路を歩き、大扉を背にして振り返った。マリア像や十字架を飾った祭壇を見つめ、背の扉に指先で封印を施す。これで外から邪魔をされる可能性は格段に減った。

 わずかな月光が差し込む礼拝堂は古く、どこか懐かしい気がする。ゆらりと蝋燭の火が大きく揺れて、煤が立ち上った。

 子供の頃、神父さまに叱られて祭壇の裏に隠れたことがある。その時の複雑な感情を思い出していた。暗闇を怖いと思うより安心する自分がいて、寄りかかった祭壇の内側で守られている気がしたのだ。あの後、すぐに見つかってしまったが……。

 叱られると覚悟して身を竦めたオレを、神父は大きな身体で抱き締めてくれた。「神よ、感謝します」とマリア像に告げ、抱き上げたオレを暖かい部屋へ連れて行く。その大きな腕と己を許す温もり……あの日、初めて神という曖昧な存在を信じようとしたことまで思い出した。

「まあ……子供だったんだよなぁ」

『今でも変わらないだろう』

 ハデスの突っ込みにため息を吐く。

「それなりに大人のつもりなんだが?」

『思うのは自由だな』

 突き放した言い様に苦笑いが浮かんだ。どれだけ前から存在するのか知らないが、人間の……それも20歳に満たない者が何を言っても彼には敵わない。諦めてそれ以上の反論をやめれば、ハデスは小さく付け加えた。

『きたぞ』

 何が? 誰が? そんな無駄な質問はいらなかった。マリア像へ向かって礼拝堂入り口に立つオレの正面……椅子が並ぶ間をぼんやりと白い影が移動していく。

 人影といわれれば、そんな気もする。目を細めて眺めていたオレだが、ゆっくりと足を踏み出した。たっぷりと絨毯が敷き詰められた本部の聖堂とは違い、木造の礼拝堂は硬い足音が響く。

 人外であるというのに、白い靄(もや)は足を止めてこちらを窺っていた。足音を感じ取る能力はあるらしい。数歩歩いて近づけば、もう少し靄の形が掴めた。

 確かに女性を思わせる形をしている。長い髪といわれれば、そう見えた。だが……オレの青紫の瞳には別の影が重なって見えた。それは嫣然と笑う悪魔――

「何してるんだ、アモル」

 名を呼んでため息を吐けば、白い靄は急激に薄くなって消えた。代わりにその場に現れたのは、しっかりした実体のある堕天使アモルだ。子供達の話に出てきた髪の長い美しい女性ではなく、黒髪の美人な少年だった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

学園と夜の街での鬼ごっこ――標的は白の皇帝――

天海みつき
BL
 族の総長と副総長の恋の話。  アルビノの主人公――聖月はかつて黒いキャップを被って目元を隠しつつ、夜の街を駆け喧嘩に明け暮れ、いつしか"皇帝"と呼ばれるように。しかし、ある日突然、姿を晦ました。  その後、街では聖月は死んだという噂が蔓延していた。しかし、彼の族――Nukesは実際に遺体を見ていないと、その捜索を止めていなかった。 「どうしようかなぁ。……そぉだ。俺を見つけて御覧。そしたら捕まってあげる。これはゲームだよ。俺と君たちとの、ね」  学園と夜の街を巻き込んだ、追いかけっこが始まった。  族、学園、などと言っていますが全く知識がないため完全に想像です。何でも許せる方のみご覧下さい。  何とか完結までこぎつけました……!番外編を投稿完了しました。楽しんでいただけたら幸いです。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

嫌われ者の長男

りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

続きは第一図書室で

蒼キるり
BL
高校生になったばかりの佐武直斗は図書室で出会った同級生の東原浩也とひょんなことからキスの練習をする仲になる。 友人と恋の狭間で揺れる青春ラブストーリー。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

処理中です...