上 下
96 / 113

96.騎士団は半裸の出迎え

しおりを挟む
 騎士団は上半身裸も多く、ゆるゆるとシャツを羽織る姿に首を傾げました。私が知っている騎士団と違うようです。そこそこ筋肉はついていますが、アレクシス様とは比べものになりませんね。もっと鍛えてもよいのでは?

 辺境は王都に比べて暑いので、シャツを脱いだのかしら。あっ! もしかしたら、シャツを汚さないように、脱いで訓練したのかも知れません。ならば咎めては可哀想です。奥様や恋人の洗濯の負担を減らそうとしたのではないかと思います。

「貴婦人の前だぞ!」

 叱るアレクシス様の腕を掴み、首を横に振りました。

「いけませんわ。そのように叱っては……きっと奥様や恋人のためですもの」

 途中説明を省いたので、怪訝そうな顔をするアレクシス様ですが、その場は収まりました。時間をずらしたゆっくりめの朝食で、アントンやニクラスから驚きの説明を受けました。

 半裸は、私を脅かすつもりで行ったとか。意味が分かりませんわ。きょとんとしながら、パンを口に入れます。もぐもぐ咀嚼する間に、意味がじわじわと理解できました。

 つまり都会育ちのお嬢様だから、からかうつもりだったのでは?

「奴らは厳しく罰する」

 むっとした口調のアレクシス様の口に、千切ったパンの残りを押し込みました。

「ダメですわ。私は気にしておりませんし、反感を買うのはアレクシス様です。笑って流すのが中央貴族と思われているなら、きっちりと私からお返ししましょう」

「……それが一番怖いんだ」

 パンを食べ終えたアレクシス様は、大きく息を吐き出しました。頭を抱える仕草は、さすがに大袈裟ですわ。サラダをつつきながら、私は微笑んでエレンを呼びました。

「明日から、騎士団の料理を私が作ります。そう通達してください」

 見る間に青ざめるエレンが震える声で「お、奥様が自ら?」と尋ねます。ふふっ、意味を理解してくれて嬉しいわ。そうよ、私が作るの。もちろん、料理人にも手伝っていただくけれど。

 何を恐れているのか。知らないアレクシス様は、尋ねる視線をエレンに向け、首を横に振られてしまいました。仕方なく家令のニクラスや執事アントンを見ますが、彼らも知らないのですから伝わりません。

「明日の朝が楽しみです」

「ご主人様、止めることをお勧めしますが、多分止まりません」

 エレンの不思議な忠告に、納得した顔のアレクシス様。きっと勘違いなさっているわ。でもその方が都合がいいので、私はにこにこしながら、果物を口に運びました。

「午後は街へ出るのでしたね。着替えますので、失礼します」

「ああ、準備を待っている」

「ありがとうございます」

 お忍び用のワンピースのように地味ではなく、高級品質を保ちながらもシンプルに。贅沢をする妻に見えないよう、品格を保ちながらも豪華すぎないドレスを選びました。

 装飾品は小さな宝石のついた首飾りをひとつ。耳は何も付けず、指輪に迷って手袋にしました。フリル付きですが、豪華なレースは最低限です。色はアレクシス様の青にしました。

 午後は街の商人が相手です。足元を見られないよう、交渉も含めてお役に立ってみせましょう。
しおりを挟む
感想 251

あなたにおすすめの小説

結婚結婚煩いので、愛人持ちの幼馴染と偽装結婚してみた

夏菜しの
恋愛
 幼馴染のルーカスの態度は、年頃になっても相変わらず気安い。  彼のその変わらぬ態度のお陰で、周りから男女の仲だと勘違いされて、公爵令嬢エーデルトラウトの相手はなかなか決まらない。  そんな現状をヤキモキしているというのに、ルーカスの方は素知らぬ顔。  彼は思いのままに平民の娘と恋人関係を持っていた。  いっそそのまま結婚してくれれば、噂は間違いだったと知れるのに、あちらもやっぱり公爵家で、平民との結婚など許さんと反対されていた。  のらりくらりと躱すがもう限界。  いよいよ親が煩くなってきたころ、ルーカスがやってきて『偽装結婚しないか?』と提案された。  彼の愛人を黙認する代わりに、贅沢と自由が得られる。  これで煩く言われないとすると、悪くない提案じゃない?  エーデルトラウトは軽い気持ちでその提案に乗った。

【完結】婚約者が好きなのです

maruko
恋愛
リリーベルの婚約者は誰にでも優しいオーラン・ドートル侯爵令息様。 でもそんな優しい婚約者がたった一人に対してだけ何故か冷たい。 冷たくされてるのはアリー・メーキリー侯爵令嬢。 彼の幼馴染だ。 そんなある日。偶然アリー様がこらえきれない涙を流すのを見てしまった。見つめる先には婚約者の姿。 私はどうすればいいのだろうか。 全34話(番外編含む) ※他サイトにも投稿しております ※1話〜4話までは文字数多めです 注)感想欄は全話読んでから閲覧ください(汗)

愛するつもりなぞないんでしょうから

真朱
恋愛
この国の姫は公爵令息と婚約していたが、隣国との和睦のため、一転して隣国の王子の許へ嫁ぐことになった。余計ないざこざを防ぐべく、姫の元婚約者の公爵令息は王命でさくっと婚姻させられることになり、その相手として白羽の矢が立ったのは辺境伯家の二女・ディアナだった。「可憐な姫の後が、脳筋な辺境伯んとこの娘って、公爵令息かわいそうに…。これはあれでしょ?『お前を愛するつもりはない!』ってやつでしょ?」  期待も遠慮も捨ててる新妻ディアナと、好青年の仮面をひっ剥がされていく旦那様ラキルスの、『明日はどっちだ』な夫婦のお話。    ※なんちゃって異世界です。なんでもあり、ご都合主義をご容赦ください。  ※新婚夫婦のお話ですが色っぽさゼロです。Rは物騒な方です。  ※ざまあのお話ではありません。軽い読み物とご理解いただけると幸いです。 ※おまけ更新中です。

つかぬことをお伺いいたしますが、私はお飾りの妻ですよね?

恋愛
少しネガティブな天然鈍感辺境伯令嬢と目つきが悪く恋愛に関してはポンコツコミュ障公爵令息のコミュニケーションエラー必至の爆笑(?)すれ違いラブコメ! ランツベルク辺境伯令嬢ローザリンデは優秀な兄弟姉妹に囲まれて少し自信を持てずにいた。そんなローザリンデを夜会でエスコートしたいと申し出たのはオルデンブルク公爵令息ルートヴィヒ。そして複数回のエスコートを経て、ルートヴィヒとの結婚が決まるローザリンデ。しかし、ルートヴィヒには身分違いだが恋仲の女性がいる噂をローザリンデは知っていた。 エーベルシュタイン女男爵であるハイデマリー。彼女こそ、ルートヴィヒの恋人である。しかし上級貴族と下級貴族の結婚は許されていない上、ハイデマリーは既婚者である。 ローザリンデは自分がお飾りの妻だと理解した。その上でルートヴィヒとの結婚を受け入れる。ランツベルク家としても、筆頭公爵家であるオルデンブルク家と繋がりを持てることは有益なのだ。 しかし結婚後、ルートヴィヒの様子が明らかにおかしい。ローザリンデはルートヴィヒからお菓子、花、アクセサリー、更にはドレスまでことあるごとにプレゼントされる。プレゼントの量はどんどん増える。流石にこれはおかしいと思ったローザリンデはある日の夜会で聞いてみる。 「つかぬことをお伺いいたしますが、私はお飾りの妻ですよね?」 するとルートヴィヒからは予想外の返事があった。 小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします

暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。 いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。 子を身ごもってからでは遅いのです。 あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」 伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。 女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。 妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。 だから恥じた。 「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。 本当に恥ずかしい… 私は潔く身を引くことにしますわ………」 そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。 「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。 私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。 手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。 そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」 こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

そう言うと思ってた

mios
恋愛
公爵令息のアランは馬鹿ではない。ちゃんとわかっていた。自分が夢中になっているアナスタシアが自分をそれほど好きでないことも、自分の婚約者であるカリナが自分を愛していることも。 ※いつものように視点がバラバラします。

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...