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87.教えていただいた作法と違いますが

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 捕えられたのは、私へ求婚した十二名でした。全員が貴族です。今回は王族の暴走はありませんでした。さすがに各国が本気で押さえにかかったようです。今後は騒動を起こさない旨の誓いを立てる国も現れました。

 全部で八カ国に及ぶ乱入者の処分は、お父様にお任せします。お兄様も物騒な笑みを浮かべておられましたし、女騎士でもあるお義姉様も「目にもの見せてくれる」と気合十分ですね。お任せしますわ。無言のお母様が一番怖いですけれど。

 国王陛下がご用意くださった離宮の祭壇で結婚式を挙げ、エールヴァール公爵家の広間でお披露目をします。公爵家に王族が嫁ぐ時と同じ扱いですわね。ペトロネラの名はそれだけの価値があります。

 先にお式で乱入されたので、お披露目は落ち着いたものでした。国王陛下は限界を超えて飲み過ぎ、用意されたソファーにぐったり懐いておられます。王妃殿下が他国の来賓のお相手をなさっていますが、ほとんどの国は押され気味でした。

 自国から祝いの使者を出したのに、侯爵令息が突入した国は平身低頭謝っています。お母様と王妃殿下が、笑顔で応対していました。賠償で国境の森を要求するとか。漏れ聞こえるお話がやや物騒ですわ。

 お義姉様から受け取ったお酒に口をつけようとしたら、アレクシス様が奪って干してしまわれました。残念ですが、花嫁は飲まない方がいいそうです。エレンやお母様にしっかり釘を刺されたので、諦めることにしました。

 多少のお酒は平気と思ったのですが、夜這いをする作法に反するのでしょうか。ああ、もう正式な夫婦なので閨と呼ぶのでした。今夜がとても楽しみです。腕を組んだアレクシス様と挨拶に回りました。幸せを示すため、笑顔はずっと浮かべております。いえ、勝手に浮かんできました。

 軽食を挟んで夕暮れになると、来賓の半数は引き上げます。ここから先は付き合いのある貴族や親族が残る予定でした。私達は国王ご夫妻と家族に挨拶をして、レードルンドの屋敷へ戻ります。

 まだ夕暮れで暗くなる前に、沿道から祝福されながら馬車に揺られて帰宅しました。そう、もう私の家はレードルンド辺境伯家で、これからはアレクシス様の元へ帰るのです。公的に認められた夫婦の肩書きが、とても嬉しく感じました。

 お屋敷でのお披露目は夕食の間に行います。普段は同席しない執事や侍女、騎士様も食堂に集まり、一緒に食べて笑い合いました。これは辺境伯家の伝統だそうです。

 夜闇が窓の外を暗く染める頃、私はアレクシス様に抱き上げられました。お姫様抱っこですわね。ひょいっと軽そうに持ち上げられたので、びっくりしてしがみついたまま。階段を登っていきます。

「えっと、アレクシス様。お風呂を先に」

「待てない」

「でも汗をかいておりますわ」

「知っている」

「汚いんですのよ?」

「ヴィーは綺麗だ」

 どうしましょう。教えていただいた閨の作法と違います。でも夜這いの時もそうでしたが、ベッドに横たわったら殿方にすべてお任せすると教わりました。少し乱暴に扉を開いた夫が、驚いて足を止めます。

 ああ、エレンが用意してくれたのね。アレクシス様のベッドは間接照明に淡く照らされ、花びらが散っていました。サイドテーブルにはシャンパンが冷やされ、あの小瓶は香油でしょうか。

 一瞬固まったけれど、アレクシス様は私をベッドに下ろしてしまいました。こうなったら殿方のなさるまま。抵抗せず身も心も捧げるのです。

「アレクシス様、大好きです。愛しておりますわ」

 薄絹のレースたっぷり夜着は間に合いません。化粧も落としていませんし、お風呂もまだです。それでも……私のやるべきことはひとつ。

 傷のある頬に口付け、唇へのキスを待ちながら……愛しい人の首に回した腕を引き寄せました。
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