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 すっと足を引いて優雅に一礼し、エスコートの為に手を差し伸べる。

「待ってたよ、リズ」

 にっこりと笑顔を添えた。仕事で向けられているのだと理解していても、騙されたくなる。そっとサリエルの手に自分の指を触れさせ、恥らうように顔を伏せた。

 美しいブロンドをゴージャスな巻き毛にして、ボリュームをもたせる。派手な外見と裏腹の初心な仕草は男が誘う。豊かな胸元に輝くダイヤは、軽く見積もって15ct近くあった。

 彼女の肢体を包む高価な毛皮やダイヤが、リズの豊富な財力を物語る。

「……あちらの女性は平気なの?」

 先ほどまでの天国から地獄へ突き落とされたレミを心配するリズの声に、サリエルはさらに笑みを深めた。彼女達が落とす金を操る為のスパイスとして、嫉妬は必要だ。

 だから、背中に視線を感じながら振り返らない。次にレミが来るときは、札束を抱えて来るだろう。そして、レミから絞れる金額は……次が最後になる。最近の派手な使い方を見れば、彼女の金が尽き始めているのは明白だった。

 すでにかなりの借金をしている筈だ。

「今のオレには、リズの方が大切なんだけど」

 抱き寄せて、耳元で囁く。

 顔を赤らめて寄り掛かるリズの腰を抱きエスコートするサリエルは、最後までレミを振り返らなかった。言葉通り自分だけを見てくれるとリズが錯覚するのも、お金さえあればサリエルを独占できるとレミが誤解するのも、すべて彼女達の勝手だ。逆に言うなら、サリエルが頼んだ訳ではない。

「ジン、ヘルプについてくれ」

 手招きされ、子飼いのホストを呼び寄せた。すでに、カインは指名を受けて席を外している。ヘルプとして動くため、自分の客が少ないジンだが、彼の売上げはサリエルのお陰で№3から落ちた事がなかった。ここ半年ほどは、№2を維持している。

 モデル並の顔立ちと優雅な物腰、物静かな雰囲気は、珍しいブロンズ系の髪や緑瞳と相まって、かなり引く手数多なのだ。それでもジンは、サリエルのヘルプに徹して来た。無用な競争を嫌う彼の性格も影響しているのだろう。

「サリエル、今日は時間があまり取れなくて……ごめんなさい」

 最初に謝る彼女の指を手で包み、口元まで持ち上げてキスを落とす。まだ腰を抱かれたままソファに腰掛けるリズの顔が、薄暗い照明でも分かるほど赤く染まった。

「寂しいな」

 囁かれると、時間がない自分が悪い気がしてしまう。サリエルの術中に嵌っている自覚があっても、夢の中に居たいと願う愚かな自分に酔っていた。
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