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本編

第210話 懸案が次々と

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 その夜は結局、アマンダさんからもうひとつの『啓示』に関しての話は出なかった。
 だから俺は告げる。
 『話』が済んだら、違う宿屋か、別々の部屋に泊まるという事を。
 
 しかし肝心の事を言わない癖に、俺達とは『別に』と話した所、アマンダさんはとても嫌がったのだ。

「私は絶対トールさん達と同じ部屋に泊まりたいのですが!」

「アマンダさん、絶対って……悪いけど俺達4人は夫婦なの、夫婦」

 俺はアマンダさんの目の前で、ソフィアと夫婦になる約束をした。
 宿帳にも女性全員が『妻』として記帳してある。
 各自の素性や出自はともかくとして、今更ながら間柄を隠す事などしない。

 だが俺達が一夫多妻制の夫婦だからと、伝えてもアマンダさんは引かなかった。

「それは分かっています! ……でも!」

「でも、何?」

「神様からの啓示なのです」

 あのね、それって……
 邪神様スパイラルの質《たち》の悪い悪戯なんですよ。
 信仰心に付け込まれて、騙されてるんです、貴女が……
 
 ああ、邪神様が大笑いしているのが目に浮かぶ。
 神様って何て、残酷なんだ。

 とりあえず俺は説得を続けた。

「いや、啓示で同じクランになるのは理解出来るけど、貴女とは赤の他人。夜、一緒に寝るのは全く違うから」

「赤の他人? 貴方と私はもう他人ではありません」

 俺の『他人』と言う言葉に、食いついたアマンダさん。
 
 でもね!
 はっきり言います!
 俺だって残念ですけど、貴女とはまだ他人ですって!

「あのね、単にクランメンバーなだけじゃあ普通は友人止まりですよ。まあ百歩譲って昼は良いですよ、同じクランだから。 ……だけど夜は夫婦のプライベートを尊重して下さいよ」

「……分かりました」

 アマンダさんはやっと納得してくれたようだ。
 もうひとつの啓示を言ってくれれば、俺の対応も全然違うのに……
 
 邪神様の陰謀なのは分かっているが、俺だってアマンダさん自体はどストライク。
 ……嫁になりたいと言われたら渡りに船である。
 だけど彼女が自分の意思で俺の嫁にならないなら、残念だが『お断り』だ。

 こうしてアマンダさんは不本意ながら、白鳥亭の違う部屋に寝たのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 翌朝午前6時……

 とんとんとんとん!

 リズミカルなノックの音が鳴り響く。

「だ、誰……だよ?」

 眠い!
 ちょ~眠い!
 何せ、昨晩は遅くまで嫉妬した嫁ズと『頑張った』から……
 なんて、ね。
 今日はアマンダさんと冒険者ギルドへは行くけど、あと2時間は寝ていたい……

 しかし、俺を起こそうとしていたのは……

「私です! アマンダです! トールさん、起きて下さい!」

「は!? アマンダさん!?」

 朝からあの鈴が鳴るような美声を聞いて俺はいっぺんに目が覚めた。

「そうです! 私です! 神の使徒ともあろう方が不規則な生活では困ります、起きて下さい!」

 アマンダさん、困るよ。
 貴女ったら、マル秘事項を思いっきりべらべらと喋っているぜ……

「あ~、待って! 今、起きるから!」

 これ以上、廊下から好き放題話されるのは堪らない。

 傍らの嫁ズはと見ると、昨夜の疲れ?からか、まだ寝ている。
 これはとてもタイミングが良い。
 アマンダさんとふたりっきりで……話すか。

 俺は起きて部屋のドアを開けると、立っていたアマンダさんの手を取った。
 素早い俺の動きに、アマンダさんは手を握られても抵抗する事も出来ない。
 まあ、抵抗……しないだろうけど。
 俺はアマンダさんとしっかり手を繋ぎ、階段を降りて行った。

 ――5分後

 俺とアマンダさんは1階の食堂に居た。
 テーブル席で俺は彼女と正対している。
 白鳥亭の食堂は朝7時からの営業なので、他に客は居ない。

「アマンダさん、話がある!」

「わ、私もあります……色々と」

 色々って……俺の嫁になる事だけじゃあないんだ。
 アマンダさんの放つ魔力波オーラを読めば、分かるけど……それはやめておこう。
 彼女が話すと言っているのだから。

「とりあえず言っておくけど……俺が使徒なのはオフレコだから」

「オフレコ?」

「ああ、御免。絶対に内緒って事、絶対にね」

 内緒という俺に対してアマンダさんは怪訝な表情を見せる。

「どうしてですか? 使徒であれば各所で皆が尽力してくれますよ」

 尽力か……助けてくれるのはありがたいけど。
 でも様々な人達から神の使徒として崇められ、奉られるのは……苦手だ。

「これみよがしにせず、控えめに黙って徳を積むのが神の貴い教えでしょう?」

 すかさず出た美麗字句。
 他の崇高な神様ならいざ知らず、あの性格が凄く凶悪な邪神様だぞ!
 俺は自分で言っておいて、とても辛くなってしまった。

「な、成る程! 素敵ですわ」

 しかしアマンダさんは感激しているみたい。
 何て信心深い。

 ん?
 ……そうだ!
 この人、念話は通じるだろうか?
 そうすれば、朝食の準備をしているだろう、隣の厨房の人に余計な事を聞かれなくて済む。

 俺はアマンダさんへ念話を試してみる事にした。

『アマンダさん、聞こえる?』

「え? えええっ!?」

『静かに!』

『へ!? な、何!? これって神のお声ですか?』

 吃驚したアマンダさんは口に手を当てて悲鳴が漏れまいとしている。
 その仕草はとても可愛い。

『違う! 俺だ、トールだよ。これは念話って奴さ。外には一切聞えない魂同士の会話なんだ。これで話せばお互いに話し易いだろう。貴女の話も含めて』

『トールさん、いえトール様? ……ですか?』

 ああ、良かった。
 やっとまともに、そしてじっくりと話が出来そうだ。
 
 ……さあて、アマンダさんにはどこまで話そうか、な。
 一緒に行動するのなら俺や嫁ズの事はいずれ分かってしまう。
 問題は信心深そうなこの人が『悪魔』を受け入れるかどうか、だ。
 それが一切不可ならば、クランに入れる事も再考しなくてはならない。

 俺は頷き、「話を始めようか」とアマンダさんへ促したのであった。
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