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 ベッドの中で身じろいで……いつもと違う感覚に目を覚ます。まだ朝日が顔にかかる前に目覚めるのは、久しぶりだった。

 伸ばした腕に抱き込まれる形で、黒髪の少年が眠っている。一瞬状況が思い出せなくて、じっと彼を見つめた。すぐに蘇った記憶は、とても幸せなものだった。

 タカヤを好きだと自覚したのは、退院する頃だったと思う。それから必死で探して、見つけられなくて……ようやく見出したのは一昨日。再会から2日しか経っていないのに、オレの身勝手な告白をタカヤは受け入れてくれた。

 どれだけ幸せで、満たされた気分でいるか。彼はきっと知らない。ただ目の前にいてくれる今が、まるで奇跡なのだと――どんな言葉で告げたら、伝わるのだろう。

「愛してる」

 唇だけで囁く。

 昨夜無理をさせた自覚があるから、自然に目覚めるまでゆっくり眠らせてあげたかった。

 抱きたいと態度で示した直後に何かを言い淀んだタカヤ――もしかしたら、経験があるのかも知れないと思った。しかし、予想に反して無垢だったタカヤの躯。それが嬉しくて、奪ってしまった罪悪感すら凌駕する。

「……ん」

 鼻に抜ける吐息が合図となり、長い睫毛が揺れる。もうすぐ目覚める愛しい人を見つめながら、あの蒼い瞳を待ち焦がれた。何より美しくて、純粋な色を湛える瞳。

「おはよう、タカヤ」

「……ぉはよう」

 消え入りそうな声は、寝起きに掠れていた。無理をさせた昨夜も影響しているのだろうと思えば、自然と顔は笑みを浮かべる。作った表情ではなく、感情に引き摺られた笑顔だった。

「身体は平気? 朝食作るけど、食べられそう?」

 にっこり笑って、お気に入りの蒼い瞳を覗き込む。散らばっていた茶色の髪をきゅっと握ったタカヤが、顔を赤らめて俯いた。照れただけと知っているから、胸の中に抱き込んで黒髪にキスを落とす。

「愛してる。ずっと一緒に居たい」

 タカヤの家族構成は調べていた。すでに両親がいないことも、叔父の家に預けられていたことも……。だから、一緒に暮らしたいと言葉にした。それをタカヤが受け入れてくれると、知っているから。

 そして耳に届く、甘い承諾。

「俺も……」
 




 朝食を済ませたサリエルは、数件の電話をした後、紺色のスーツを着込んだ。

 シャツとジーパンを纏ったタカヤは、軽く首を傾げる。いつものサリエルと何か違う気が……。すぐに違和感の原因に気づいた。

 スーツだ。

 ホストの仕事ではデザイン系の個性的なスーツをまとっていたサリエルだが、今のスーツは個性が感じられないシンプルなスーツを着ていた。
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