11 / 113
11.夜這いの作法はばっちり予習済み
しおりを挟む
※まだ夜這いしていません
*********************
髪の色は染めて誤魔化すことが出来ますが、瞳の色を変える魔法はありません。この世界で使われる魔法のほとんどは、妖精が力を貸したことにより実現します。
この瞳が虹色であったことで、王家と公爵家は私の保護に力を入れました。先代王妹の孫で血が繋がっているから。そんな理由だけで、一国の王が他国との婚姻を妨げるなどおかしいのです。ただ、妖精姫となる女性は、必ず美しい外見を持って生まれました。
髪色はさまざまで、黒髪から銀髪、金髪、赤毛。その種類は多岐に渡ります。それ故に他国には漏れていない。私がこの国から連れ出される危険を防ぐ能力を持ち、身も心も捧げたい恩人――レードルンド辺境伯アレクシス様。
逞しい腕にしっかりとしがみつき、豊満な胸を押し付けました。そっぽを向いていますが、真っ赤な首筋でバレていますわ。
「素敵なお部屋ですわね」
腕を離してぐるりと見て回る間に、アレクシス様が通い扉に近づきました。アントンが後ろで鍵を渡し、大急ぎで錠をかけています。全くもって失礼ですわ。まるで私が夜這いをかけるようではありませんか。
夜這いは窓から行くのがマナーですのに。見た目の華やかさと裏腹に、中身がサバサバした私は貴族令嬢の友人はあまり多くありません。ですが、年上の貴族夫人の皆様には、大変可愛がっていただいております。
私より顔の広い令嬢は、我が国の社交界にいないでしょうね。令嬢の枠をなくせば、王妃殿下が一番ですけれど。その奥様方に教えていただいたのです。夜這いの作法は、窓から侵入でした。
通い扉を閉じるのは想定内です。すたすたと窓に近づき、テラスへ続くガラス扉を開きました。手入れされた庭を見るふりで、隣室との距離を測ります。手すりに乗って跳べば、届きそう……。ギリギリですわね。
部屋に戻り、笑顔でこの部屋がいいと強請りました。この部屋でなくては、窓からの侵入に手こずりますもの。
「あ、ああ。好きな部屋を使ってくれ」
「ありがとうございます。アレクシス様」
準備は整いました。後は実家から持ち込んだ香油で体を磨き、透け透けの寝着で強襲するだけ。今夜が楽しみです。
アントンが食事の準備が出来たと告げたので、一緒に下の食堂へ向かいました。その間に、ドレスや小物を運び込んでもらう手筈です。貴族の令嬢や夫人は、自分で片付けをしません。取り出すのが侍女なので、彼女達が分かりやすいよう片付けてもらう必要があるのです。
食堂は立派な一枚板のテーブルが据えられていますが、当然、アレクシス様のすぐ近くに座りました。出されたサラダは新鮮で、スープも上品なお味です。焼きたてで柔らかなパンと、塊肉の入ったオムレツも最高でした。
「料理長にお礼を伝えてくださいね。とても美味しかったですわ」
デザートまでしっかり食べ、儚げな印象を払拭する。これ以上、深窓の御令嬢ぶる必要はありませんので。ぴょんと頭の上から逃げていく猫は、しばらく不要ですわね。
*********************
髪の色は染めて誤魔化すことが出来ますが、瞳の色を変える魔法はありません。この世界で使われる魔法のほとんどは、妖精が力を貸したことにより実現します。
この瞳が虹色であったことで、王家と公爵家は私の保護に力を入れました。先代王妹の孫で血が繋がっているから。そんな理由だけで、一国の王が他国との婚姻を妨げるなどおかしいのです。ただ、妖精姫となる女性は、必ず美しい外見を持って生まれました。
髪色はさまざまで、黒髪から銀髪、金髪、赤毛。その種類は多岐に渡ります。それ故に他国には漏れていない。私がこの国から連れ出される危険を防ぐ能力を持ち、身も心も捧げたい恩人――レードルンド辺境伯アレクシス様。
逞しい腕にしっかりとしがみつき、豊満な胸を押し付けました。そっぽを向いていますが、真っ赤な首筋でバレていますわ。
「素敵なお部屋ですわね」
腕を離してぐるりと見て回る間に、アレクシス様が通い扉に近づきました。アントンが後ろで鍵を渡し、大急ぎで錠をかけています。全くもって失礼ですわ。まるで私が夜這いをかけるようではありませんか。
夜這いは窓から行くのがマナーですのに。見た目の華やかさと裏腹に、中身がサバサバした私は貴族令嬢の友人はあまり多くありません。ですが、年上の貴族夫人の皆様には、大変可愛がっていただいております。
私より顔の広い令嬢は、我が国の社交界にいないでしょうね。令嬢の枠をなくせば、王妃殿下が一番ですけれど。その奥様方に教えていただいたのです。夜這いの作法は、窓から侵入でした。
通い扉を閉じるのは想定内です。すたすたと窓に近づき、テラスへ続くガラス扉を開きました。手入れされた庭を見るふりで、隣室との距離を測ります。手すりに乗って跳べば、届きそう……。ギリギリですわね。
部屋に戻り、笑顔でこの部屋がいいと強請りました。この部屋でなくては、窓からの侵入に手こずりますもの。
「あ、ああ。好きな部屋を使ってくれ」
「ありがとうございます。アレクシス様」
準備は整いました。後は実家から持ち込んだ香油で体を磨き、透け透けの寝着で強襲するだけ。今夜が楽しみです。
アントンが食事の準備が出来たと告げたので、一緒に下の食堂へ向かいました。その間に、ドレスや小物を運び込んでもらう手筈です。貴族の令嬢や夫人は、自分で片付けをしません。取り出すのが侍女なので、彼女達が分かりやすいよう片付けてもらう必要があるのです。
食堂は立派な一枚板のテーブルが据えられていますが、当然、アレクシス様のすぐ近くに座りました。出されたサラダは新鮮で、スープも上品なお味です。焼きたてで柔らかなパンと、塊肉の入ったオムレツも最高でした。
「料理長にお礼を伝えてくださいね。とても美味しかったですわ」
デザートまでしっかり食べ、儚げな印象を払拭する。これ以上、深窓の御令嬢ぶる必要はありませんので。ぴょんと頭の上から逃げていく猫は、しばらく不要ですわね。
36
お気に入りに追加
911
あなたにおすすめの小説

皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。

【完結】白い結婚成立まであと1カ月……なのに、急に家に帰ってきた旦那様の溺愛が止まりません!?
氷雨そら
恋愛
3年間放置された妻、カティリアは白い結婚を宣言し、この結婚を無効にしようと決意していた。
しかし白い結婚が認められる3年を目前にして戦地から帰ってきた夫は彼女を溺愛しはじめて……。
夫は妻が大好き。勘違いすれ違いからの溺愛物語。
小説家なろうにも投稿中
誰にも言えないあなたへ
天海月
恋愛
子爵令嬢のクリスティーナは心に決めた思い人がいたが、彼が平民だという理由で結ばれることを諦め、彼女の事を見初めたという騎士で伯爵のマリオンと婚姻を結ぶ。
マリオンは家格も高いうえに、優しく美しい男であったが、常に他人と一線を引き、妻であるクリスティーナにさえ、どこか壁があるようだった。
年齢が離れている彼にとって自分は子供にしか見えないのかもしれない、と落ち込む彼女だったが・・・マリオンには誰にも言えない秘密があって・・・。

どなたか私の旦那様、貰って下さいませんか?
秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
私の旦那様は毎夜、私の部屋の前で見知らぬ女性と情事に勤しんでいる、だらしなく恥ずかしい人です。わざとしているのは分かってます。私への嫌がらせです……。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
政略結婚で、離縁出来ないけど離縁したい。
無類の女好きの従兄の侯爵令息フェルナンドと伯爵令嬢のロゼッタは、結婚をした。毎晩の様に違う女性を屋敷に連れ込む彼。政略結婚故、愛妾を作るなとは思わないが、せめて本邸に連れ込むのはやめて欲しい……気分が悪い。
彼は所謂美青年で、若くして騎士団副長であり兎に角モテる。結婚してもそれは変わらず……。
ロゼッタが夜会に出れば見知らぬ女から「今直ぐフェルナンド様と別れて‼︎」とワインをかけられ、ただ立っているだけなのに女性達からは終始凄い形相で睨まれる。
居た堪れなくなり、広間の外へ逃げれば元凶の彼が見知らぬ女とお楽しみ中……。
こんな旦那様、いりません!
誰か、私の旦那様を貰って下さい……。
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

私が、良いと言ってくれるので結婚します
あべ鈴峰
恋愛
幼馴染のクリスと比較されて悲しい思いをしていたロアンヌだったが、突然現れたレグール様のプロポーズに 初対面なのに結婚を決意する。
しかし、その事を良く思わないクリスが・・。

麗しの王子殿下は今日も私を睨みつける。
スズキアカネ
恋愛
「王子殿下の運命の相手を占いで決めるそうだから、レオーネ、あなたが選ばれるかもしれないわよ」
伯母の一声で連れて行かれた王宮広場にはたくさんの若い女の子たちで溢れかえっていた。
そしてバルコニーに立つのは麗しい王子様。
──あの、王子様……何故睨むんですか?
人違いに決まってるからそんなに怒らないでよぉ!
◇◆◇
無断転載・転用禁止。
Do not repost.

結婚結婚煩いので、愛人持ちの幼馴染と偽装結婚してみた
夏菜しの
恋愛
幼馴染のルーカスの態度は、年頃になっても相変わらず気安い。
彼のその変わらぬ態度のお陰で、周りから男女の仲だと勘違いされて、公爵令嬢エーデルトラウトの相手はなかなか決まらない。
そんな現状をヤキモキしているというのに、ルーカスの方は素知らぬ顔。
彼は思いのままに平民の娘と恋人関係を持っていた。
いっそそのまま結婚してくれれば、噂は間違いだったと知れるのに、あちらもやっぱり公爵家で、平民との結婚など許さんと反対されていた。
のらりくらりと躱すがもう限界。
いよいよ親が煩くなってきたころ、ルーカスがやってきて『偽装結婚しないか?』と提案された。
彼の愛人を黙認する代わりに、贅沢と自由が得られる。
これで煩く言われないとすると、悪くない提案じゃない?
エーデルトラウトは軽い気持ちでその提案に乗った。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる