77 / 113
77.決闘を受けて立つ
しおりを挟む
囮用の派手なドレスを纏い、私は目立つ位置に立ちました。ある意味敵の目を引きつける役目ですね。
到着した軍船は八隻、王子の我が侭に付き合う限界が、この辺りでしょうか。帝国の皇帝陛下の苦労が偲ばれます。そうそう、この王子様ですが……実は皇帝陛下のお子ではありません。正確には甥っ子ですね。
帝国の威光を笠に着ていますが、あくまで属国の王子様です。王太子でもないので、属国の国王になる未来もございません。
偉そうに船の上から命じますが、声が届きませんでした。喚き散らす姿をぼんやり見ておりましたら、小舟に乗ってこちらに渡ってきました。基本、おバカなのですね。宣戦布告同然で乗り込んだ国へ、軍船を降りて指揮官が交渉に来てはいけません。このくらい、私でも存じておりますわ。
上陸する際は、我が国の兵士の腕力を借りる情けなさ。もう呆れてしまい言葉がございません。まあ、有能すぎる方でなくて、良かったと思うべきでしょうか。作戦を見抜かれる心配は消えました。
「妖精姫を渡せ」
「お断りする」
きりっとした顔で答えるのは国王陛下でなく、夫であるアレクシス様です。まあ当然でしょう。私は現在人妻ですので。
「お前は誰だ」
「……アレクシス・レードルンドだ」
「竜殺しの英雄で、私の旦那様ですのよ」
きゃっとはしゃいで、アレクシス様の腕に絡みつきます。と同時に、お母様の許可が下りました。目配せでの合図に従い、彼の頬にちゅっとキスをします。
「ぐぁああ! 離れろ、妖精姫。そなたの夫はこの私だ」
「いいえ、すでに入籍済みですわ。私が惚れて望んだ夫です」
ここで公然と引導を渡されて帰るなら、それもよし。ヘンスラー帝国の面子はぎりぎり保たれます。人妻だと知らなかった、そう言えば終わりに出来るんですもの。それができるお利口さんなら、このような愚行は起こしませんが。
私の予想を裏付けるように、地団駄を踏んで騒ぐ王子。呆れ顔はこちらだけでなく、敵国側もでした。マントをつけた護衛らしき男性が「人妻では仕方ありません」と宥めるも、王子は聞きません。
「お帰りになった方がよろしいでしょう。妖精姫の名前は伊達ではございませんのよ」
きっちり一度目の警告を行います。これは妖精王様からのご指示でした。警告は二度行い、それらを拒んだり無視された場合に最終手段に出る。
私の周囲で、妖精達が騒ぎ始めました。ヘンスラー帝国の船に何かあるようですね。
「絶対に連れ帰る! たとえ戦になっても構わない」
えっ? そんな顔の将兵の士気は低いです。他人の色恋の騒動で、命を散らしたくないでしょう。至極当然の反応でした。でも気に入らない王子は、今すぐ突撃しろと騒ぎ立てます。二度目の警告を口にしました。
「私はアレクシス様の妻、昨夜も熱く抱き締めてもらって過ごしました。あなたの入り込む隙はありませんわ」
「そ、その話は……人前でするものではない」
真っ赤になって焦るアレクシス様の姿に、後ろでお兄様が「うわぁ、寝室事情が筒抜け」と顔を顰めました。でもお母様は「いいわ、もっと言ってやりなさい」と応援していますし、王妃殿下も「止めを刺しておしまい」と背中を押してくださいました。
「その男を殺して奪う」
宣言と同時に、王子は剣を抜きました。鞘を払って剣先を向けるということは、完全に宣戦布告と見做されます。応援に駆け付けた周辺国の王族の護衛が、警戒を露わに柄に手をかけました。
一触即発でしたか? 一生のうちでこの言葉を使う日が来るとは思いませんでしたわ。
「決闘を受けて立つ」
アレクシス様が背負った大剣を一息で抜きました。竜と戦った際に彼を守った相棒です。抜き去る動きで技量を察し、味方は無言で数歩下がりました。
到着した軍船は八隻、王子の我が侭に付き合う限界が、この辺りでしょうか。帝国の皇帝陛下の苦労が偲ばれます。そうそう、この王子様ですが……実は皇帝陛下のお子ではありません。正確には甥っ子ですね。
帝国の威光を笠に着ていますが、あくまで属国の王子様です。王太子でもないので、属国の国王になる未来もございません。
偉そうに船の上から命じますが、声が届きませんでした。喚き散らす姿をぼんやり見ておりましたら、小舟に乗ってこちらに渡ってきました。基本、おバカなのですね。宣戦布告同然で乗り込んだ国へ、軍船を降りて指揮官が交渉に来てはいけません。このくらい、私でも存じておりますわ。
上陸する際は、我が国の兵士の腕力を借りる情けなさ。もう呆れてしまい言葉がございません。まあ、有能すぎる方でなくて、良かったと思うべきでしょうか。作戦を見抜かれる心配は消えました。
「妖精姫を渡せ」
「お断りする」
きりっとした顔で答えるのは国王陛下でなく、夫であるアレクシス様です。まあ当然でしょう。私は現在人妻ですので。
「お前は誰だ」
「……アレクシス・レードルンドだ」
「竜殺しの英雄で、私の旦那様ですのよ」
きゃっとはしゃいで、アレクシス様の腕に絡みつきます。と同時に、お母様の許可が下りました。目配せでの合図に従い、彼の頬にちゅっとキスをします。
「ぐぁああ! 離れろ、妖精姫。そなたの夫はこの私だ」
「いいえ、すでに入籍済みですわ。私が惚れて望んだ夫です」
ここで公然と引導を渡されて帰るなら、それもよし。ヘンスラー帝国の面子はぎりぎり保たれます。人妻だと知らなかった、そう言えば終わりに出来るんですもの。それができるお利口さんなら、このような愚行は起こしませんが。
私の予想を裏付けるように、地団駄を踏んで騒ぐ王子。呆れ顔はこちらだけでなく、敵国側もでした。マントをつけた護衛らしき男性が「人妻では仕方ありません」と宥めるも、王子は聞きません。
「お帰りになった方がよろしいでしょう。妖精姫の名前は伊達ではございませんのよ」
きっちり一度目の警告を行います。これは妖精王様からのご指示でした。警告は二度行い、それらを拒んだり無視された場合に最終手段に出る。
私の周囲で、妖精達が騒ぎ始めました。ヘンスラー帝国の船に何かあるようですね。
「絶対に連れ帰る! たとえ戦になっても構わない」
えっ? そんな顔の将兵の士気は低いです。他人の色恋の騒動で、命を散らしたくないでしょう。至極当然の反応でした。でも気に入らない王子は、今すぐ突撃しろと騒ぎ立てます。二度目の警告を口にしました。
「私はアレクシス様の妻、昨夜も熱く抱き締めてもらって過ごしました。あなたの入り込む隙はありませんわ」
「そ、その話は……人前でするものではない」
真っ赤になって焦るアレクシス様の姿に、後ろでお兄様が「うわぁ、寝室事情が筒抜け」と顔を顰めました。でもお母様は「いいわ、もっと言ってやりなさい」と応援していますし、王妃殿下も「止めを刺しておしまい」と背中を押してくださいました。
「その男を殺して奪う」
宣言と同時に、王子は剣を抜きました。鞘を払って剣先を向けるということは、完全に宣戦布告と見做されます。応援に駆け付けた周辺国の王族の護衛が、警戒を露わに柄に手をかけました。
一触即発でしたか? 一生のうちでこの言葉を使う日が来るとは思いませんでしたわ。
「決闘を受けて立つ」
アレクシス様が背負った大剣を一息で抜きました。竜と戦った際に彼を守った相棒です。抜き去る動きで技量を察し、味方は無言で数歩下がりました。
12
お気に入りに追加
888
あなたにおすすめの小説
愛すべきマリア
志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。
学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。
家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。
早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。
頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。
その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。
体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。
しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。
他サイトでも掲載しています。
表紙は写真ACより転載しました。
【完結】溺愛婚約者の裏の顔 ~そろそろ婚約破棄してくれませんか~
瀬里
恋愛
(なろうの異世界恋愛ジャンルで日刊7位頂きました)
ニナには、幼い頃からの婚約者がいる。
3歳年下のティーノ様だ。
本人に「お前が行き遅れになった頃に終わりだ」と宣言されるような、典型的な「婚約破棄前提の格差婚約」だ。
行き遅れになる前に何とか婚約破棄できないかと頑張ってはみるが、うまくいかず、最近ではもうそれもいいか、と半ばあきらめている。
なぜなら、現在16歳のティーノ様は、匂いたつような色香と初々しさとを併せ持つ、美青年へと成長してしまったのだ。おまけに人前では、誰もがうらやむような溺愛ぶりだ。それが偽物だったとしても、こんな風に夢を見させてもらえる体験なんて、そうそうできやしない。
もちろん人前でだけで、裏ではひどいものだけど。
そんな中、第三王女殿下が、ティーノ様をお気に召したらしいという噂が飛び込んできて、あきらめかけていた婚約破棄がかなうかもしれないと、ニナは行動を起こすことにするのだが――。
全7話の短編です 完結確約です。
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
【完結】優しくて大好きな夫が私に隠していたこと
暁
恋愛
陽も沈み始めた森の中。
獲物を追っていた寡黙な猟師ローランドは、奥地で偶然見つけた泉で“とんでもない者”と遭遇してしまう。
それは、裸で水浴びをする綺麗な女性だった。
何とかしてその女性を“お嫁さんにしたい”と思い立った彼は、ある行動に出るのだが――。
※
・当方気を付けておりますが、誤字脱字を発見されましたらご遠慮なくご指摘願います。
・★が付く話には性的表現がございます。ご了承下さい。
【完結】長い眠りのその後で
maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。
でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。
いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう?
このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!!
どうして旦那様はずっと眠ってるの?
唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。
しょうがないアディル頑張りまーす!!
複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です
全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む)
※他サイトでも投稿しております
ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです
実在しないのかもしれない
真朱
恋愛
実家の小さい商会を仕切っているロゼリエに、お見合いの話が舞い込んだ。相手は大きな商会を営む伯爵家のご嫡男。が、お見合いの席に相手はいなかった。「極度の人見知りのため、直接顔を見せることが難しい」なんて無茶な理由でいつまでも逃げ回る伯爵家。お見合い相手とやら、もしかして実在しない・・・?
※異世界か不明ですが、中世ヨーロッパ風の架空の国のお話です。
※細かく設定しておりませんので、何でもあり・ご都合主義をご容赦ください。
※内輪でドタバタしてるだけの、高い山も深い谷もない平和なお話です。何かすみません。
あなたに忘れられない人がいても――公爵家のご令息と契約結婚する運びとなりました!――
おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
※1/1アメリアとシャーロックの長女ルイーズの恋物語「【R18】犬猿の仲の幼馴染は嘘の婚約者」が完結しましたので、ルイーズ誕生のエピソードを追加しています。
※R18版はムーンライトノベルス様にございます。本作品は、同名作品からR18箇所をR15表現に抑え、加筆修正したものになります。R15に※、ムーンライト様にはR18後日談2話あり。
元は令嬢だったが、現在はお針子として働くアメリア。彼女はある日突然、公爵家の三男シャーロックに求婚される。ナイトの称号を持つ元軍人の彼は、社交界で浮名を流す有名な人物だ。
破産寸前だった父は、彼の申し出を二つ返事で受け入れてしまい、アメリアはシャーロックと婚約することに。
だが、シャーロック本人からは、愛があって求婚したわけではないと言われてしまう。とは言え、なんだかんだで優しくて溺愛してくる彼に、だんだんと心惹かれていくアメリア。
初夜以外では手をつけられずに悩んでいたある時、自分とよく似た女性マーガレットとシャーロックが仲睦まじく映る写真を見つけてしまい――?
「私は彼女の代わりなの――? それとも――」
昔失くした恋人を忘れられない青年と、元気と健康が取り柄の元令嬢が、契約結婚を通して愛を育んでいく物語。
※全13話(1話を2〜4分割して投稿)
【完結】貴方を愛するつもりはないは 私から
Mimi
恋愛
結婚初夜、旦那様は仰いました。
「君とは白い結婚だ!」
その後、
「お前を愛するつもりはない」と、
続けられるのかと私は思っていたのですが…。
16歳の幼妻と7歳年上23歳の旦那様のお話です。
メインは旦那様です。
1話1000字くらいで短めです。
『俺はずっと片想いを続けるだけ』を引き続き
お読みいただけますようお願い致します。
(1ヶ月後のお話になります)
注意
貴族階級のお話ですが、言葉使いが…です。
許せない御方いらっしゃると思います。
申し訳ありません🙇💦💦
見逃していただけますと幸いです。
R15 保険です。
また、好物で書きました。
短いので軽く読めます。
どうぞよろしくお願い致します!
*『俺はずっと片想いを続けるだけ』の
タイトルでベリーズカフェ様にも公開しています
(若干の加筆改訂あります)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる