上 下
75 / 113

75.さらにアレンジした作戦です

しおりを挟む
 作戦会議のために実家へ向かいます。もちろん「帰ります」と連絡しておきました。玄関先でお父様とお母様、お兄様とお義姉様が並んで迎えてくれます。

 同行するアレクシス様と腕を組み、客間ではなく居間へ向かいました。もう家族ですもの。当然ですね。

「私、囮になります」

 ずばっと作戦を説明したところ「はぁ……」と間抜けな返答がありました。お兄様ですね。隣のお義姉様は目を丸くしましたが、すぐに立ち直りました。

「作戦が決まったのね。最初から説明してください」

 私ではなくアレクシス様に問うところが、とても有能ですわ。合理的なミランダ様らしいです。考え込んだお父様は作戦に気付いたようですし、お母様はドレスを選ばなければと呟きました。

 私の突拍子もない一言から、きちんと内容を受け取れるのは、さすが両親です。いつも結論だけ説明する私に慣れてしまわれたのかしら。

「補足します」

 アレクシス様が説明を始めました。敵が要求しているのは、妖精姫である私です。渡せば攻撃しないと言った。その言葉はすでに各国に広がっています。ならば私が一度あちらの船に移動すれば、そこで成約でした。その後のことまで要求されておりませんもの。

 帰る敵が港を出る直前、私は妖精王様のお力で消えます。夜でなくとも、昼間に動ける妖精はおりますので。このくらいの芸当は造作もないと請け負ってくれました。妖精王様の加護を受けたアレクシス様の元へ送ってもらうのです。後はヘンスラー帝国にお帰りいただくだけ。

 実はアレクシス様の考えた作戦は別物でした。私を囮に使う気もありませんでした。話を聴いた妖精王様が変更を求めたのです。港から出た船をヘンスラー帝国まで強風で追い返す、と。

 ここまで一気に話して、やや温いお茶を飲み干します。そんなアレクシス様にうっとりした目を向ける私へ、視線が集中しました。

「囮……派手な姿がいいわね」

「言い出したら聞かない。妖精王様が守ってくださるなら、お任せしよう」

 賛成派の両親に対し、お兄様は渋い顔で指摘しました。

「妖精の力を無効化される心配はないのか」

「ございません」

 そんな都合のいい魔法や物質は存在しません。なぜなら、妖精はすべての魔法の根源だからです。もし妖精を制限したり排除する魔法を作れば、原動力となる妖精がいないので発動しません。この辺は妖精王様のお話なので確実でしょう。

 お兄様が心配なさったのは、妖精の悪戯を防止する隣国の「妖精避け」の粉ですね。あれは妖精達の好きな粉を撒いて機嫌をとり、お帰りいただくものです。名前ほど物騒な効果はありませんわ。

「だが心配だ」

「侍女として私がついて行きます」

 まさかのミランダ様、参戦希望です。驚いた顔をするアレクシス様をよそに、私とお兄様は頷きました。ミランダ様は王妃殿下の護衛として近隣国へ赴いたほど、腕が立つ女性騎士です。お兄様と結婚しなければ、今も護衛騎士筆頭だったでしょう。

 私と抱き合っていれば、一緒に回収してもらえます。以前に迷子になった私を回収した際、手にしていたお店の花瓶も一緒に移動しました。でも、念のために触れていなくても帰れるよう、妖精王様にお願いしましょう。

「お願いします、お義姉様」

「当然です。私の可愛い義妹ですもの。取られてなるものですか」

 頼もしいです。これで準備万端ですね。周辺国からの圧力や、他国の王族の立ち会いもあるので……引き渡しだけ見せれば、それ以上動けなくなります。ヘンスラー帝国も面目がありますから、非力な美女一人守れず逃げられたなんて。

 恥ずかしくて言えませんわ。もし文句をつけられても、渡した状況を他国の王族が証言すれば終わりです。二度目は応じられないと断る理由になります。妖精姫はこの国の宝なので、本来持ち出し厳禁ですのよ。
しおりを挟む
感想 251

あなたにおすすめの小説

【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~

紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。 ※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。 ※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。 ※なろうにも掲載しています。

結婚結婚煩いので、愛人持ちの幼馴染と偽装結婚してみた

夏菜しの
恋愛
 幼馴染のルーカスの態度は、年頃になっても相変わらず気安い。  彼のその変わらぬ態度のお陰で、周りから男女の仲だと勘違いされて、公爵令嬢エーデルトラウトの相手はなかなか決まらない。  そんな現状をヤキモキしているというのに、ルーカスの方は素知らぬ顔。  彼は思いのままに平民の娘と恋人関係を持っていた。  いっそそのまま結婚してくれれば、噂は間違いだったと知れるのに、あちらもやっぱり公爵家で、平民との結婚など許さんと反対されていた。  のらりくらりと躱すがもう限界。  いよいよ親が煩くなってきたころ、ルーカスがやってきて『偽装結婚しないか?』と提案された。  彼の愛人を黙認する代わりに、贅沢と自由が得られる。  これで煩く言われないとすると、悪くない提案じゃない?  エーデルトラウトは軽い気持ちでその提案に乗った。

【完結】婚約者が好きなのです

maruko
恋愛
リリーベルの婚約者は誰にでも優しいオーラン・ドートル侯爵令息様。 でもそんな優しい婚約者がたった一人に対してだけ何故か冷たい。 冷たくされてるのはアリー・メーキリー侯爵令嬢。 彼の幼馴染だ。 そんなある日。偶然アリー様がこらえきれない涙を流すのを見てしまった。見つめる先には婚約者の姿。 私はどうすればいいのだろうか。 全34話(番外編含む) ※他サイトにも投稿しております ※1話〜4話までは文字数多めです 注)感想欄は全話読んでから閲覧ください(汗)

愛するつもりなぞないんでしょうから

真朱
恋愛
この国の姫は公爵令息と婚約していたが、隣国との和睦のため、一転して隣国の王子の許へ嫁ぐことになった。余計ないざこざを防ぐべく、姫の元婚約者の公爵令息は王命でさくっと婚姻させられることになり、その相手として白羽の矢が立ったのは辺境伯家の二女・ディアナだった。「可憐な姫の後が、脳筋な辺境伯んとこの娘って、公爵令息かわいそうに…。これはあれでしょ?『お前を愛するつもりはない!』ってやつでしょ?」  期待も遠慮も捨ててる新妻ディアナと、好青年の仮面をひっ剥がされていく旦那様ラキルスの、『明日はどっちだ』な夫婦のお話。    ※なんちゃって異世界です。なんでもあり、ご都合主義をご容赦ください。  ※新婚夫婦のお話ですが色っぽさゼロです。Rは物騒な方です。  ※ざまあのお話ではありません。軽い読み物とご理解いただけると幸いです。 ※おまけ更新中です。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完】嫁き遅れの伯爵令嬢は逃げられ公爵に熱愛される

えとう蜜夏☆コミカライズ中
恋愛
 リリエラは母を亡くし弟の養育や領地の執務の手伝いをしていて貴族令嬢としての適齢期をやや逃してしまっていた。ところが弟の成人と婚約を機に家を追い出されることになり、住み込みの働き口を探していたところ教会のシスターから公爵との契約婚を勧められた。  お相手は公爵家当主となったばかりで、さらに彼は婚約者に立て続けに逃げられるといういわくつきの物件だったのだ。  少し辛辣なところがあるもののお人好しでお節介なリリエラに公爵も心惹かれていて……。  22.4.7女性向けホットランキングに入っておりました。ありがとうございます 22.4.9.9位,4.10.5位,4.11.3位,4.12.2位  Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.  ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。

あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。 「君の為の時間は取れない」と。 それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。 そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。 旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。 あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。 そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。 ※35〜37話くらいで終わります。

麗しの王子殿下は今日も私を睨みつける。

スズキアカネ
恋愛
「王子殿下の運命の相手を占いで決めるそうだから、レオーネ、あなたが選ばれるかもしれないわよ」 伯母の一声で連れて行かれた王宮広場にはたくさんの若い女の子たちで溢れかえっていた。 そしてバルコニーに立つのは麗しい王子様。 ──あの、王子様……何故睨むんですか? 人違いに決まってるからそんなに怒らないでよぉ! ◇◆◇ 無断転載・転用禁止。 Do not repost.

処理中です...