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 涙がタカヤの頬を滑り落ちる。

「サリエルさん、何が!?」

 外の騒ぎに気づいて様子を見に来たジンが、くるりと踵を返した。店内に取って返すと、自分のコートとテーブルクロスを掴んで再び飛び出す。出血で体温が下がったサリエルの体に、上からコートを掛けた。

 腹部と肩、両方の傷から出血するサリエルに唇を噛み、止血の為にテーブルクロスを引き裂いて巻きつける。医学生だった過去を持つジンの手際はよく、救急車が到着する頃には完全に止血されていた。

「悪ぃな」

 コートを汚したと苦笑するサリエルに抱き着くタカヤは、ジンに顔を見せない。

「彼もケガを?」

「いや……無傷だぜ」

 それ以上の追求を許さないサリエルの断定に、ジンは溜め息をついた。こうなったら何も言わないだろうと判断し、救急隊にケガの状態を説明して見送る。大人しく救急車に乗らないかもしれないと心配したが、どうやら杞憂きゆうだったらしい。

 走り去る救急車と、遅ればせながら駆けつけたパトカーがすれ違う。繁華街は普段と違う雪景色の中、いつもと違う慌しさを見せていた。

 治療を終えたサリエルに促されて、タカヤは彼のマンションに足を踏み入れた。ペントハウスのように、部屋の多い間取りをきょろきょろ見回す。子供みたいなタカヤの所作を、柔らかい笑みで見守るサリエルはご機嫌だった。

 幸い、肩と腹部のケガは大したものではなく、すぐに帰宅許可が下りた。入院などしたら、タカヤが心配して責任を感じてしまう。そうならなくて良かった、としみじみ思った。

 やっと出会えたタカヤを自宅に連れてこられたことも、彼の機嫌を上昇させていく。傷みを凌駕する感情に、自分でも現金だと苦笑いが浮かんだ。

「お前、金持ちなんだな」

 単純な感想を漏らしたタカヤを後ろから抱き締めると、耳元で囁く。

「正確には、オレのもんじゃないけどね」

 意味深な言葉に首を傾げたタカヤをバスルームへ導き、届けさせた洋服を差し出す。

「しっかり温まって、それから出ておいで」

 言い聞かせて、リビングへ戻る。不必要に広い部屋を見回し、窓の外の夜景に苦笑した。確かに、金持ちに見えるのだろう生活。だが、サリエルが望んだものではなかった。

 与えられたから拒否しなかっただけ、豪華なこの部屋は寒々しく感じる。

 ソファに身を沈めて、無意識に煙草を取り出し……火をつける前にテーブルへ置いた。時間を持て余し、口寂しい時に咥えてきた煙草だが、いつもの癖で引っ張り出した途端にその気が失せる。

「……サリエル」

 後ろから掛けられた声に振り返りながら、まだ濡れた髪で立ち尽くすタカヤをソファに誘った。隣に座らせたタカヤの黒髪を、肩に掛けていたタオルで拭いていく。

「人心地ついた?」

 頷くタカヤの前髪から、ぽとりと水が垂れた。それも丁寧に拭き取ると、何か気後きおくれしているらしい少年の頬に接吻ける。

「何を気にしてるのか、だいたいわかるけど……タカヤの所為じゃない」

「でも……」
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