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03.他の方に嫁げと仰るなら命を絶ちます
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「ですが……」
言い淀んだアレクシス様は、言葉に出来なかった部分を仕草で示されました。ドラゴンを屠った時、顔に受けた大きな傷痕を撫でる指先は震えています。抉られたような傷は、塞がった部分がケロイド状になっていました。その上、周囲は引き攣れて元の優しいお顔が台無しですね。
ただ、私が惚れたのは昔のお顔ではありません。もちろん外見がまったく気にならないと言えば、嘘になります。傷が怖いとは思いませんが、痛そうだなと感じました。
「お顔の傷が気になりますか?」
「顔だけではない。ご令嬢が見れば卒倒するような悍ましい傷痕が……体の至る所に残っているのだ。夫婦になるなど、簡単に口になさらない方がよろしい」
国王陛下との会話ではないせいか、少し砕けた口調になりました。こちらの方が素敵ですわ。アレクシス様の雰囲気に似合っていますもの。ふわりと微笑んだ私から、真っ赤になった彼が目を逸らした。
どうやら色仕掛けは通用しそうですね。今は、妖精姫と称される美貌の持ち主に生まれて良かったと思いますわ。意中の殿方を落とせそうです。
「私はレードルンド辺境伯閣下以外の方に嫁ぐ気はございませんわ。もし他の方に嫁げと仰るなら、私は命を絶ちます」
申し訳ございませんが、逃がしません。あなた様の自由意思を奪う償いは、一生かけてお傍にいることで代えさせてください。きっぱり強く言い放った私の言葉に、王妃殿下が感動したご様子。ご想像された内容ではないと思いますわ……たぶん。
「強さだけなら他にも男はいるだろう」
「ええ、顔の整った美しい方も、財力や権力に溢れた方も……私は選び放題です。だからこそ、あなた様を選んだのですわ。これでも審美眼は自信がありますの」
「……審美眼はゼロだな」
ぼそっと仰いました言葉、私には聞こえておりました。国王陛下や王妃殿下は気付いておられないようですね。お父様は心配そうに額の汗をしきりに拭います。嫌ですわ、いくら私でも国王陛下の前でやらかす気はございませんのに。
「国王陛下、ならびに王妃殿下。お約束通り、私の選んだ方との婚約をお認め下さいませ」
「ああ、もちろんだ!」
「我が国に留まってくれるんですもの、断る理由がないわ」
そうでしょう? ふふっと笑い、困惑して渋面になった未来の夫の腕に触れた。びくりと揺れた肩にも、触れた左腕にも大きな傷が走っている。心配なさらなくても知っております。そう匂わせて、意味ありげに服の上から撫でた。
「お名前を、アレクシス様と呼ぶ許しを頂けますか」
妖精姫渾身の笑顔で口説きにかかる。大丈夫、アレクシス様は私を嫌っていない。今のうちに私の存在を刷り込んで、手離せなくしてしまわなくては! 一歩近づけば、アレクシス様は一歩下がる。縮まらない距離に耐えかねて、お名前を呼ぶ許可を願う。
王太子殿下が羨ましそうな表情で私達を見つめる。あなた様には立派な婚約者がおられるでしょう? 淑女の鑑と称される美しい隣国の姫との結婚が決まっていました。ちなみに王太子殿下は、私が社交界デビューした15歳の頃から毎年告白され、すべてお断りしてきました。
王太子殿下の視線、壁に立つ騎士や侍女の無言の圧力、国王陛下や王妃殿下の期待の眼差し……すべてを受けて、アレクシス様の喉がごくりと動きます。
「……途中で断るなら、いま言ってくれ」
引導を渡されるなら早い方が良い――潔いですが、お諦めくださいね。私、諦めが悪いんですの。
言い淀んだアレクシス様は、言葉に出来なかった部分を仕草で示されました。ドラゴンを屠った時、顔に受けた大きな傷痕を撫でる指先は震えています。抉られたような傷は、塞がった部分がケロイド状になっていました。その上、周囲は引き攣れて元の優しいお顔が台無しですね。
ただ、私が惚れたのは昔のお顔ではありません。もちろん外見がまったく気にならないと言えば、嘘になります。傷が怖いとは思いませんが、痛そうだなと感じました。
「お顔の傷が気になりますか?」
「顔だけではない。ご令嬢が見れば卒倒するような悍ましい傷痕が……体の至る所に残っているのだ。夫婦になるなど、簡単に口になさらない方がよろしい」
国王陛下との会話ではないせいか、少し砕けた口調になりました。こちらの方が素敵ですわ。アレクシス様の雰囲気に似合っていますもの。ふわりと微笑んだ私から、真っ赤になった彼が目を逸らした。
どうやら色仕掛けは通用しそうですね。今は、妖精姫と称される美貌の持ち主に生まれて良かったと思いますわ。意中の殿方を落とせそうです。
「私はレードルンド辺境伯閣下以外の方に嫁ぐ気はございませんわ。もし他の方に嫁げと仰るなら、私は命を絶ちます」
申し訳ございませんが、逃がしません。あなた様の自由意思を奪う償いは、一生かけてお傍にいることで代えさせてください。きっぱり強く言い放った私の言葉に、王妃殿下が感動したご様子。ご想像された内容ではないと思いますわ……たぶん。
「強さだけなら他にも男はいるだろう」
「ええ、顔の整った美しい方も、財力や権力に溢れた方も……私は選び放題です。だからこそ、あなた様を選んだのですわ。これでも審美眼は自信がありますの」
「……審美眼はゼロだな」
ぼそっと仰いました言葉、私には聞こえておりました。国王陛下や王妃殿下は気付いておられないようですね。お父様は心配そうに額の汗をしきりに拭います。嫌ですわ、いくら私でも国王陛下の前でやらかす気はございませんのに。
「国王陛下、ならびに王妃殿下。お約束通り、私の選んだ方との婚約をお認め下さいませ」
「ああ、もちろんだ!」
「我が国に留まってくれるんですもの、断る理由がないわ」
そうでしょう? ふふっと笑い、困惑して渋面になった未来の夫の腕に触れた。びくりと揺れた肩にも、触れた左腕にも大きな傷が走っている。心配なさらなくても知っております。そう匂わせて、意味ありげに服の上から撫でた。
「お名前を、アレクシス様と呼ぶ許しを頂けますか」
妖精姫渾身の笑顔で口説きにかかる。大丈夫、アレクシス様は私を嫌っていない。今のうちに私の存在を刷り込んで、手離せなくしてしまわなくては! 一歩近づけば、アレクシス様は一歩下がる。縮まらない距離に耐えかねて、お名前を呼ぶ許可を願う。
王太子殿下が羨ましそうな表情で私達を見つめる。あなた様には立派な婚約者がおられるでしょう? 淑女の鑑と称される美しい隣国の姫との結婚が決まっていました。ちなみに王太子殿下は、私が社交界デビューした15歳の頃から毎年告白され、すべてお断りしてきました。
王太子殿下の視線、壁に立つ騎士や侍女の無言の圧力、国王陛下や王妃殿下の期待の眼差し……すべてを受けて、アレクシス様の喉がごくりと動きます。
「……途中で断るなら、いま言ってくれ」
引導を渡されるなら早い方が良い――潔いですが、お諦めくださいね。私、諦めが悪いんですの。
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