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47.侵入経路特定の手柄が行ったり来たり
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私達に用意されたのは夫婦で滞在できる続き部屋の客間です。当然、夜は一緒に眠りました。屋敷からレースの寝着を届けてもらいましたもの。届けに来た侍女のエレンは気が利くので、化粧品や翌日のドレス一式も運んでくれました。今日はアレクシス様色のシルバーグレーのAラインにします。
アレクシス様の胸元には、同じ絹を使ったハンカチを畳んで差し込みました。夫婦で同じ絹を身に着けるのは、一心同体を吹聴する行為ですもの。絶対に忘れてはいけません。夫婦仲を疑われれば、外部から邪魔が入ります。
着替えの間は隣室へ移動していた私は、髪を結う間にペンを手に取りました。妖精王様の集めた情報をひとまとめにして、アレクシス様に提示します。朝食は国王ご夫妻にお呼ばれしていますので、先にお渡ししますね。文字で書き連ねた内容をじっくり読んで、額を押さえたアレクシス様が呻きました。
「これはまた、頭の痛い」
結果を申し上げれば、レードルンド辺境伯家の領地が侵入経路ではありませんでした。砦はきっちり守られていましたし、見回りの兵が賄賂を受け取った形跡もありません。隣国と接しているのはほぼ辺境伯家の領地ですが、僅かに隣領地も接していました。地図で見ても首を傾げるくらい僅かです。
「ここは川です。そのため監視兵が足りないのではないかと」
妖精王様が指摘されました。国境といえど、辺境伯家の隣にある小さな子爵家は戦う力を持ちません。領地も小さく、かろうじて三角の領地の先が隣国に接しているだけでした。監視らしい監視は行っていないでしょう。川下に当たるアクセーン王国から侵入した事例は、過去に報告がありませんでした。
平民同士の交流はあれど、国としては国境が接している認識がほとんどない場所です。それも川と河原が繋がっているだけの接点……普通は気にしないでしょう。今回も妖精達の報告がなければ、誰も信じないほど目立たない場所でした。
「よく見つけたな」
「以前から目を付けていたようですね。戦を仕掛けるならば、ここから攻め上がるつもりだったと思います。妖精達によれば、何度もアクセーン王国の制服の兵士を見かけたそうです」
アクセーン王国の王太子殿下は、私を誘拐しようと計画したことがあります。妖精王様に邪魔され、崖を崩して道を塞がれたので未遂で終わりました。その後もこそこそと計画を練っていたのでしょうか。崖のある街道を通らないルートを見つけていました。
「これは国王陛下にご相談の案件だな」
「はい、お任せします」
驚いた顔をしたアレクシス様は、叱りつけるように眉を寄せて声を低くしました。何か怒らせてしまったのでしょうか。
「これは妖精王様の情報だ」
「はい」
「つまり、ヴィーの手柄なのだぞ? なぜ俺に任せる!」
「情報は私経由ですが、何もしていないからですわ。集めたのは妖精王様、それを元に戦略を練って戦うのはアレクシス様でしょう。私は中継しただけで手柄はございません」
むっとした顔でさらに言い募ろうとしたアレクシス様ですが、朝食のお呼び出しが入りました。王宮の侍女に笑顔で「今参ります」と答え、アレクシス様へ手を差し伸べます。腕を組んで並んで歩く間も、アレクシス様のご機嫌は直りませんでした。
殿方って難しいですわ。別に手柄を譲る気はございませんし、適材適所ですのに。こういう高潔なところ、国王陛下にアピールしたら良いかも知れませんね。
アレクシス様の胸元には、同じ絹を使ったハンカチを畳んで差し込みました。夫婦で同じ絹を身に着けるのは、一心同体を吹聴する行為ですもの。絶対に忘れてはいけません。夫婦仲を疑われれば、外部から邪魔が入ります。
着替えの間は隣室へ移動していた私は、髪を結う間にペンを手に取りました。妖精王様の集めた情報をひとまとめにして、アレクシス様に提示します。朝食は国王ご夫妻にお呼ばれしていますので、先にお渡ししますね。文字で書き連ねた内容をじっくり読んで、額を押さえたアレクシス様が呻きました。
「これはまた、頭の痛い」
結果を申し上げれば、レードルンド辺境伯家の領地が侵入経路ではありませんでした。砦はきっちり守られていましたし、見回りの兵が賄賂を受け取った形跡もありません。隣国と接しているのはほぼ辺境伯家の領地ですが、僅かに隣領地も接していました。地図で見ても首を傾げるくらい僅かです。
「ここは川です。そのため監視兵が足りないのではないかと」
妖精王様が指摘されました。国境といえど、辺境伯家の隣にある小さな子爵家は戦う力を持ちません。領地も小さく、かろうじて三角の領地の先が隣国に接しているだけでした。監視らしい監視は行っていないでしょう。川下に当たるアクセーン王国から侵入した事例は、過去に報告がありませんでした。
平民同士の交流はあれど、国としては国境が接している認識がほとんどない場所です。それも川と河原が繋がっているだけの接点……普通は気にしないでしょう。今回も妖精達の報告がなければ、誰も信じないほど目立たない場所でした。
「よく見つけたな」
「以前から目を付けていたようですね。戦を仕掛けるならば、ここから攻め上がるつもりだったと思います。妖精達によれば、何度もアクセーン王国の制服の兵士を見かけたそうです」
アクセーン王国の王太子殿下は、私を誘拐しようと計画したことがあります。妖精王様に邪魔され、崖を崩して道を塞がれたので未遂で終わりました。その後もこそこそと計画を練っていたのでしょうか。崖のある街道を通らないルートを見つけていました。
「これは国王陛下にご相談の案件だな」
「はい、お任せします」
驚いた顔をしたアレクシス様は、叱りつけるように眉を寄せて声を低くしました。何か怒らせてしまったのでしょうか。
「これは妖精王様の情報だ」
「はい」
「つまり、ヴィーの手柄なのだぞ? なぜ俺に任せる!」
「情報は私経由ですが、何もしていないからですわ。集めたのは妖精王様、それを元に戦略を練って戦うのはアレクシス様でしょう。私は中継しただけで手柄はございません」
むっとした顔でさらに言い募ろうとしたアレクシス様ですが、朝食のお呼び出しが入りました。王宮の侍女に笑顔で「今参ります」と答え、アレクシス様へ手を差し伸べます。腕を組んで並んで歩く間も、アレクシス様のご機嫌は直りませんでした。
殿方って難しいですわ。別に手柄を譲る気はございませんし、適材適所ですのに。こういう高潔なところ、国王陛下にアピールしたら良いかも知れませんね。
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