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39.エールヴァール公爵家の品位に関わりますわ

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 翌日も早朝からお屋敷は騒がしく、物音で目を覚ましました。すでにアレクシス様のお姿はなくて、朝の鍛錬かしらと欠伸をひとつ。エレンが入室して、すぐに身嗜みを整えてくれました。その際に聞いた話では、お兄様が明け方近くに馬で駆け込んだとか。

 昨日のお父様を思いだしますわ。本当に親子でそっくり、アレクシス様にご迷惑をおかけするなんて! お父様もお兄様も困った方々ね。そう口にしたら、エレンが「ご自覚のないことがすごいです」と呟きました。私ですか? ご迷惑なんて……少年姿の時くらいですわ。

 大急ぎで階下に降りれば、お兄様も朝食を食べておりませんでした。

「お兄様、昨日のお父様もそうですが……エールヴァール公爵家の品位に関わりますわ。朝食くらい済ませてきてください」

「お前に品位を言われると傷つくが、確かにレードルンド辺境伯家に迷惑をかけることは詫びよう」

 お兄様、お言葉に棘があります。睨むと目を逸らされました。そうして逃げるくらいなら、最初から私にケンカを売らないで頂きたいわ。絶賛高価買取中ですのよ。

「食事にしよう」

 お兄様との間で遠慮が消えたようで、アレクシス様は落ち着いた口調ながら普段使いの言葉で促しました。貴族屋敷でよく見る食堂の机は長く広いですが、出来るだけ距離を詰めて座ります。向かいに腰を下ろしたお兄様は、運ばれたスープから手を付けました。

 美味しく柔らかいパン、卵はふわふわで薄切り肉はカリカリです。軽い雑談を交えながら食事を終え、私はお兄様に尋ねました。

「オリアン洋裁店の方とのお約束はいつ頃ですか」

「昼過ぎにした」

 では早朝から訪ねてくるのは早すぎでは? 首を傾げたものの、お父様もお兄様もせっかちなのを思い出しました。私のことになると心配性なのも昔からです。

「ベントソン公爵家次男の件だが」

「どの方でしょう?」

 首を傾げる私に、お兄様が丁寧に説明を始めました。ベントソン公爵家は隣国の貴族です。前王女殿下が降嫁されたお家柄で、次男は現国王陛下の甥にあたり……ああ、おととい私を誘拐した方ですね。頷いて納得した後、用意された紅茶で喉を湿らせました。

「気分は悪くないか? もしヴィーが辛いなら」

「ご心配ありがとうございます。慣れておりますわ」

 慣れているのが問題なのだと頭を抱える兄と違い、アレクシス様はお顔を曇らせました。お兄様はすぐ立ち直り、明日以降の予定を口早に並べます。明日はまだ屋敷にいて構わないようですが、今度はお母様がお父様と午後からお茶に見えられる。明後日は国王陛下との謁見が予定されており、ついでに午餐会も行うようです。正装で行かなければなりませんね。

「午餐会……」

 嫌そうに呟くアレクシス様ですが、見る限りマナーも完璧です。何も心配ないですわ。笑顔でそう伝えましたら、心配事はマナーではないとのこと。殿方の思いを汲み取るのは難しいですね。王妃殿下やお母様に改めてご指導をお願いしましょう。
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