【完結】左目をやる契約をしたら、極上の美形悪魔に言い寄られています

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)

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16.子供が見たのはお姫様の幽霊

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「誰から教えてくれる?」

 促せば、最初に口を開いた少女がそっと言葉を吐いた。

「あのひと、多分女の人よ」

 女性? 何を持って子供がそう判断したのか。疑問は別の子が解いてくれた。

「そう……とても綺麗な髪をしてるの。腰まですらっと長かったわ」

 自らは少し癖のある髪質なので、きっとストレートの柔らかい髪に憧れているのだろう。うっとりと告げる彼女へ、別の少年が言葉を重ねた。

「俺も見た。顔も綺麗で……優しそうだった」

「ん? 顔、見えるのか?」

 透き通ってるのに??? 尋ねたオレへ半数が頷いた。

「顔が見えたのは僕達だけで、あとは顔を見ていないんだ」

「とっても綺麗な、まるでお姫様みたいな人なの。ドレス着てて……スカートもひらひらしてるのよ」

 ひらひらしたお姫様みたいな美人の……幽霊!? 混乱しそうな頭の中で話を整理する。が、まったく要領を得なかった。顔を見た子と見えなかった子の差異もわからない。

 仕方ないと割りきり、今度は音の話に切り替えた。

「そう……。聞こえた声もお姫様のものなの?」

 尋ねると、一斉に彼らは青ざめた。

「……違う」

「絶対に違うわ。あんな動物みたいな声」

「低くて大きな犬が唸るみたいな声だった」

 お姫様の人影と、聞こえる声は違うらしい。状況はさらに混沌としてきて、オレは今までに経験がない話に空を見上げた。冬の青空は色が薄く、どこか曇っている気がする。

 冷たい風も今日は和らいでいて、もう少し日差しが暖かければ過ごしやすかっただろう。思わず現実逃避して空を見上げてしまったが、すぐに子供達に向き直った。

「大きな犬のような声だけ?」

 顔を見合わせた子供達は、オレの質問に口を噤んで顔を見合わせた。どうしようか……そんな迷いを感じ取って、聞き方を変えてみる。

「たとえば……カタカタ揺れる音がするとか、ゴォーと嵐の夜みたいな音がしたことない?」

 悪魔絡みの現場で聞いたことがある音を例えてみると、子供は誘われるように話してくれた。

「……しくしく泣く声と、パシンという鞭みたいな音」

「泣いてるのはお姫様かも……」

「パシンって音は、泣く声とは別の方角から聞こえた」

「あと、ぴちゃんって水が垂れる音」

 全員が同じ人影の話をするのに、音になるとばらばらになった。複数の音が別々の箇所からしているのか?

 小首を傾げるオレが、ひとりの少年に声をかけた。

「パシンっての、なんで鞭の音だと思ったんだ?」

 通常は鞭の音など知らない年齢だ。ましてや教会の孤児院で鞭を使った躾など認めていないから、そんな音を聞き分けられる筈がなかった。ならば、何かを見たのか?

「……昔ね、お母さんを叩いた鞭と同じ音だった」

 言いづらそうに、それでも少年は目を逸らさずに答える。

「ああ……ごめん、悪い事を聞いたな」

 心当たりのある感情を瞳に滲ませた少年の髪をくしゃりと撫でて抱き寄せた。途端に、子供たちは甘えるようにオレに近づいてくる。彼らが心を開いたのは、どこか似た寂しさをオレの中に感じるのだろうか。

「夜しか出ないんだろ? じゃ、オレが今夜から泊まって探すから……もし彷徨ってるお姫様なら、神様のところに戻してあげなくちゃな」

 深刻な響きにならぬよう気遣い、軽い口調で子供達目線の言葉で伝える。

「うん。泣いてるのがお姫様なら可哀相だもん。助けてあげて」

 腕にしがみつく少女の無邪気なお願いに「任せとけ」と応じながら、ひとつ息を吐いた。

 見上げる空は遠く、わずかな白い息が立ち上る。はしゃいだ子供達に手を引かれて、肌寒さが増した庭を後にした。
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