56 / 113
56.結婚式を早めるご相談でした
しおりを挟む
王妃殿下のお召しにより、王族が私的な客人を持て成す部屋に案内されました。客間のひとつですが、公的には使用されません。私は何度かお母様達と訪れた部屋で、挨拶のカーテシーを披露しました。すでに腰掛けてお待ちのお二人は会釈で返します。
軍人の敬礼も似合いそうなアレクシス様ですが、ここは私の婚約者であるレードルンド辺境伯閣下の肩書きを取るようです。貴族の習わし通り、片足を引いて優雅なご挨拶をなさいました。軍属の方や騎士様は筋肉が多く、体がふらつかないのでカッコよく決まりますね。
「ロヴィーサ嬢、悪かったな」
国王陛下からのお声がけに「いいえ」と微笑んで返します。このお部屋にいる時は、地位に関係なく娘のように振舞ってくれとお願いされておりました。きちんと覚えております。それでも礼儀をすべて投げ捨てることはありませんが、お父様に接するように微笑みを向けました。
「うむ……此度の件は、無事で本当によかった。犯人も無事処刑されたことだし、アクセーン王国の侵略も食い止められそうだと聞いている。そなたに何かあれば、国が滅ぶ故……」
「あらあら、そんなことが理由ではないでしょう? 娘も同然の可愛いロヴィーサを襲うなんて、八つ裂きにしてやればよかったのです。殿方は甘いんですから、もう」
呆れた、そんな口調で王妃殿下がちくりと嫌味を向けます。そんなお二人に驚いた様子のアレクシス様、私はにこにこと笑顔で聞いておりました。だって、いつもと同じなんですもの。仲のいいご夫婦って理想ですよね。
「何にしろ、早く結婚した方がいいと思うの。イーリスに聞いたのだけれど、もう関係があるのでしょう? 早く結婚式を挙げて公表したいわ。いつを予定しているの」
王妃殿下に畳みかけられ、お茶に手を伸ばしたアレクシス様が、その手を止めました。ぎこちない仕草で私を見つめるので、微笑んでお答えします。慣れないと王族に直接答えるのって、緊張しますものね。
「お母様ったら話してしまわれたのですね。婚礼衣装の絹はすでに手配しておりますし、刺繍や宝石も準備しておりました。あとは縫製だけですので……半年ほどでしょうか」
私はアレクシス様と結婚すると家族に明言し、そのために準備を進めました。アレクシス様の瞳の色である青い宝石を大量に集め、ヴェールのレース編みは三年前から注文しています。ドレスのための絹も購入済みで、後は形にすれば終わりです。
デザインはアレクシス様とご相談するつもりでしたが、どうしてもマーメイドにしたいので、ここは譲っていただきました。すでに執事のアントンも、準備に走り回っております。
「あら手回しがいいのね」
「はい、結婚式用のドレスや宝飾品は絶対に必要になるものですし、妥協したくありませんもの」
「すごく分かるわ」
王妃殿下と手を握り合って、きゃっきゃとはしゃぎます。テーブル越しなのでやや遠いですが、私的なお部屋なのでガラステーブルも小さめでした。
「なるほど、ならば何か足りないものがあれば贈ろう」
「あなた。そういう時は針子の手配ですわ。王宮の刺繍や縫製を担当する者を総動員しましょう。早く結婚式を挙げないと、また近隣国から身勝手な男が押し寄せてきます」
「あ、ああ。妃の言うとおりにしよう」
お礼を申し上げて、私は笑顔で退室しました。アレクシス様はほっとしたご様子です。何か咎められると思ったのでしょうか。そういう場面では、必ず公的な客間や謁見の間を使いますのよ。
衣装の完成まで時間が短縮できそうなので、アントンにも準備を急がせなくてはいけませんね。
軍人の敬礼も似合いそうなアレクシス様ですが、ここは私の婚約者であるレードルンド辺境伯閣下の肩書きを取るようです。貴族の習わし通り、片足を引いて優雅なご挨拶をなさいました。軍属の方や騎士様は筋肉が多く、体がふらつかないのでカッコよく決まりますね。
「ロヴィーサ嬢、悪かったな」
国王陛下からのお声がけに「いいえ」と微笑んで返します。このお部屋にいる時は、地位に関係なく娘のように振舞ってくれとお願いされておりました。きちんと覚えております。それでも礼儀をすべて投げ捨てることはありませんが、お父様に接するように微笑みを向けました。
「うむ……此度の件は、無事で本当によかった。犯人も無事処刑されたことだし、アクセーン王国の侵略も食い止められそうだと聞いている。そなたに何かあれば、国が滅ぶ故……」
「あらあら、そんなことが理由ではないでしょう? 娘も同然の可愛いロヴィーサを襲うなんて、八つ裂きにしてやればよかったのです。殿方は甘いんですから、もう」
呆れた、そんな口調で王妃殿下がちくりと嫌味を向けます。そんなお二人に驚いた様子のアレクシス様、私はにこにこと笑顔で聞いておりました。だって、いつもと同じなんですもの。仲のいいご夫婦って理想ですよね。
「何にしろ、早く結婚した方がいいと思うの。イーリスに聞いたのだけれど、もう関係があるのでしょう? 早く結婚式を挙げて公表したいわ。いつを予定しているの」
王妃殿下に畳みかけられ、お茶に手を伸ばしたアレクシス様が、その手を止めました。ぎこちない仕草で私を見つめるので、微笑んでお答えします。慣れないと王族に直接答えるのって、緊張しますものね。
「お母様ったら話してしまわれたのですね。婚礼衣装の絹はすでに手配しておりますし、刺繍や宝石も準備しておりました。あとは縫製だけですので……半年ほどでしょうか」
私はアレクシス様と結婚すると家族に明言し、そのために準備を進めました。アレクシス様の瞳の色である青い宝石を大量に集め、ヴェールのレース編みは三年前から注文しています。ドレスのための絹も購入済みで、後は形にすれば終わりです。
デザインはアレクシス様とご相談するつもりでしたが、どうしてもマーメイドにしたいので、ここは譲っていただきました。すでに執事のアントンも、準備に走り回っております。
「あら手回しがいいのね」
「はい、結婚式用のドレスや宝飾品は絶対に必要になるものですし、妥協したくありませんもの」
「すごく分かるわ」
王妃殿下と手を握り合って、きゃっきゃとはしゃぎます。テーブル越しなのでやや遠いですが、私的なお部屋なのでガラステーブルも小さめでした。
「なるほど、ならば何か足りないものがあれば贈ろう」
「あなた。そういう時は針子の手配ですわ。王宮の刺繍や縫製を担当する者を総動員しましょう。早く結婚式を挙げないと、また近隣国から身勝手な男が押し寄せてきます」
「あ、ああ。妃の言うとおりにしよう」
お礼を申し上げて、私は笑顔で退室しました。アレクシス様はほっとしたご様子です。何か咎められると思ったのでしょうか。そういう場面では、必ず公的な客間や謁見の間を使いますのよ。
衣装の完成まで時間が短縮できそうなので、アントンにも準備を急がせなくてはいけませんね。
12
お気に入りに追加
889
あなたにおすすめの小説
そうだバックレよう~奴隷買ったら、前世の常識とか倫理観とかどうでもよくなった~
リコピン
恋愛
前世の記憶を持って転生したステラ。子どもの頃は神童ともてはやされ、幼くして王宮に勤めることになるが、気づけばただの人。職場である魔導省がブラック過ぎて精神をすり減らす日々の中、癒しを求めて三次元(奴隷)に手を出すことを閃く。奴隷のエリアスを手に入れたことで色々振り切れたステラは、職場をバックレることにするが、ステラの居なくなった魔導省では…
HOTランキング3位!!(⊃ Д)⊃≡゚ ゚ありがとうございます!頑張ります!
政略結婚した夫の愛人は私の専属メイドだったので離婚しようと思います
結城芙由奈
恋愛
浮気ですか?どうぞご自由にして下さい。私はここを去りますので
結婚式の前日、政略結婚相手は言った。「お前に永遠の愛は誓わない。何故ならそこに愛など存在しないのだから。」そして迎えた驚くべき結婚式と驚愕の事実。いいでしょう、それほど不本意な結婚ならば離婚してあげましょう。その代わり・・後で後悔しても知りませんよ?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載中
【完結】溺愛婚約者の裏の顔 ~そろそろ婚約破棄してくれませんか~
瀬里
恋愛
(なろうの異世界恋愛ジャンルで日刊7位頂きました)
ニナには、幼い頃からの婚約者がいる。
3歳年下のティーノ様だ。
本人に「お前が行き遅れになった頃に終わりだ」と宣言されるような、典型的な「婚約破棄前提の格差婚約」だ。
行き遅れになる前に何とか婚約破棄できないかと頑張ってはみるが、うまくいかず、最近ではもうそれもいいか、と半ばあきらめている。
なぜなら、現在16歳のティーノ様は、匂いたつような色香と初々しさとを併せ持つ、美青年へと成長してしまったのだ。おまけに人前では、誰もがうらやむような溺愛ぶりだ。それが偽物だったとしても、こんな風に夢を見させてもらえる体験なんて、そうそうできやしない。
もちろん人前でだけで、裏ではひどいものだけど。
そんな中、第三王女殿下が、ティーノ様をお気に召したらしいという噂が飛び込んできて、あきらめかけていた婚約破棄がかなうかもしれないと、ニナは行動を起こすことにするのだが――。
全7話の短編です 完結確約です。
【完結】伯爵の愛は狂い咲く
白雨 音
恋愛
十八歳になったアリシアは、兄の友人男爵子息のエリックに告白され、婚約した。
実家の商家を手伝い、友人にも恵まれ、アリシアの人生は充実し、順風満帆だった。
だが、町のカーニバルの夜、それを脅かす出来事が起こった。
仮面の男が「見つけた、エリーズ!」と、アリシアに熱く口付けたのだ!
そこから、アリシアの運命の歯車は狂い始めていく。
両親からエリックとの婚約を解消し、年の離れた伯爵に嫁ぐ様に勧められてしまう。
「結婚は愛した人とします!」と抗うアリシアだが、運命は彼女を嘲笑い、
その渦に巻き込んでいくのだった…
アリシアを恋人の生まれ変わりと信じる伯爵の執愛。
異世界恋愛、短編:本編(アリシア視点)前日譚(ユーグ視点)
《完結しました》
あなたに忘れられない人がいても――公爵家のご令息と契約結婚する運びとなりました!――
おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
※1/1アメリアとシャーロックの長女ルイーズの恋物語「【R18】犬猿の仲の幼馴染は嘘の婚約者」が完結しましたので、ルイーズ誕生のエピソードを追加しています。
※R18版はムーンライトノベルス様にございます。本作品は、同名作品からR18箇所をR15表現に抑え、加筆修正したものになります。R15に※、ムーンライト様にはR18後日談2話あり。
元は令嬢だったが、現在はお針子として働くアメリア。彼女はある日突然、公爵家の三男シャーロックに求婚される。ナイトの称号を持つ元軍人の彼は、社交界で浮名を流す有名な人物だ。
破産寸前だった父は、彼の申し出を二つ返事で受け入れてしまい、アメリアはシャーロックと婚約することに。
だが、シャーロック本人からは、愛があって求婚したわけではないと言われてしまう。とは言え、なんだかんだで優しくて溺愛してくる彼に、だんだんと心惹かれていくアメリア。
初夜以外では手をつけられずに悩んでいたある時、自分とよく似た女性マーガレットとシャーロックが仲睦まじく映る写真を見つけてしまい――?
「私は彼女の代わりなの――? それとも――」
昔失くした恋人を忘れられない青年と、元気と健康が取り柄の元令嬢が、契約結婚を通して愛を育んでいく物語。
※全13話(1話を2〜4分割して投稿)
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
【完結】騎士団長の旦那様は小さくて年下な私がお好みではないようです
大森 樹
恋愛
貧乏令嬢のヴィヴィアンヌと公爵家の嫡男で騎士団長のランドルフは、お互いの親の思惑によって結婚が決まった。
「俺は子どもみたいな女は好きではない」
ヴィヴィアンヌは十八歳で、ランドルフは三十歳。
ヴィヴィアンヌは背が低く、ランドルフは背が高い。
ヴィヴィアンヌは貧乏で、ランドルフは金持ち。
何もかもが違う二人。彼の好みの女性とは真逆のヴィヴィアンヌだったが、お金の恩があるためなんとか彼の妻になろうと奮闘する。そんな中ランドルフはぶっきらぼうで冷たいが、とろこどころに優しさを見せてきて……!?
貧乏令嬢×不器用な騎士の年の差ラブストーリーです。必ずハッピーエンドにします。
夫が「愛していると言ってくれ」とうるさいのですが、残念ながら結婚した記憶がございません
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
【完結しました】
王立騎士団団長を務めるランスロットと事務官であるシャーリーの結婚式。
しかしその結婚式で、ランスロットに恨みを持つ賊が襲い掛かり、彼を庇ったシャーリーは階段から落ちて気を失ってしまった。
「君は俺と結婚したんだ」
「『愛している』と、言ってくれないだろうか……」
目を覚ましたシャーリーには、目の前の男と結婚した記憶が無かった。
どうやら、今から二年前までの記憶を失ってしまったらしい――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる