48 / 113
48.派手な公共工事で食い止めましょう
しおりを挟む
朝食は和やかに始まり、途中で少し言い争って、最後は王妃殿下に両成敗されて終わりました。罰として今日一日は手を繋ぎっぱなしで過ごすように言われましたの。最高の罰ですわ、ぜひとも今後も同じ罰をお願いいたします。
「罰にならない」
あら、なぜバレたのでしょう。首を傾げて見上げると、彼の首筋がぶわっと赤くなりました。アレクシス様にとっても罰にならないとしたら、私は心の底から喜びます。仲良しアピールをしながら王宮の庭を歩き、午後になって迎えに来た馬車に乗り込みました。
「すぐに対策を練らなければ」
難しい顔で考えるアレクシス様ですが、私は妖精王様にちょっと頼みごとをすればいいのでは? と思っていました。それを口にしたら、また手柄の話が復活しそうで口に出来ません。じっと見つめたまま、揺れる馬車の中で腕を絡めました。
「ん? どうした、ヴィー」
「いいえ。何でもありませんわ」
にっこり笑って誤魔化す。隣り合って座ることに抵抗がないのでしたら、問題ありません。着々と距離を詰めるだけの話ですわ。揺れるたびに胸を押し付けておりますが、真剣に悩んでいて気にした様子がありません。
お屋敷へ戻ったアレクシス様は、すぐに騎士や兵士を束ねる役職の方々を集めました。見回りに出ている人もいるので、女性の着替え程度の時間がかかるでしょうね。思いついた作戦をどう伝えたものか、迷いながら後ろをついていきます。突然立ち止まったアレクシス様が振り返り、私に優しく話しかけました。
「ヴィー、部屋で休んでいていいぞ」
「ありがとうございます。少しだけお話をよろしいですか」
頷くアレクシス様と執務室へ入り、手にしておられる地図を広げました。ほんの僅かに隣国と繋がる川、ここを辺境伯家の領地にするのは弊害もあるでしょう。ですから敵を退けた上で、二度とここから攻め込もうと考えないほど、大きな損害を与えればいいわけです。
「子爵家の土地が川の上流になりますよね。ここを崩せば、川の流れが変わります」
地図の一点を指してから、レードルンド辺境伯家の領地へ指を引っ張りました。接点になっている土地ではなく、その手前で川の流れを変えます。妖精王様なら一晩で仕上げてくれそうですが、今回は人の力を利用しましょう。公共工事は民のためになりますし。
「まさか……」
「はい、川の両側にある山を崩します。これで完全に塞ぐことが可能になります。崩すタイミングを合わせれば、敵を激減させることも可能ではありませんか」
「だが、いや……確かに」
唸って考え込んでしまいまいした。川が流れている場所は、通常、両側が大きく盛り上がっています。人が作った堤防もありますが、半分以上は自然に出来た崖でした。小山の僅かなくぼみを水が流れて削り、徐々に深くなっていく。そうして川になるのだと教えてもらいました。
両側に残された小山だった大量の土砂は、意外と崩れやすいそうです。手前で川の流れを変えて、土で埋めてしまう。今後は国境がはっきりしますね。
「この川、水量があまり多くないので、ここら辺にため池を作れば……ほら、今後も水を活用できます」
外交問題になるとか、陛下に相談せねばとか。呻いておられましたが、騎士団や兵団の団長達と相談する際に提案してくれるそうです。褒めてたくさん頭を撫でてもらいました。今夜もいい夢が見られそうですわ。
「罰にならない」
あら、なぜバレたのでしょう。首を傾げて見上げると、彼の首筋がぶわっと赤くなりました。アレクシス様にとっても罰にならないとしたら、私は心の底から喜びます。仲良しアピールをしながら王宮の庭を歩き、午後になって迎えに来た馬車に乗り込みました。
「すぐに対策を練らなければ」
難しい顔で考えるアレクシス様ですが、私は妖精王様にちょっと頼みごとをすればいいのでは? と思っていました。それを口にしたら、また手柄の話が復活しそうで口に出来ません。じっと見つめたまま、揺れる馬車の中で腕を絡めました。
「ん? どうした、ヴィー」
「いいえ。何でもありませんわ」
にっこり笑って誤魔化す。隣り合って座ることに抵抗がないのでしたら、問題ありません。着々と距離を詰めるだけの話ですわ。揺れるたびに胸を押し付けておりますが、真剣に悩んでいて気にした様子がありません。
お屋敷へ戻ったアレクシス様は、すぐに騎士や兵士を束ねる役職の方々を集めました。見回りに出ている人もいるので、女性の着替え程度の時間がかかるでしょうね。思いついた作戦をどう伝えたものか、迷いながら後ろをついていきます。突然立ち止まったアレクシス様が振り返り、私に優しく話しかけました。
「ヴィー、部屋で休んでいていいぞ」
「ありがとうございます。少しだけお話をよろしいですか」
頷くアレクシス様と執務室へ入り、手にしておられる地図を広げました。ほんの僅かに隣国と繋がる川、ここを辺境伯家の領地にするのは弊害もあるでしょう。ですから敵を退けた上で、二度とここから攻め込もうと考えないほど、大きな損害を与えればいいわけです。
「子爵家の土地が川の上流になりますよね。ここを崩せば、川の流れが変わります」
地図の一点を指してから、レードルンド辺境伯家の領地へ指を引っ張りました。接点になっている土地ではなく、その手前で川の流れを変えます。妖精王様なら一晩で仕上げてくれそうですが、今回は人の力を利用しましょう。公共工事は民のためになりますし。
「まさか……」
「はい、川の両側にある山を崩します。これで完全に塞ぐことが可能になります。崩すタイミングを合わせれば、敵を激減させることも可能ではありませんか」
「だが、いや……確かに」
唸って考え込んでしまいまいした。川が流れている場所は、通常、両側が大きく盛り上がっています。人が作った堤防もありますが、半分以上は自然に出来た崖でした。小山の僅かなくぼみを水が流れて削り、徐々に深くなっていく。そうして川になるのだと教えてもらいました。
両側に残された小山だった大量の土砂は、意外と崩れやすいそうです。手前で川の流れを変えて、土で埋めてしまう。今後は国境がはっきりしますね。
「この川、水量があまり多くないので、ここら辺にため池を作れば……ほら、今後も水を活用できます」
外交問題になるとか、陛下に相談せねばとか。呻いておられましたが、騎士団や兵団の団長達と相談する際に提案してくれるそうです。褒めてたくさん頭を撫でてもらいました。今夜もいい夢が見られそうですわ。
14
お気に入りに追加
906
あなたにおすすめの小説
結婚結婚煩いので、愛人持ちの幼馴染と偽装結婚してみた
夏菜しの
恋愛
幼馴染のルーカスの態度は、年頃になっても相変わらず気安い。
彼のその変わらぬ態度のお陰で、周りから男女の仲だと勘違いされて、公爵令嬢エーデルトラウトの相手はなかなか決まらない。
そんな現状をヤキモキしているというのに、ルーカスの方は素知らぬ顔。
彼は思いのままに平民の娘と恋人関係を持っていた。
いっそそのまま結婚してくれれば、噂は間違いだったと知れるのに、あちらもやっぱり公爵家で、平民との結婚など許さんと反対されていた。
のらりくらりと躱すがもう限界。
いよいよ親が煩くなってきたころ、ルーカスがやってきて『偽装結婚しないか?』と提案された。
彼の愛人を黙認する代わりに、贅沢と自由が得られる。
これで煩く言われないとすると、悪くない提案じゃない?
エーデルトラウトは軽い気持ちでその提案に乗った。
誰にも言えないあなたへ
天海月
恋愛
子爵令嬢のクリスティーナは心に決めた思い人がいたが、彼が平民だという理由で結ばれることを諦め、彼女の事を見初めたという騎士で伯爵のマリオンと婚姻を結ぶ。
マリオンは家格も高いうえに、優しく美しい男であったが、常に他人と一線を引き、妻であるクリスティーナにさえ、どこか壁があるようだった。
年齢が離れている彼にとって自分は子供にしか見えないのかもしれない、と落ち込む彼女だったが・・・マリオンには誰にも言えない秘密があって・・・。
兄にいらないと言われたので勝手に幸せになります
毒島醜女
恋愛
モラハラ兄に追い出された先で待っていたのは、甘く幸せな生活でした。
侯爵令嬢ライラ・コーデルは、実家が平民出の聖女ミミを養子に迎えてから実の兄デイヴィッドから冷遇されていた。
家でも学園でも、デビュタントでも、兄はいつもミミを最優先する。
友人である王太子たちと一緒にミミを持ち上げてはライラを貶めている始末だ。
「ミミみたいな可愛い妹が欲しかった」
挙句の果てには兄が婚約を破棄した辺境伯家の元へ代わりに嫁がされることになった。
ベミリオン辺境伯の一家はそんなライラを温かく迎えてくれた。
「あなたの笑顔は、どんな宝石や星よりも綺麗に輝いています!」
兄の元婚約者の弟、ヒューゴは不器用ながらも優しい愛情をライラに与え、甘いお菓子で癒してくれた。
ライラは次第に笑顔を取り戻し、ベミリオン家で幸せになっていく。
王都で聖女が起こした騒動も知らずに……
夫が「愛していると言ってくれ」とうるさいのですが、残念ながら結婚した記憶がございません
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
【完結しました】
王立騎士団団長を務めるランスロットと事務官であるシャーリーの結婚式。
しかしその結婚式で、ランスロットに恨みを持つ賊が襲い掛かり、彼を庇ったシャーリーは階段から落ちて気を失ってしまった。
「君は俺と結婚したんだ」
「『愛している』と、言ってくれないだろうか……」
目を覚ましたシャーリーには、目の前の男と結婚した記憶が無かった。
どうやら、今から二年前までの記憶を失ってしまったらしい――。
無双する天然娘は皇帝の愛を得る
ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕「強運」と云う、転んでもただでは起きない一風変わった“加護”を持つ子爵令嬢フェリシティ。お人好しで人の悪意にも鈍く、常に前向きで、かなりド天然な令嬢フェリシティ。だが、父である子爵家当主セドリックが他界した途端、子爵家の女主人となった継母デラニーに邪魔者扱いされる子爵令嬢フェリシティは、ある日捨てられてしまう。行く宛もお金もない。ましてや子爵家には帰ることも出来ない。そこで訪れたのが困窮した淑女が行くとされる或る館。まさかの女性が春を売る場所〈娼館〉とは知らず、「ここで雇って頂けませんか?」と女主人アレクシスに願い出る。面倒見の良い女主人アレクシスは、庇護欲そそる可憐な子爵令嬢フェリシティを一晩泊めたあとは、“或る高貴な知り合い”ウィルフレッドへと託そうとするも……。
※設定などは独自の世界観でご都合主義。ハピエン🩷
※稚拙ながらも投稿初日(2024.12.24)からHOTランキング入れて頂き、ありがとうございます🙂(最高で29位✨)
【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~
塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます!
2.23完結しました!
ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。
相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。
ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。
幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。
好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。
そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。
それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……?
妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話
切なめ恋愛ファンタジー
【完結】白い結婚成立まであと1カ月……なのに、急に家に帰ってきた旦那様の溺愛が止まりません!?
氷雨そら
恋愛
3年間放置された妻、カティリアは白い結婚を宣言し、この結婚を無効にしようと決意していた。
しかし白い結婚が認められる3年を目前にして戦地から帰ってきた夫は彼女を溺愛しはじめて……。
夫は妻が大好き。勘違いすれ違いからの溺愛物語。
小説家なろうにも投稿中
根暗令嬢の華麗なる転身
しろねこ。
恋愛
「来なきゃよかったな」
ミューズは茶会が嫌いだった。
茶会デビューを果たしたものの、人から不細工と言われたショックから笑顔になれず、しまいには根暗令嬢と陰で呼ばれるようになった。
公爵家の次女に産まれ、キレイな母と実直な父、優しい姉に囲まれ幸せに暮らしていた。
何不自由なく、暮らしていた。
家族からも愛されて育った。
それを壊したのは悪意ある言葉。
「あんな不細工な令嬢見たことない」
それなのに今回の茶会だけは断れなかった。
父から絶対に参加してほしいという言われた茶会は特別で、第一王子と第二王子が来るものだ。
婚約者選びのものとして。
国王直々の声掛けに娘思いの父も断れず…
応援して頂けると嬉しいです(*´ω`*)
ハピエン大好き、完全自己満、ご都合主義の作者による作品です。
同名主人公にてアナザーワールド的に別な作品も書いています。
立場や環境が違えども、幸せになって欲しいという思いで作品を書いています。
一部リンクしてるところもあり、他作品を見て頂ければよりキャラへの理解が深まって楽しいかと思います。
描写的なものに不安があるため、お気をつけ下さい。
ゆるりとお楽しみください。
こちら小説家になろうさん、カクヨムさんにも投稿させてもらっています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる