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「どんな様子だ?」

 先ほどのサリエルの気に当てられてざわめいていた店内も、ようやく普段の雰囲気を取り戻していた。その空気を壊さないよう、そっと小声で尋ねる。ジャックの差し出したグラスを煽りながら、ジンは緑の瞳を和ませた。

「知り合いみたいですね」

 差し障りのない程度の会話で話を終了させると、静かに息を吐き出した。

 あんなサリエルさんの態度、初めて見ました。長い付き合いなのに、結局彼について何も知らないのだと、ジンは苦い思いを飲み込む。

 慌てて車道へ飛び出した瞬間、きっと彼は何も考えていなかった。自分が轢かれるかも知れないことも、後ろに自分が控えていたことも、見送ったばかりの客も……すべて忘れて、ただ目の前の少年にだけ集中する。金しか信用しない男が初めて見せた人間らしさ――さらにサリエルに魅了される自分に気づけば、諦めが心に広がった。

 再び琥珀色の酒を満たされたグラスに口付けながら、余計な事を聞かないジャックに感謝する。なんとなく、今は誰とも話したくなかった。




「オレのこと覚えてたんだ、タカヤ」

 僅か1度の出会いだった。無言を貫くタカヤの態度に、覚えていなくてもしょうがないと諦め半分だった気持ちが上向く。

 店で女性客に見せる笑顔より数段明るい表情で、タカヤの手にカップを握らせる。

「温かいうちにどうぞ」

 冷たいホストの顔を脱ぎ去ったサリエルの柔らかい物言いに、タカヤの強張っていた表情が和らいだ。言われるままにカップを両手で包み、その温かさにほっと息をついた。

 口つければ、甘めに入れられたカフェオレの味に口元が綻ぶ。

「おいしい……」

「よかった」

 まだ抱き締められた状態だが、タカヤは抜け出そうとしない。逆に寄り添うように、力を抜いて身を任せた。

「……あんな薄着で、いきなり車道に出てくるなんて」

 どうしたんだ? そう問いかけられるのだと思い、タカヤが身を震わせる。答えられない……答えたくない質問だった。だが耳に届いたのは、もっと切ない言葉で――。

「本当に驚いた。心臓が止まるかと思ったぜ」

 見上げれば、言葉を証明するように心配を滲ませた紫藍が瞬く。

 本当は聞きたいのだろう。何があったのか、どうしたのか……そんな質問を押し殺して、尋ねようとしないサリエルの優しさが嬉しかった。

 だから――言葉にしたのは本音。

「お前に会いたかった……」
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