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55.処刑に怯えるほど子どもではありません

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 お母様達とのお茶会の翌日、アレクシス様と腕を組み王宮へ向かいました。嫌なら顔を出さなくてもいい。そう聞いていますが、処刑に立ち会ったのです。

 私を指差し「お前を愛してやれるのは俺以外」まで口にしたところで、アクセーン王国第二王子殿下の指示により口を塞がれました。猿轡のようなきちんとした道具ではなく、置いてあったタオルを詰め込んだようです。

 騎士ではなく兵士が引き摺る青年は、元公爵家の面影もなく薄汚れていました。牢は平民用へ放り込まれたのだとか。当然ですわね。同情の余地はありません。

「平気か?」

「はい、アレクシス様。お気になさらず」

 周囲の方々は私の外見で「儚く弱い存在」と認識しておられますが、とんでもない勘違いです。目の前で彼の首が飛んでも、微笑みを崩さずいられるでしょう。

 だって、もし……あの時アレクシス様が間に合わなければ? 好きでもない殿方相手に、不貞の罪を犯すところでした。

 あの男の指が私の口に? ぞっとします。それくらいなら食い千切ってやりますわ。私の愛する殿方は、アレクシス様だけですもの。

「処刑を執行せよ」

 処刑には専門の武官がいます。体が大きくて、大きな斧を振り上げて下ろせる人。子爵の地位を与えられているのも、彼の忠誠への返礼と聞いています。ぐっと大きく太い腕が斧を持ち上げ、頭上で止まりました。木製の床に押さえつけられたベントソン公爵次男が暴れます。

 あの方、なんてお名前だったかしら。思い出せないまま、斧が振り下ろされました。悲鳴は首が繋がっている証拠です。声が途切れて血が床を赤く塗り替え、しんと静まり返って終わりでした。

 口元に笑みを浮かべたまま、ハンカチで隠します。淑女はいかなる時も笑みを忘れずに。ただし相応しくない場面では、扇やハンカチで隠すよう教えていただきましたの。

 私にご教授くださった王妃殿下は、美しい蝶が描かれた扇で顔の下半分を隠しています。よく見れば、扇の要に付いた房が金色でした。あれは見覚えがあります。国王陛下が帯びる剣の飾り帯と同じ色ですわ。

 じっと見つめる私に気付き、王妃殿下はひらりと指先を揺らしました。手を振る仕草からして、このあとお呼び出しがありそうです。くいっとアレクシス様の袖を引っ張りました。

「どうした、気分が悪いか?」

「いいえ。王妃殿下からお呼び出しがあると思います」

 意味ありげに視線を向ける私に、アレクシス様は苦笑いして頭に触れます。それから慌てて手を引っ込めました。

「悪い、可愛いと思ったが髪を乱してしまう」

「構いませんわ。王宮にも侍女はおりますし。直して貰えばいいだけです」

 じっとお強請りの眼差しを向けて待つ私に、優しく包むように頬や首を撫でてくれました。髪は乱さない方向性なのですね。両手を広げて抱き付き、頬を擦り寄せます。

 息を呑んだ声の主を確認すると、隣国の第二王子殿下でした。私を睨むでもなく見つめたあと、ゆっくり息を吐いて視線を逸らします。これは惚れた様子ではないので、何か物申したいのでしょうか。

 私がショックを受けて婚約者に抱きついたと勘違いなさったか。もしくは平然としているのを見抜いて、眉を顰めたか。どちらにしろ、私には関係ございません。

 何しろ、今夜は新しい知識でアレクシス様に「種」を強請るのですから。今からワクワクしますわ。
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