16 / 61
16.子供が見たのはお姫様の幽霊
しおりを挟む
「誰から教えてくれる?」
促せば、最初に口を開いた少女がそっと言葉を吐いた。
「あのひと、多分女の人よ」
女性? 何を持って子供がそう判断したのか。疑問は別の子が解いてくれた。
「そう……とても綺麗な髪をしてるの。腰まですらっと長かったわ」
自らは少し癖のある髪質なので、きっとストレートの柔らかい髪に憧れているのだろう。うっとりと告げる彼女へ、別の少年が言葉を重ねた。
「俺も見た。顔も綺麗で……優しそうだった」
「ん? 顔、見えるのか?」
透き通ってるのに??? 尋ねたオレへ半数が頷いた。
「顔が見えたのは僕達だけで、あとは顔を見ていないんだ」
「とっても綺麗な、まるでお姫様みたいな人なの。ドレス着てて……スカートもひらひらしてるのよ」
ひらひらしたお姫様みたいな美人の……幽霊!? 混乱しそうな頭の中で話を整理する。が、まったく要領を得なかった。顔を見た子と見えなかった子の差異もわからない。
仕方ないと割りきり、今度は音の話に切り替えた。
「そう……。聞こえた声もお姫様のものなの?」
尋ねると、一斉に彼らは青ざめた。
「……違う」
「絶対に違うわ。あんな動物みたいな声」
「低くて大きな犬が唸るみたいな声だった」
お姫様の人影と、聞こえる声は違うらしい。状況はさらに混沌としてきて、オレは今までに経験がない話に空を見上げた。冬の青空は色が薄く、どこか曇っている気がする。
冷たい風も今日は和らいでいて、もう少し日差しが暖かければ過ごしやすかっただろう。思わず現実逃避して空を見上げてしまったが、すぐに子供達に向き直った。
「大きな犬のような声だけ?」
顔を見合わせた子供達は、オレの質問に口を噤んで顔を見合わせた。どうしようか……そんな迷いを感じ取って、聞き方を変えてみる。
「たとえば……カタカタ揺れる音がするとか、ゴォーと嵐の夜みたいな音がしたことない?」
悪魔絡みの現場で聞いたことがある音を例えてみると、子供は誘われるように話してくれた。
「……しくしく泣く声と、パシンという鞭みたいな音」
「泣いてるのはお姫様かも……」
「パシンって音は、泣く声とは別の方角から聞こえた」
「あと、ぴちゃんって水が垂れる音」
全員が同じ人影の話をするのに、音になるとばらばらになった。複数の音が別々の箇所からしているのか?
小首を傾げるオレが、ひとりの少年に声をかけた。
「パシンっての、なんで鞭の音だと思ったんだ?」
通常は鞭の音など知らない年齢だ。ましてや教会の孤児院で鞭を使った躾など認めていないから、そんな音を聞き分けられる筈がなかった。ならば、何かを見たのか?
「……昔ね、お母さんを叩いた鞭と同じ音だった」
言いづらそうに、それでも少年は目を逸らさずに答える。
「ああ……ごめん、悪い事を聞いたな」
心当たりのある感情を瞳に滲ませた少年の髪をくしゃりと撫でて抱き寄せた。途端に、子供たちは甘えるようにオレに近づいてくる。彼らが心を開いたのは、どこか似た寂しさをオレの中に感じるのだろうか。
「夜しか出ないんだろ? じゃ、オレが今夜から泊まって探すから……もし彷徨ってるお姫様なら、神様のところに戻してあげなくちゃな」
深刻な響きにならぬよう気遣い、軽い口調で子供達目線の言葉で伝える。
「うん。泣いてるのがお姫様なら可哀相だもん。助けてあげて」
腕にしがみつく少女の無邪気なお願いに「任せとけ」と応じながら、ひとつ息を吐いた。
見上げる空は遠く、わずかな白い息が立ち上る。はしゃいだ子供達に手を引かれて、肌寒さが増した庭を後にした。
促せば、最初に口を開いた少女がそっと言葉を吐いた。
「あのひと、多分女の人よ」
女性? 何を持って子供がそう判断したのか。疑問は別の子が解いてくれた。
「そう……とても綺麗な髪をしてるの。腰まですらっと長かったわ」
自らは少し癖のある髪質なので、きっとストレートの柔らかい髪に憧れているのだろう。うっとりと告げる彼女へ、別の少年が言葉を重ねた。
「俺も見た。顔も綺麗で……優しそうだった」
「ん? 顔、見えるのか?」
透き通ってるのに??? 尋ねたオレへ半数が頷いた。
「顔が見えたのは僕達だけで、あとは顔を見ていないんだ」
「とっても綺麗な、まるでお姫様みたいな人なの。ドレス着てて……スカートもひらひらしてるのよ」
ひらひらしたお姫様みたいな美人の……幽霊!? 混乱しそうな頭の中で話を整理する。が、まったく要領を得なかった。顔を見た子と見えなかった子の差異もわからない。
仕方ないと割りきり、今度は音の話に切り替えた。
「そう……。聞こえた声もお姫様のものなの?」
尋ねると、一斉に彼らは青ざめた。
「……違う」
「絶対に違うわ。あんな動物みたいな声」
「低くて大きな犬が唸るみたいな声だった」
お姫様の人影と、聞こえる声は違うらしい。状況はさらに混沌としてきて、オレは今までに経験がない話に空を見上げた。冬の青空は色が薄く、どこか曇っている気がする。
冷たい風も今日は和らいでいて、もう少し日差しが暖かければ過ごしやすかっただろう。思わず現実逃避して空を見上げてしまったが、すぐに子供達に向き直った。
「大きな犬のような声だけ?」
顔を見合わせた子供達は、オレの質問に口を噤んで顔を見合わせた。どうしようか……そんな迷いを感じ取って、聞き方を変えてみる。
「たとえば……カタカタ揺れる音がするとか、ゴォーと嵐の夜みたいな音がしたことない?」
悪魔絡みの現場で聞いたことがある音を例えてみると、子供は誘われるように話してくれた。
「……しくしく泣く声と、パシンという鞭みたいな音」
「泣いてるのはお姫様かも……」
「パシンって音は、泣く声とは別の方角から聞こえた」
「あと、ぴちゃんって水が垂れる音」
全員が同じ人影の話をするのに、音になるとばらばらになった。複数の音が別々の箇所からしているのか?
小首を傾げるオレが、ひとりの少年に声をかけた。
「パシンっての、なんで鞭の音だと思ったんだ?」
通常は鞭の音など知らない年齢だ。ましてや教会の孤児院で鞭を使った躾など認めていないから、そんな音を聞き分けられる筈がなかった。ならば、何かを見たのか?
「……昔ね、お母さんを叩いた鞭と同じ音だった」
言いづらそうに、それでも少年は目を逸らさずに答える。
「ああ……ごめん、悪い事を聞いたな」
心当たりのある感情を瞳に滲ませた少年の髪をくしゃりと撫でて抱き寄せた。途端に、子供たちは甘えるようにオレに近づいてくる。彼らが心を開いたのは、どこか似た寂しさをオレの中に感じるのだろうか。
「夜しか出ないんだろ? じゃ、オレが今夜から泊まって探すから……もし彷徨ってるお姫様なら、神様のところに戻してあげなくちゃな」
深刻な響きにならぬよう気遣い、軽い口調で子供達目線の言葉で伝える。
「うん。泣いてるのがお姫様なら可哀相だもん。助けてあげて」
腕にしがみつく少女の無邪気なお願いに「任せとけ」と応じながら、ひとつ息を吐いた。
見上げる空は遠く、わずかな白い息が立ち上る。はしゃいだ子供達に手を引かれて、肌寒さが増した庭を後にした。
0
お気に入りに追加
259
あなたにおすすめの小説

男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

学園と夜の街での鬼ごっこ――標的は白の皇帝――
天海みつき
BL
族の総長と副総長の恋の話。
アルビノの主人公――聖月はかつて黒いキャップを被って目元を隠しつつ、夜の街を駆け喧嘩に明け暮れ、いつしか"皇帝"と呼ばれるように。しかし、ある日突然、姿を晦ました。
その後、街では聖月は死んだという噂が蔓延していた。しかし、彼の族――Nukesは実際に遺体を見ていないと、その捜索を止めていなかった。
「どうしようかなぁ。……そぉだ。俺を見つけて御覧。そしたら捕まってあげる。これはゲームだよ。俺と君たちとの、ね」
学園と夜の街を巻き込んだ、追いかけっこが始まった。
族、学園、などと言っていますが全く知識がないため完全に想像です。何でも許せる方のみご覧下さい。
何とか完結までこぎつけました……!番外編を投稿完了しました。楽しんでいただけたら幸いです。

嫌われ者の長男
りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる