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22.今夜こそ夜這いを成功させますわ

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 鼻歌を歌いながらお風呂で湯に浸かります。洗った髪に香油を梳いて、肌も侍女に頼んでぴかぴかに磨き上げてもらいました。口を揃えて「お美しいですわ」と褒められるので、ありがとうと返しておきました。

 以前、そんなことありませんわと謙遜したら、王妃殿下に言われたのです。美人がそうやって謙遜したら、他の人はどうしたらいいのかしら? 誇れとは言わないけれど、謙遜は嫌味に聞こえますよ、と。

 シベリウス侯爵夫人に相談したところ、お礼を言うのはどうかと提案されました。お礼ならば聞いた人が嫌な思いはしませんし、褒めていただいたお礼を口にするのは恥ずかしくありません。完璧な作法ですわ。

 私の社交界の師匠であるシベリウス侯爵夫人に教わった作法によれば、まず殿方を口説く。告白して愛を確かめ合い、気持ちを確認したら接触を増やす。最後に夜這いして押し倒すのでしたね。何度も頭の中で手順を確認します。

 今度こそミスは許されません。告白は終わりました。きちんとフルネームで愛を告げたので、勘違いが発生する余地はありませんね。接触と夜這いは先走って実行してしまったので、今回は終了扱いとしましょう。やはり、今夜も窓から侵入の一択です。

「やはり窓は開けておいてとお願いするべきかしら」

 先日のようにすぐ気づいていただければいいですが、すでに休まれた後でしたら朝まで放置ですわ。それはかなり恥ずかしいですね。世間の方々は「妖精姫は病弱で儚い」と考えておられますが、それは幻想です。だって妖精王の加護がありますもの。

 寒い夜風は遮られますし、水に濡れてもすぐ乾きます。常に妖精が適温を保ってくれるので、風邪を引く機会もありませんでした。儚く病弱と勘違いされた原因のひとつに、領地で年頃まで過ごしたことが影響しています。あれは誘拐対策だったのですが……療養扱いになっていましたっけ。

 考え事をしながら呟いた私の言葉に、侍女のエレンが反応しました。嫁ぐと決めた私についてきてくれた公爵家の侍女です。所属はまだ移動しておりませんが、私が結婚する時にレードルンド辺境伯家に移動予定でした。

「お嬢様、窓を開けて何をなさるおつもりですか」

「夜這いよ」

 ほかに窓から入る用事なんてないわ。言い切った私にエレンは溜め息をつき、他の侍女を遠ざけました。何かおかしなこと言ったかしら。小首を傾げる私の髪をタオルで乾かしながら、エレンは首を横に振りました。

「窓からの移動は危険です。それと夜這いなど、公爵令嬢が口にする単語ではございません」

「でもシベリウス侯爵夫人に教えていただいたの」

 ちっと舌打ちするエレンを振り返るけれど、表面上は穏やかな笑みを浮かべていて。今の舌打ちは幻聴? 判断が出来ず、促されてまた前を向きます。

「婚約者の寝室を夜に訪ねるなら、通い扉をご利用くださいませ」

「鍵をかけられているわ」

「ご安心ください。私が開錠しておきます」

 にっこり笑うエレンの手に、髪留め用のピンが光ります。正面の鏡越しに確認し、私はぱちんと手を叩きました。なるほど、鍵を開ければよかったのですね。それならば妖精王のお力を借りずに夜這いが出来ます。

「頼みましたよ、エレン」

「お任せください、お嬢様」

 浴室を出てすぐ、やや透けた下着を纏います。上にガウンを羽織って水を飲みました。柑橘のすっきりした香りのお水はよく冷えていて、気持ちが落ち着きますね。私が休んでいる間に、エレンはピンで扉を開けてしまいました。

「今夜こそは!」

 気合を入れて、いざ! 
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