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33.殿方は害虫駆除が重要なのだそうです

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 食堂へ通されたお父様は、笑顔で「邪魔するよ」と席に着かれました。やはり朝食を食べずに駆けつけたのですね。お母様に言いつけますわよ。

 体調を心配するお母様は厳しいので、お父様は青い顔で「それはやめてくれ」と仰いました。考えておきますと返事をして、運ばれた料理に手を伸ばします。

「このスープ、美味しいです。アスパラかしら?」

「はい、若奥様がお好きだと伺いましたので」

 料理運びは侍女が行いますが、説明は執事のアントンの仕事です。彼の説明より早く、香りだけで察してしまいました。笑顔になった私は、ホワイトアスパラのスープを口に運びます。これは……実家のスープと並ぶお味ですね。こちらの方が塩味が強いのですが、ハーブの香りがして。甲乙つけ難いとは、こういう場面で使うのでしょう。

「すごく美味しいですわ」

 二口目を堪能し、サラダも引き寄せました。オリーブの実とスモークしたお魚でしょうか。ドレッシングは柑橘系でとても上品なお味ですね。

 朝食なので、メインは卵料理になります。添えられる燻製肉のスライスがよい塩加減で、パンが進みますわ。昨日誘拐された影響で、夕食を食べ損ねましたの。だって真剣な顔で「休んだほうがいい」と言われたら、お腹が空いたなんて言えませんでした。

 お代わりもして満足したところで、ようやく話に耳を傾ける余裕が出来ましたわ。この間に、お父様とアレクシス様は何やら難しいお話をしていたようで、眉間に皺が寄っています。気が引けるのですが、控えるエレンに手紙を持ってきてもらうよう頼みました。

 嫌なことは一度に済ませた方がいいですよね。

「お父様、アレクシス様。こちらのお手紙なのですが、判断をお願いいたします」

 各王侯貴族が送った封蝋付きの手紙、開封せずに捨てるのは問題でしょう。今まではお兄様が処理していましたが、お父様がいらっしゃるなら預けてもいいですよね。笑顔で差し出した手紙を束ねた塊に、アレクシス様は目を見開きました。

「すごい量だな」

 逆にお父様は額を押さえて「またか」とぼやきます。すぐに束ねた紐を解き、並べ直し始めました。国ごとの分類ですわね。それから爵位順に並べたようです。心得た様子でアントンがペーパーナイフを差し出しました。

「アレクシス殿、今後これは君の仕事になる。地位に関係なく、ヴィーに近付く虫を駆除するのが大事だ。権力なら、国王陛下がご協力くださる」

「そういった類の手紙なのですか」

 あら、お父様が相手では敬語に近くなるのですね。私に対して砕けた口調なのが、余計に嬉しく感じます。特別な感じがしますもの。

 笑顔でにこにこしながら、用意された紅茶を楽しみます。今日はミントを浮かべたのですね。ミントだけで淹れたミントティーも好きですが、紅茶に浮かべて香りを楽しむのも素敵です。

 このお屋敷で美味しい食事とお茶を楽しむ贅沢は、私の自慢になりそうですわ。近々お母様やシベリウス侯爵夫人をお招きするので、たっぷり自慢しましょう。

「これはっ!」

 声を漏らしたアレクシス様より、憤怒の形相のお父様が怖いですね。あまり興奮し過ぎるとお体に触りますわ、お父様。
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