【完結】左目をやる契約をしたら、極上の美形悪魔に言い寄られています

15.子供への秘密兵器を使って

　よくある現象をひとつ潰し、ローブに絡み付いてはしゃぐ子供達の前に膝を落とした。目線を合わせる仕草に話があると感じ取ったのか、自然と彼らの動きは大人しくなる。

　目を逸らす子供がいないことから、嘘を言って興味を引こうとしている可能性も排除した。

「この教会で起きてる、奇妙な現象を神の力でなくしたいんだ。協力してくれるか？」

　得意の笑顔で尋ねれば、ひとりの少女が口を開いた。

「へんな人がいるのよ」

「どんな人？」

「透けてるのよね」

　隣の少女に同意を求める彼女の声に、周囲から「透けてる」「顔がない」と言った言葉が次々とあがる。

「そんな人、私達には見えなくて……」

　シスターの一言に、顔を見合わせた子供達は口をつぐんでしまった。何度も同じ問答が繰り返されたのだろう。シスターや神父など大人が見えないというたび、子供達は混乱して言葉を飲み込んでしまう。

　彼女がいることが逆効果になると感じたオレは、一度立ち上がってローブの塵をはたいた。

「では話は後にしましょう。少し教会の状況を把握するために集中したいので、ひとりにしてください」

　悪魔祓いの能力に他人の存在は影響しない。近くの人間の動きで注意力を散らすほど未熟でもないが、そう告げればシスターが下がらざるを得ないことを知っていた。

　この教会でオレより上位の者はいないのだから。

「わかりました」

　素直に下がるシスターを見送って、オレは庭の大木の根元に腰を下ろした。ローブに土がついても気にせず、冬の枯れた幹に寄りかかる。

「……汚れちゃうよ？」

　心配そうに声をかける少年を手招きし、最年少らしい彼を膝の上に座らせた。

「さて、もう一度聞かせてくれる？　透けてる人のこと」

　ポケットから取り出した飴を子供達に配っていく。孤児院をかねた教会が裕福な筈はなく、きっとお菓子などは後回しだろう。過去の自らの経験から、沢山のチョコや飴を持ち込んだオレは自らも飴を口に放り込んだ。

「食べていいの？」

「もちろん……神様に感謝してからだぞ」

　自分はお祈りを省いたくせに、ウィンクして茶化して告げれば「感謝します」と口々に飴を放り込んでいく。頬を綻ばせて笑う子供達はオレの周囲に膝を抱えて座り始めた。