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105.予定より早く産まれました
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お義姉様の方が早く生まれました。男の子で、公爵家の跡取りです。お祝いの手紙を書きながら、お腹に手を当てました。妊娠発覚から半年近く、かなり大きくなり歩くのも大変です。
階段から落ちた事件は騒ぎになり、すぐに階下へ部屋を移されました。客間を二つ繋いで、新しい部屋で暮らしています。そちらは仲良くなった商人の奥様お勧めのベッドを置きました。
少しだけ高さが低く、お腹が大きくなったら楽なのよ、と教えてもらいましたの。実際、立ち上がる時に力が入りやすく、四隅の柱もしっかりしていて助かっています。掴んで立ち上がるのが楽なんですもの。経験者の意見は大事ですね。
妖精姫が宿ったと予言されたので、誰もが愛らしい色や形の贈り物を検討しています。生まれるまで、あと一月ばかり。早産だったお義姉様は、意外にも短時間で産まれたと聞きました。難産だと一日以上かかるとか。
「つるんと産まれてきてね」
無理を承知で、お腹を撫でてお願いしてみます。書き終えた手紙に封蝋を垂らし、レードルンド辺境伯家の印を押したところで、ぐっとお腹が押された気がしました。
直後、悲鳴を上げるほどの激痛が走ります。ずきずきと痛み、すっと楽になる。でもまた痛くなる。そうしている間に、悲鳴を聞いて駆けつけたエレンが、助けを呼んでくれました。
アレクシス様に抱えられ、ベッドに横たえられます。まさか、もう生まれるのでしょうか。
「うぅ……っ、あ」
尋ねたいのに声にならず、呻くばかり。助産婦さんと医師の先生が呼ばれ、急いで診察が始められました。産まれてしまう。何かがお腹を押しているのが分かります。
「あ、れく……さま」
痛みで声が切れ切れになりましたが、お医者様の反対側で手を握ってくれています。その手に爪が食い込むほど力が入りました。痛い、痛い、痛い。もう他の言葉が出てこなくて。ただ痛い、早く産まれて、と全身で叫んで。
ふっと楽になりました。力んでいた体から力が抜けます。ぐったりとシーツに沈んだ私の耳に……おぎゃぁ! と元気な声が届きました。
「……とても美しい姫君ですよ」
助産婦さんの皺が目立つ手に抱かれ、全力で泣く赤子。くしゃくしゃで赤くて、見たことがない生き物なのに……口から出たのは「可愛い」の一言。声は掠れて、きっと私の顔も髪もぐしゃぐしゃ。初めて会うのに、母である私が綺麗じゃなくてごめんね。
胸の上に乗せてもらいました。泣き止まない赤子の髪色は、私より濃い蜂蜜のような色。大泣きして閉じた瞳の色は、私と同じ虹色でしょう。妖精姫の特徴ですもの。
「ありがとう、ヴィー。可愛い女の子だ、君そっくりの美女になるだろう」
「まぁ、求婚者が溢れて大変ね」
「絶対に嫁にはやらん」
うふふ、まだ産まれたばかりですよ。それならお婿さんを迎えたらいいと思うわ。この子はレードルンド辺境伯家に幸せをもたらす、天使なのだから。
窓の外はすでに暗く、私の出産は半日近くかかったようです。お手紙を書いたのは午後すぐでしたのに。疲れで瞼が重くなったところへ、夜のお客様が見えました。
「ロヴィーサ、我らの妖精姫。次の姫の誕生を祝福しよう。妖精王マーリンの加護と庇護を。すべての妖精達に愛される姫の誕生だ」
マーリン様の声を聞きながら、私は眠りに落ちました。なんとか起きていようと頑張った私の目に映ったのは、妖精達が粉を振りかける姿。お料理みたいに姫も美味しくなるのかしら。
階段から落ちた事件は騒ぎになり、すぐに階下へ部屋を移されました。客間を二つ繋いで、新しい部屋で暮らしています。そちらは仲良くなった商人の奥様お勧めのベッドを置きました。
少しだけ高さが低く、お腹が大きくなったら楽なのよ、と教えてもらいましたの。実際、立ち上がる時に力が入りやすく、四隅の柱もしっかりしていて助かっています。掴んで立ち上がるのが楽なんですもの。経験者の意見は大事ですね。
妖精姫が宿ったと予言されたので、誰もが愛らしい色や形の贈り物を検討しています。生まれるまで、あと一月ばかり。早産だったお義姉様は、意外にも短時間で産まれたと聞きました。難産だと一日以上かかるとか。
「つるんと産まれてきてね」
無理を承知で、お腹を撫でてお願いしてみます。書き終えた手紙に封蝋を垂らし、レードルンド辺境伯家の印を押したところで、ぐっとお腹が押された気がしました。
直後、悲鳴を上げるほどの激痛が走ります。ずきずきと痛み、すっと楽になる。でもまた痛くなる。そうしている間に、悲鳴を聞いて駆けつけたエレンが、助けを呼んでくれました。
アレクシス様に抱えられ、ベッドに横たえられます。まさか、もう生まれるのでしょうか。
「うぅ……っ、あ」
尋ねたいのに声にならず、呻くばかり。助産婦さんと医師の先生が呼ばれ、急いで診察が始められました。産まれてしまう。何かがお腹を押しているのが分かります。
「あ、れく……さま」
痛みで声が切れ切れになりましたが、お医者様の反対側で手を握ってくれています。その手に爪が食い込むほど力が入りました。痛い、痛い、痛い。もう他の言葉が出てこなくて。ただ痛い、早く産まれて、と全身で叫んで。
ふっと楽になりました。力んでいた体から力が抜けます。ぐったりとシーツに沈んだ私の耳に……おぎゃぁ! と元気な声が届きました。
「……とても美しい姫君ですよ」
助産婦さんの皺が目立つ手に抱かれ、全力で泣く赤子。くしゃくしゃで赤くて、見たことがない生き物なのに……口から出たのは「可愛い」の一言。声は掠れて、きっと私の顔も髪もぐしゃぐしゃ。初めて会うのに、母である私が綺麗じゃなくてごめんね。
胸の上に乗せてもらいました。泣き止まない赤子の髪色は、私より濃い蜂蜜のような色。大泣きして閉じた瞳の色は、私と同じ虹色でしょう。妖精姫の特徴ですもの。
「ありがとう、ヴィー。可愛い女の子だ、君そっくりの美女になるだろう」
「まぁ、求婚者が溢れて大変ね」
「絶対に嫁にはやらん」
うふふ、まだ産まれたばかりですよ。それならお婿さんを迎えたらいいと思うわ。この子はレードルンド辺境伯家に幸せをもたらす、天使なのだから。
窓の外はすでに暗く、私の出産は半日近くかかったようです。お手紙を書いたのは午後すぐでしたのに。疲れで瞼が重くなったところへ、夜のお客様が見えました。
「ロヴィーサ、我らの妖精姫。次の姫の誕生を祝福しよう。妖精王マーリンの加護と庇護を。すべての妖精達に愛される姫の誕生だ」
マーリン様の声を聞きながら、私は眠りに落ちました。なんとか起きていようと頑張った私の目に映ったのは、妖精達が粉を振りかける姿。お料理みたいに姫も美味しくなるのかしら。
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