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97.商人には手土産を、お料理には香辛料を
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商人は損得勘定が上手だわ。だからこそ、私に逆らう愚を理解できる。とても好意的に迎えていただきました。
「お美しい奥様、こちらの宝飾品はいかがでしょう」
「いえ、当店のドレスをぜひ」
「何をおっしゃる。我が商会自慢の家具を」
それぞれに商品の売り込みを始めた。挨拶が終われば、彼らにとって私はカモよね。元公爵令嬢という肩書だけでも、散財するイメージでしょう。実際、エールヴァール公爵家が年間に支払う経費は、王族に匹敵します。それが贅沢品ばかりではないと知っているのは、王都の商人ばかり。
いえ、どうやら王都と取引のある商人も混じっているようですね。彼らは距離を置いて、様子を窺っていました。
「砦に豪華な家具は不要ですし、宝石で飾っても敵の的になるばかり。煌びやかなドレスも同じね」
くすくす笑いながら退けました。でも大切な商人なので、そのまま手ぶらで返したりは致しません。そんな愚行を彼らは見逃さず、辺境伯家にお金がないと誤解されますもの。緊急時に全財産持って逃げる算段をされても困ります。
「鉱山をひとつ手に入れましたの。開発のために町を作ります。服やツルハシなどの道具、食料、宿……権利は入札で得てくださいね。数日以内に告知を出します」
告知は公平に行われる必要があるわ。砦の入り口に告知用の板を用意すると明言しました。今までにない取り組みに、彼らはすぐ食いつきます。一般的には情報が統制され、領主と懇意の商人だけが商売を許されました。そのためどれだけ賄賂を贈って、領主一家に気に入られるか。これは重要視されてきました。
今回はその慣習を破ったことになります。商売をする者なら、誰でも公平に機会が与えられるのですから。鉱山を開拓する工夫が集えば、宿や料理屋が出来て、日用品を販売する商店が現れます。自然と町が構築されるでしょう。
周知で手土産を持たせたので、今日は解散です。街をぐるりと見て歩き、いくつか小物を購入しました。気に入ったお店もあるので、お忍びで遊びに来たいですね。
アレクシス様と腕を組んで歩く私は、早めに屋敷へ戻りました。明日の朝食の準備があります。そわそわしながら顔を出すアレクシス様を執務室へ押し戻し、腕捲りをして食材を眺めました。
実際に剥いたり切るのは料理人にお任せします。エレンが心配そうに見ていますが、私の味付けは絶妙ですのよ。何しろお母様やお父様だけでなく、国王ご夫妻のお墨付きでした。
調味料の瓶や箱を手に取り、次から次へ、思うままに味を付けていきます。青ざめた料理人が止めようとして、転んだり、飛んできたお玉にぶつかっていました。あら、妖精達が集まっていますね。手伝ってくれるのかしら。
青い煙が立ち上っていますが、美味しそうな香りです。見た目は少し怖いですが、食べれば病みつきですわ。自信作のシチューは、騎士達に振る舞うよう手配しました。
明日の朝、是非とも堪能していただきたいわ。
「お美しい奥様、こちらの宝飾品はいかがでしょう」
「いえ、当店のドレスをぜひ」
「何をおっしゃる。我が商会自慢の家具を」
それぞれに商品の売り込みを始めた。挨拶が終われば、彼らにとって私はカモよね。元公爵令嬢という肩書だけでも、散財するイメージでしょう。実際、エールヴァール公爵家が年間に支払う経費は、王族に匹敵します。それが贅沢品ばかりではないと知っているのは、王都の商人ばかり。
いえ、どうやら王都と取引のある商人も混じっているようですね。彼らは距離を置いて、様子を窺っていました。
「砦に豪華な家具は不要ですし、宝石で飾っても敵の的になるばかり。煌びやかなドレスも同じね」
くすくす笑いながら退けました。でも大切な商人なので、そのまま手ぶらで返したりは致しません。そんな愚行を彼らは見逃さず、辺境伯家にお金がないと誤解されますもの。緊急時に全財産持って逃げる算段をされても困ります。
「鉱山をひとつ手に入れましたの。開発のために町を作ります。服やツルハシなどの道具、食料、宿……権利は入札で得てくださいね。数日以内に告知を出します」
告知は公平に行われる必要があるわ。砦の入り口に告知用の板を用意すると明言しました。今までにない取り組みに、彼らはすぐ食いつきます。一般的には情報が統制され、領主と懇意の商人だけが商売を許されました。そのためどれだけ賄賂を贈って、領主一家に気に入られるか。これは重要視されてきました。
今回はその慣習を破ったことになります。商売をする者なら、誰でも公平に機会が与えられるのですから。鉱山を開拓する工夫が集えば、宿や料理屋が出来て、日用品を販売する商店が現れます。自然と町が構築されるでしょう。
周知で手土産を持たせたので、今日は解散です。街をぐるりと見て歩き、いくつか小物を購入しました。気に入ったお店もあるので、お忍びで遊びに来たいですね。
アレクシス様と腕を組んで歩く私は、早めに屋敷へ戻りました。明日の朝食の準備があります。そわそわしながら顔を出すアレクシス様を執務室へ押し戻し、腕捲りをして食材を眺めました。
実際に剥いたり切るのは料理人にお任せします。エレンが心配そうに見ていますが、私の味付けは絶妙ですのよ。何しろお母様やお父様だけでなく、国王ご夫妻のお墨付きでした。
調味料の瓶や箱を手に取り、次から次へ、思うままに味を付けていきます。青ざめた料理人が止めようとして、転んだり、飛んできたお玉にぶつかっていました。あら、妖精達が集まっていますね。手伝ってくれるのかしら。
青い煙が立ち上っていますが、美味しそうな香りです。見た目は少し怖いですが、食べれば病みつきですわ。自信作のシチューは、騎士達に振る舞うよう手配しました。
明日の朝、是非とも堪能していただきたいわ。
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