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41.あの方は無理なんですの
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アクセーン王国の王太子殿下は、私の求婚者の一人でした。それも熱心な方です。未来の王妃にと望まれ、三回ほどお断りいたしました。勉学に励み武術に長けたお方と聞いておりますが、それでしたら国内の優秀なご令嬢を娶るのにも困りませんわね。
私が嫁ぎたいのはアレクシス様お一人。それ以外の殿方は目に入りませんでした。何より、顔だけの私が王妃ですって? 国王になって舵取りをなさるお方が、そのような愚かな決断をする国と運命を共にしたくありませんわ。
事実、この聖ゼリア国では別の決断をしました。王太子殿下が私を妻にと望まれましたが、国王陛下がお断りになったのです。当然ですわ、王太子殿下は立派な王太子妃を選んでいただかなくてはなりません。
教養や外交能力に長けた、美しく華やかな方がいいですね。国王陛下のご英断のお陰で、王太子殿下の婚約者はハルネス侯爵令嬢に決まりました。貴族学院一の才女ですし、赤い巻毛に緑の瞳を持つ美女ですわ。
我が国は安泰ですわね。
「処刑は我が国で行う。移動させて逃げられでもしたら、外交問題になるからね」
逃すとしたら、隣国アクセーンが疑われます。元家族やその依頼を受けた者、または本人を慕う友人や使用人など。そのため、アクセーン王国側から第二王子殿下が立ち合いに向かっているようです。
「王太子殿下が是非にと望んだが、さすがに断ったよ」
「ありがとうございます、お兄様。私、あの方は無理なんですの」
王太子殿下の立ち会いとなれば、こちらもあれこれ気を回さなくてはいけません。何より、あの方は許可もなく私の手や肩に触れたがるので……正直、お会いしたくありませんわ。直球で答えた私に、お兄様は額を押さえました。
「人前では、好きになれない程度の表現に抑えてくれ」
「もちろんですわ。さすがに弁えております」
嫌ですわね、お兄様ったら。淑女たる者、そんな言葉を直接……最後にお断りした時に言ったかも? でも過去のことです。今後はレードルンド辺境伯夫人となるのですから、きっちり線を引きますわよ。
「まあいい。第二王子殿下は常識人だからな。婚約の祝いの品も持参するそうだ」
「まぁ」
妖精姫や公爵令嬢に対してなら理解できますが、その贈り物を受け取っても平気かしら。心配になって視線を向けると、お兄様が肩を竦めた。
「迷惑料と賠償を兼ねているから、遠慮なく受け取って構わない。国王陛下を通して話はついている」
それなら安心ですね。アレクシス様は少し考え込んでいます。
「どうなさいましたの?」
「いや、アクセーン王国から聖ゼリア国に入る際、我が領地を抜けなければならないはずだが」
どうやって入り込んだのか、そう呟くアレクシス様の意見にお兄様も眉間に皺を寄せました。
二国間は険しい山脈が横たわり、街道は限られています。しかし隣国の公爵令息が通れば、申請と許可の記録が残るはずです。アレクシス様のご様子では、それが確認できなかったのでしょう。
「誰かが手助けしたのかしらね。偽の通行証を発行したり?」
思いつきで口にしたのですが、アレクシス様は「あり得る」と深刻な表情になりました。手を伸ばし、顔の皺を両手で伸ばします。
「っ、ヴィー?」
「せっかくの大好きなお顔が皺だらけになってしまいますわ」
見つめ合う私達に、思わぬところから邪魔が入りました。
「私の顔はどうでもいいんだな」
お兄様ったら、妹相手に何を仰るのですか。そういうのは、婚約者であるカルネウス侯爵令嬢となさって。
私が嫁ぎたいのはアレクシス様お一人。それ以外の殿方は目に入りませんでした。何より、顔だけの私が王妃ですって? 国王になって舵取りをなさるお方が、そのような愚かな決断をする国と運命を共にしたくありませんわ。
事実、この聖ゼリア国では別の決断をしました。王太子殿下が私を妻にと望まれましたが、国王陛下がお断りになったのです。当然ですわ、王太子殿下は立派な王太子妃を選んでいただかなくてはなりません。
教養や外交能力に長けた、美しく華やかな方がいいですね。国王陛下のご英断のお陰で、王太子殿下の婚約者はハルネス侯爵令嬢に決まりました。貴族学院一の才女ですし、赤い巻毛に緑の瞳を持つ美女ですわ。
我が国は安泰ですわね。
「処刑は我が国で行う。移動させて逃げられでもしたら、外交問題になるからね」
逃すとしたら、隣国アクセーンが疑われます。元家族やその依頼を受けた者、または本人を慕う友人や使用人など。そのため、アクセーン王国側から第二王子殿下が立ち合いに向かっているようです。
「王太子殿下が是非にと望んだが、さすがに断ったよ」
「ありがとうございます、お兄様。私、あの方は無理なんですの」
王太子殿下の立ち会いとなれば、こちらもあれこれ気を回さなくてはいけません。何より、あの方は許可もなく私の手や肩に触れたがるので……正直、お会いしたくありませんわ。直球で答えた私に、お兄様は額を押さえました。
「人前では、好きになれない程度の表現に抑えてくれ」
「もちろんですわ。さすがに弁えております」
嫌ですわね、お兄様ったら。淑女たる者、そんな言葉を直接……最後にお断りした時に言ったかも? でも過去のことです。今後はレードルンド辺境伯夫人となるのですから、きっちり線を引きますわよ。
「まあいい。第二王子殿下は常識人だからな。婚約の祝いの品も持参するそうだ」
「まぁ」
妖精姫や公爵令嬢に対してなら理解できますが、その贈り物を受け取っても平気かしら。心配になって視線を向けると、お兄様が肩を竦めた。
「迷惑料と賠償を兼ねているから、遠慮なく受け取って構わない。国王陛下を通して話はついている」
それなら安心ですね。アレクシス様は少し考え込んでいます。
「どうなさいましたの?」
「いや、アクセーン王国から聖ゼリア国に入る際、我が領地を抜けなければならないはずだが」
どうやって入り込んだのか、そう呟くアレクシス様の意見にお兄様も眉間に皺を寄せました。
二国間は険しい山脈が横たわり、街道は限られています。しかし隣国の公爵令息が通れば、申請と許可の記録が残るはずです。アレクシス様のご様子では、それが確認できなかったのでしょう。
「誰かが手助けしたのかしらね。偽の通行証を発行したり?」
思いつきで口にしたのですが、アレクシス様は「あり得る」と深刻な表情になりました。手を伸ばし、顔の皺を両手で伸ばします。
「っ、ヴィー?」
「せっかくの大好きなお顔が皺だらけになってしまいますわ」
見つめ合う私達に、思わぬところから邪魔が入りました。
「私の顔はどうでもいいんだな」
お兄様ったら、妹相手に何を仰るのですか。そういうのは、婚約者であるカルネウス侯爵令嬢となさって。
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