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80.間違いなく兄妹だな――辺境伯
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「ほんっとうに済まないと思っている。対策の手は打った」
夜這いに固執する婚約者……いや、事情がありすでに妻なのだが。彼女が毎夜暴走するのは困る。そのため義兄殿に相談したのだが、両手を合わせて拝まれてしまった。
ヴィーの暴走を止めてくれるよう、頼みに寄ったのだが。義母殿と義父殿はあいにく留守だった。応接室ではなく、居間に通された俺は溜め息を吐く。
「義父殿に止められていなければ……とっくに」
「そこは諦めて欲しい。頑固だから説得する間に、結婚式になると思う」
それは確かに頑固だ。あと二週間弱、我慢できるだろうか。天を仰ぐ俺の肩を、義兄殿がぽんと叩いた。
「あれでいて知識だけの頭でっかちだ。お詫びに持参金を弾んでおいたから、許して欲しい」
知識豊富だと本人が思い込んでいるが、実際は机上の空論が多い。耳年増と表現するのが近いか。外交は多少知っているようでも、戦や閨の知識は散々だった。それでいて行動力だけは人一倍なのだから、周囲は振り回されっぱなしだ。
「……はぁ、俺が堪えられなかったら、擁護してください」
「それは無理」
よほど義父殿は厳しいと見える。どちらの味方か問い質したくなる義兄殿は、暴発したら敵に回るつもりのようだ。あれだけの美女が薄着で迫ってきて、本来は妻なので手を出してもいいはずの状況。それをぐっと堪えて逃げるのは、ひどく辛かった。
いつ暴発して押し倒してもおかしくない。だが今後の長い人生を考えれば、義父殿や義兄殿と険悪になるのは避けたかった。実家にいた頃は家族に価値を見出せなかったが、この一家は別だ。野良犬のような俺を受け入れ、家族の一員として認めてくれる。
話すときに遠慮がないのも嬉しかった。この身を案じる義母殿の言葉も初めての経験だ。この家族の一員として、期待を裏切りたくない思いは強かった。愛しい女性の願いを先延ばしにするくらいには……失いたくない。
「なぁ……断った後隣で眠るんだろう? よく、その……大丈夫なのか」
心底心配そうに尋ねる義兄殿の整った顔は、愛しい妻ヴィーによく似ている。だからこそ、その顔でその質問をする彼に「ああ、間違いなく兄妹だな」と感じた。殴られても文句が言えないぞ。
大きく息を吐き出した後、にやりと笑った。わざと顔の傷が目立つ角度で、傷になった唇の位置まで計算して。見せつけるための笑顔を浮かべる。びくりと肩を揺らした義兄殿に、一言。
「大丈夫か、だと?」
「すまん。今のは撤回しよう」
これが交渉ごとなら、彼は優秀な公爵家嫡男として切り抜けるのだろう。いや、そもそも失言などしないか。身内相手に気を抜いている、そう考えれば悪い気はしなかった。
「ドレスも会場も料理もすべて揃った。来賓の選別も終わったし、あとは時間が全てを解決してくれるはずだ。頼むから、暴発しないでくれ」
戯けた口調で俺の股間を拝む仕草をする義兄殿に、久しぶりの大笑いした。鍛えた腹筋だが、翌日筋肉痛になる心配をする程。心の底から大笑いし、こんなに笑ったのは傷を負って以来だと気付く。
なるほど、義兄殿は優秀な公爵になるだろう。ならば、俺もエールヴァール公爵家に相応しい家庭を築こう。レードルンド辺境伯家と縁を繋いで正解だったと思われるように。
夜這いに固執する婚約者……いや、事情がありすでに妻なのだが。彼女が毎夜暴走するのは困る。そのため義兄殿に相談したのだが、両手を合わせて拝まれてしまった。
ヴィーの暴走を止めてくれるよう、頼みに寄ったのだが。義母殿と義父殿はあいにく留守だった。応接室ではなく、居間に通された俺は溜め息を吐く。
「義父殿に止められていなければ……とっくに」
「そこは諦めて欲しい。頑固だから説得する間に、結婚式になると思う」
それは確かに頑固だ。あと二週間弱、我慢できるだろうか。天を仰ぐ俺の肩を、義兄殿がぽんと叩いた。
「あれでいて知識だけの頭でっかちだ。お詫びに持参金を弾んでおいたから、許して欲しい」
知識豊富だと本人が思い込んでいるが、実際は机上の空論が多い。耳年増と表現するのが近いか。外交は多少知っているようでも、戦や閨の知識は散々だった。それでいて行動力だけは人一倍なのだから、周囲は振り回されっぱなしだ。
「……はぁ、俺が堪えられなかったら、擁護してください」
「それは無理」
よほど義父殿は厳しいと見える。どちらの味方か問い質したくなる義兄殿は、暴発したら敵に回るつもりのようだ。あれだけの美女が薄着で迫ってきて、本来は妻なので手を出してもいいはずの状況。それをぐっと堪えて逃げるのは、ひどく辛かった。
いつ暴発して押し倒してもおかしくない。だが今後の長い人生を考えれば、義父殿や義兄殿と険悪になるのは避けたかった。実家にいた頃は家族に価値を見出せなかったが、この一家は別だ。野良犬のような俺を受け入れ、家族の一員として認めてくれる。
話すときに遠慮がないのも嬉しかった。この身を案じる義母殿の言葉も初めての経験だ。この家族の一員として、期待を裏切りたくない思いは強かった。愛しい女性の願いを先延ばしにするくらいには……失いたくない。
「なぁ……断った後隣で眠るんだろう? よく、その……大丈夫なのか」
心底心配そうに尋ねる義兄殿の整った顔は、愛しい妻ヴィーによく似ている。だからこそ、その顔でその質問をする彼に「ああ、間違いなく兄妹だな」と感じた。殴られても文句が言えないぞ。
大きく息を吐き出した後、にやりと笑った。わざと顔の傷が目立つ角度で、傷になった唇の位置まで計算して。見せつけるための笑顔を浮かべる。びくりと肩を揺らした義兄殿に、一言。
「大丈夫か、だと?」
「すまん。今のは撤回しよう」
これが交渉ごとなら、彼は優秀な公爵家嫡男として切り抜けるのだろう。いや、そもそも失言などしないか。身内相手に気を抜いている、そう考えれば悪い気はしなかった。
「ドレスも会場も料理もすべて揃った。来賓の選別も終わったし、あとは時間が全てを解決してくれるはずだ。頼むから、暴発しないでくれ」
戯けた口調で俺の股間を拝む仕草をする義兄殿に、久しぶりの大笑いした。鍛えた腹筋だが、翌日筋肉痛になる心配をする程。心の底から大笑いし、こんなに笑ったのは傷を負って以来だと気付く。
なるほど、義兄殿は優秀な公爵になるだろう。ならば、俺もエールヴァール公爵家に相応しい家庭を築こう。レードルンド辺境伯家と縁を繋いで正解だったと思われるように。
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