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「……ゴメンな、こんな家族で」

 謝罪するサリエルは疲れたようで、笑顔もどこか引き攣っている。確かに、こんな家族では気苦労が絶えないだろうと思うタカヤは、気にしていないと首を横に振った。

「疲れた……」

 ぐったりとソファに沈んだ。

 弁護士はすぐに終わったからいいが、その後の弟と父親の顔見せに、どうしてここまで……と呆れる程疲れてしまったサリエルである。

「今日も仕事に行くのか?」

 小首を傾げて待っているタカヤを手を差し伸べて抱き寄せ、唇に音を立ててキスをひとつ。

「ん? 今日は休んじゃおうか」

「本当か?」

「ああ」

 一緒に居ようと告げれば、タカヤが嬉しそうに微笑んだ。そんな恋人の姿に、『仕事はオーナー業に徹して、もう店に出るのを止めよう』と思う。多少店の売り上げが落ちるだろうが、別に生活に困るわけじゃない。

 寂しがり屋のタカヤの為に、出来る限り2人でいよう。

 冷蔵庫からお気に入りのワインを引っ張り出し、電話で注文した料理を待つ間、乾杯をして夜景に変わり始めた街を見下ろした。

「愛してるよ、タカヤ」

「俺も……」

 照れながら答えてくれる恋人が隣にいてくれる幸せに、サリエルは酔っていた。





 開店時間を迎え、ホストクラブも活気を帯びる。周辺の繁華街のざわめきを見ながら出勤したジンは、入り口に止まる黒塗りの外車に眉を顰めた。

 うちの店の前に停めるなんて……なんと命知らずな。

 サリエルさんにバレたら、半殺しですね。

 やれやれと首を横に振り、早くどいて貰えるようにジャックに交渉してもらうつもりで階段を下りる。地下の入り口を潜れば……思わず回れ右をして帰りたくなる景色が広がっていた。

「あ、ジンさん!」

 オーナーであるサリエル専属のヘルプへ、助けを求めてカインが駆け寄る。

「何とかしてください。開店できませんよ」

 彼が指差す先、確かに物騒な人物が陣取っていた。

 外見だけなら天使と見紛うばかりの美少年だ。明るい栗毛に縁取られた白い肌と愛らしい顔立ち、紅を引いたような艶やかな唇、若草色の瞳――昼間見れば、栗毛は金髪に近い色だと気づいただろう。

「お久しぶりです。ミカエルさん」

「ジン、今日は兄さん何時頃来るの? タカヤさんも来るんだよね?」

「確かめてきます」

 踵を返して、カウンターへ向かった。苦い顔をしているジャックが、声を顰めて知らせてくる。

「今日は休むってさ」

「冗談でしょう、呼び出します!」

 強気に言い切った。

 ミカエルが1人で店にいるならいい。それならば営業に差し支えはないだろうが、何しろお付きの護衛が大量に店を占拠しているのだ。このままでは客を入れられなかった。

 第一、客の間で奇妙な噂でも立てられたら、それこそ目も当てられない。相手がマフィアなだけに、噂では済まなくなってしまうのだ。

 深い深い溜め息を吐きながら、ジンは怒鳴られること必至の電話をかけた。
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