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外伝

外伝1−3.公爵の地位と引き換えに愛を

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 従兄のエドガーは、ずっとお母様を好きだった。アイツったら、隠そうともしないのよ。お父様とお母様は仲が良いし、邪魔しないでって伝えたこともある。

 私にしたら、彼は子ども過ぎるの。これでエールヴァール公爵家の跡取りだなんて、家が潰れてしまうわ。でも、成人前に顔を合わせた時は、驚くほど凛々しかった。

「久しぶりだね、アストリッド嬢」

 何、洒落た呼び方してるのよ。それじゃ、どこかの貴族令息みたいじゃない。あ、一応貴族の嫡子だったわね。

 ここ数年、急に婚約願いが届くようになった。私はまだ結婚したくないし、出来たら婿を取りたいの。お父様は強くて安心できる存在だし、優しいお母様と一緒に暮らしたい。

 ペトロネラのミドルネームを持つ私は、他国へ嫁げないのだと聞いた。この国を離れたら、いつも近くにいる妖精達との縁が切れてしまう。それは家を離れる以上に嫌だった。

「久しぶりだわ、エドガー様」

 様をつけて呼んだら、嫌そうな顔をされる。先に「嬢」なんて呼ぶからよ。ずっと呼び捨てだったし、従兄なのに。

「リッド姉様、今日も綺麗ですね」

 エドガーの弟で、従弟のコンラードは優雅な挨拶をくれる。こっちの方がよほど公爵令息っぽいわ。嘘くさい笑みを浮かべて、令嬢達の粉かけを上手に避けていた。

「ラド、そのブローチの色素敵だわ、とても似合っている」

 宝飾品を褒めれば、むっとした顔のエドガーが口を挟んだ。

「おい、俺も同じブローチをしてるんだが?」

「知ってるわよ」

 むっとした口調で返してしまった。いつもこうなの。どうしてもエドガーとぶつかってしまう。別に嫌いじゃないけど、彼は私に求婚しないし……別にいいんだけどね!

「エドガー兄様。リッド姉様が好きなのは分かるけど、そんな態度では嫌われます」

「え?」

「違っ、そんなんじゃ……」

 ないと言いきらず、ちらりと私を見る。まさか、本当に? 私を好きなの? ドキドキする胸を隠すように押さえた。

 ちらっと覗った先で、エドガーは耳や首を真っ赤にしている。微笑ましいと言わんばかりの表情を浮かべたコンラードの方が兄みたいよ。弟に手玉に取られるなんて、私がついてないとダメね。

「エスコート、させてあげる」

 隣国の王族や近隣国の貴族から舞い込む釣書より、顔も性格も知っている従兄のがマシよね。自分に言い訳して、エドガーへ手を差し伸べた。驚いた顔をした後、一礼して流れるような身のこなしで手を受ける。

 やっぱり公爵家の坊ちゃんね。そこらの子どもとは違ったわ。王城の庭で行われたお茶会で、エドガーは私の隣から離れなかった。

 帰ってきてから知ったんだけど、あのお茶会は私のお見合いだったらしいわ。その間ずっとエドガーといたわけだし、婚約間近と思われたのかも。お母様は「好きにしていいわ」と仰るけど、公爵夫人なんて私には無理よ。

 断るつもりで、エドガーにそう言ったら「じゃあ、俺が辺境伯家に婿入りする」と返されて。断る理由がなくなってしまった。それから数ヶ月、彼ったら公爵家の嫡子の座をコンラードに譲ったの。

「弟のが向いてるし、俺は体を動かす方が好きだ……それに、リッドのことも好きだし」

「あ、うん。そう」

 気の利いた言葉が出てこなくて、私は真っ赤な顔で俯いた。でも握った手は離さず……ドキドキする気持ちを持て余す。

 そういえば、昔は僕って言ってたのに、いつから俺になったのかしら。エドガーが湖に落ちた、あの夏の休暇?

「なあ、エドって呼べよ」

「うん、エド」

 呼んだら彼も赤くなって、ふふっ、二人で同じ色ね。夕方なら目立たなかったのにな。





 二年後、私とエドは結婚した。お父様とお母様みたいな、仲睦まじい夫婦になりたいわ。そう口にしたら、エドは満面の笑みを見せる。その頬に残る傷は、去年私を襲った他国の貴族から庇った傷。彼が誇らしげに触れる傷痕は、勲章なのだと言われた。

 愛してるわ、エド。だからあなたも私を愛し続けてね。



 終わり




※明日、もう一話だけUPします。
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