87 / 113
87.教えていただいた作法と違いますが
しおりを挟む
捕えられたのは、私へ求婚した十二名でした。全員が貴族です。今回は王族の暴走はありませんでした。さすがに各国が本気で押さえにかかったようです。今後は騒動を起こさない旨の誓いを立てる国も現れました。
全部で八カ国に及ぶ乱入者の処分は、お父様にお任せします。お兄様も物騒な笑みを浮かべておられましたし、女騎士でもあるお義姉様も「目にもの見せてくれる」と気合十分ですね。お任せしますわ。無言のお母様が一番怖いですけれど。
国王陛下がご用意くださった離宮の祭壇で結婚式を挙げ、エールヴァール公爵家の広間でお披露目をします。公爵家に王族が嫁ぐ時と同じ扱いですわね。ペトロネラの名はそれだけの価値があります。
先にお式で乱入されたので、お披露目は落ち着いたものでした。国王陛下は限界を超えて飲み過ぎ、用意されたソファーにぐったり懐いておられます。王妃殿下が他国の来賓のお相手をなさっていますが、ほとんどの国は押され気味でした。
自国から祝いの使者を出したのに、侯爵令息が突入した国は平身低頭謝っています。お母様と王妃殿下が、笑顔で応対していました。賠償で国境の森を要求するとか。漏れ聞こえるお話がやや物騒ですわ。
お義姉様から受け取ったお酒に口をつけようとしたら、アレクシス様が奪って干してしまわれました。残念ですが、花嫁は飲まない方がいいそうです。エレンやお母様にしっかり釘を刺されたので、諦めることにしました。
多少のお酒は平気と思ったのですが、夜這いをする作法に反するのでしょうか。ああ、もう正式な夫婦なので閨と呼ぶのでした。今夜がとても楽しみです。腕を組んだアレクシス様と挨拶に回りました。幸せを示すため、笑顔はずっと浮かべております。いえ、勝手に浮かんできました。
軽食を挟んで夕暮れになると、来賓の半数は引き上げます。ここから先は付き合いのある貴族や親族が残る予定でした。私達は国王ご夫妻と家族に挨拶をして、レードルンドの屋敷へ戻ります。
まだ夕暮れで暗くなる前に、沿道から祝福されながら馬車に揺られて帰宅しました。そう、もう私の家はレードルンド辺境伯家で、これからはアレクシス様の元へ帰るのです。公的に認められた夫婦の肩書きが、とても嬉しく感じました。
お屋敷でのお披露目は夕食の間に行います。普段は同席しない執事や侍女、騎士様も食堂に集まり、一緒に食べて笑い合いました。これは辺境伯家の伝統だそうです。
夜闇が窓の外を暗く染める頃、私はアレクシス様に抱き上げられました。お姫様抱っこですわね。ひょいっと軽そうに持ち上げられたので、びっくりしてしがみついたまま。階段を登っていきます。
「えっと、アレクシス様。お風呂を先に」
「待てない」
「でも汗をかいておりますわ」
「知っている」
「汚いんですのよ?」
「ヴィーは綺麗だ」
どうしましょう。教えていただいた閨の作法と違います。でも夜這いの時もそうでしたが、ベッドに横たわったら殿方にすべてお任せすると教わりました。少し乱暴に扉を開いた夫が、驚いて足を止めます。
ああ、エレンが用意してくれたのね。アレクシス様のベッドは間接照明に淡く照らされ、花びらが散っていました。サイドテーブルにはシャンパンが冷やされ、あの小瓶は香油でしょうか。
一瞬固まったけれど、アレクシス様は私をベッドに下ろしてしまいました。こうなったら殿方のなさるまま。抵抗せず身も心も捧げるのです。
「アレクシス様、大好きです。愛しておりますわ」
薄絹のレースたっぷり夜着は間に合いません。化粧も落としていませんし、お風呂もまだです。それでも……私のやるべきことはひとつ。
傷のある頬に口付け、唇へのキスを待ちながら……愛しい人の首に回した腕を引き寄せました。
全部で八カ国に及ぶ乱入者の処分は、お父様にお任せします。お兄様も物騒な笑みを浮かべておられましたし、女騎士でもあるお義姉様も「目にもの見せてくれる」と気合十分ですね。お任せしますわ。無言のお母様が一番怖いですけれど。
国王陛下がご用意くださった離宮の祭壇で結婚式を挙げ、エールヴァール公爵家の広間でお披露目をします。公爵家に王族が嫁ぐ時と同じ扱いですわね。ペトロネラの名はそれだけの価値があります。
先にお式で乱入されたので、お披露目は落ち着いたものでした。国王陛下は限界を超えて飲み過ぎ、用意されたソファーにぐったり懐いておられます。王妃殿下が他国の来賓のお相手をなさっていますが、ほとんどの国は押され気味でした。
自国から祝いの使者を出したのに、侯爵令息が突入した国は平身低頭謝っています。お母様と王妃殿下が、笑顔で応対していました。賠償で国境の森を要求するとか。漏れ聞こえるお話がやや物騒ですわ。
お義姉様から受け取ったお酒に口をつけようとしたら、アレクシス様が奪って干してしまわれました。残念ですが、花嫁は飲まない方がいいそうです。エレンやお母様にしっかり釘を刺されたので、諦めることにしました。
多少のお酒は平気と思ったのですが、夜這いをする作法に反するのでしょうか。ああ、もう正式な夫婦なので閨と呼ぶのでした。今夜がとても楽しみです。腕を組んだアレクシス様と挨拶に回りました。幸せを示すため、笑顔はずっと浮かべております。いえ、勝手に浮かんできました。
軽食を挟んで夕暮れになると、来賓の半数は引き上げます。ここから先は付き合いのある貴族や親族が残る予定でした。私達は国王ご夫妻と家族に挨拶をして、レードルンドの屋敷へ戻ります。
まだ夕暮れで暗くなる前に、沿道から祝福されながら馬車に揺られて帰宅しました。そう、もう私の家はレードルンド辺境伯家で、これからはアレクシス様の元へ帰るのです。公的に認められた夫婦の肩書きが、とても嬉しく感じました。
お屋敷でのお披露目は夕食の間に行います。普段は同席しない執事や侍女、騎士様も食堂に集まり、一緒に食べて笑い合いました。これは辺境伯家の伝統だそうです。
夜闇が窓の外を暗く染める頃、私はアレクシス様に抱き上げられました。お姫様抱っこですわね。ひょいっと軽そうに持ち上げられたので、びっくりしてしがみついたまま。階段を登っていきます。
「えっと、アレクシス様。お風呂を先に」
「待てない」
「でも汗をかいておりますわ」
「知っている」
「汚いんですのよ?」
「ヴィーは綺麗だ」
どうしましょう。教えていただいた閨の作法と違います。でも夜這いの時もそうでしたが、ベッドに横たわったら殿方にすべてお任せすると教わりました。少し乱暴に扉を開いた夫が、驚いて足を止めます。
ああ、エレンが用意してくれたのね。アレクシス様のベッドは間接照明に淡く照らされ、花びらが散っていました。サイドテーブルにはシャンパンが冷やされ、あの小瓶は香油でしょうか。
一瞬固まったけれど、アレクシス様は私をベッドに下ろしてしまいました。こうなったら殿方のなさるまま。抵抗せず身も心も捧げるのです。
「アレクシス様、大好きです。愛しておりますわ」
薄絹のレースたっぷり夜着は間に合いません。化粧も落としていませんし、お風呂もまだです。それでも……私のやるべきことはひとつ。
傷のある頬に口付け、唇へのキスを待ちながら……愛しい人の首に回した腕を引き寄せました。
16
お気に入りに追加
889
あなたにおすすめの小説
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
麗しの王子殿下は今日も私を睨みつける。
スズキアカネ
恋愛
「王子殿下の運命の相手を占いで決めるそうだから、レオーネ、あなたが選ばれるかもしれないわよ」
伯母の一声で連れて行かれた王宮広場にはたくさんの若い女の子たちで溢れかえっていた。
そしてバルコニーに立つのは麗しい王子様。
──あの、王子様……何故睨むんですか?
人違いに決まってるからそんなに怒らないでよぉ!
◇◆◇
無断転載・転用禁止。
Do not repost.
命を狙われたお飾り妃の最後の願い
幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】
重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。
イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。
短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。
『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。
放蕩公爵と、いたいけ令嬢
たつみ
恋愛
公爵令嬢のシェルニティは、両親からも夫からも、ほとんど「いない者」扱い。
彼女は、右頬に大きな痣があり、外見重視の貴族には受け入れてもらえずにいた。
夫が側室を迎えた日、自分が「不要な存在」だと気づき、彼女は滝に身を投げる。
が、気づけば、見知らぬ男性に抱きかかえられ、死にきれないまま彼の家に。
その後、屋敷に戻るも、彼と会う日が続く中、突然、夫に婚姻解消を申し立てられる。
審議の場で「不義」の汚名を着せられかけた時、現れたのは、彼だった!
「いけないねえ。当事者を、1人、忘れて審議を開いてしまうなんて」
◇◇◇◇◇
設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。
本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。
それを踏まえて、お読み頂ければと思います、なにとぞ。
R-Kingdom_8
他サイトでも掲載しています。
【完結】私の初めての恋人は、とても最低な人でした。
Rohdea
恋愛
──私の初めての恋人は、私を騙してた。
あなただけは違うと……信じていたのに──
「ゆくゆくはこのまま彼女と結婚して、彼女にはお飾りの妻になってもらうつもりだ」
その日、私は交際して間もない恋人の本音を聞いてしまった。
彼、ウォレスには私じゃない好きな人が別にいて、
最初から彼は私を騙していて、その平民の彼女と結ばれる為に私を利用しようとしていただけだった……
──……両親と兄の影響で素敵な恋に憧れていた、
エリート養成校と呼ばれるシュテルン王立学校に通う伯爵令嬢のエマーソンは、
今年の首席卒業の座も、間違い無し! で、恋も勉強も順風満帆な学校生活を送っていた。
しかしある日、初めての恋人、ウォレスに騙されていた事を知ってしまう。
──悔しい! 痛い目を見せてやりたい! 彼を見返して復讐してやるわ!
そう心に誓って、復讐計画を練ろうとするエマーソン。
だけど、そんなエマーソンの前に現れたのは……
※『私の好きな人には、忘れられない人がいる。』 『私は、顔も名前も知らない人に恋をした。』
“私の好きな人~”のカップルの娘であり、“顔も名前も~”のヒーローの妹、エマーソンのお話です。
完)嫁いだつもりでしたがメイドに間違われています
オリハルコン陸
恋愛
嫁いだはずなのに、格好のせいか本気でメイドと勘違いされた貧乏令嬢。そのままうっかりメイドとして馴染んで、その生活を楽しみ始めてしまいます。
◇◇◇◇◇◇◇
「オマケのようでオマケじゃない〜」では、本編の小話や後日談というかたちでまだ語られてない部分を補完しています。
14回恋愛大賞奨励賞受賞しました!
これも読んでくださったり投票してくださった皆様のおかげです。
ありがとうございました!
ざっくりと見直し終わりました。完璧じゃないけど、とりあえずこれで。
この後本格的に手直し予定。(多分時間がかかります)
白い結婚は無理でした(涙)
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。
明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。
白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。
どうぞよろしくお願いいたします。
私を拒絶した王太子をギャフンと言わせるために頑張って来たのですが…何やら雲行きが怪しいです
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のセイラは、子供の頃からずっと好きだった王太子、ライムの婚約者選びの為のお茶会に意気揚々と参加した。そんな中ライムが、母親でもある王妃に
「セイラだけは嫌だ。彼女以外ならどんな女性でも構わない。だから、セイラ以外の女性を選ばせてほしい」
と必死に訴えている姿を目撃し、ショックを受ける。さらに王宮使用人たちの話を聞き、自分がいかに皆から嫌われているかを思い知らされる。
確かに私は少し我が儘で気も強い。でも、だからってそこまで嫌がらなくても…悔しくて涙を流すセイラ。
でも、セイラはそこで諦める様な軟な女性ではなかった。
「そこまで私が嫌いなら、完璧な女性になってライムをギャフンと言わせていやる!」
この日から、セイラの王太子をギャフンと言わせる大作戦が始まる。
他サイトでも投稿しています。
※少し長くなりそうなので、長編に変えました。
よろしくお願いいたしますm(__)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる