198 / 238
本編
第195話 演者が揃えば開幕待ち
しおりを挟む
ルベウス国の赤い国旗が旗めく王城は、賑やかだった。ぞろぞろと貴族が登城する様子を、各国の王族は窓から見学する。というのも、彼らの出番はかなり後だからだ。開幕から登場するのは、ノアール国王くらいだった。
「あれは何?」
「ああ、象ですわ。ご存知ありませんか? こんな感じの鼻が長い動物です」
「たしか絵本にあったわ」
アゼリアと意気投合したヴィルヘルミーナが、登城する獣人の特徴を確認して説明する。目を輝かせて動物が描かれた絵本と比較するアゼリアを、イヴリースはすぐ隣で微笑ましく見守っていた。ちなみに絵本をプレゼントしたのは魔王で、今もお姫様は膝に乗せている。
ベルンハルトは羨ましく思うものの、イヴリースほど積極的になれなかった。その結果、さり気なくヴィルヘルミーナの長椅子に一緒に腰掛けるのが手一杯だ。窓際に置かれた椅子はこれだけではなかった。
「あなた、ほら。前に戦った獅子のアイブリンガー伯爵よ」
「覚えてるぞ。あの右手の一閃は凄かった」
退屈だからと実家に遊びに来たカサンドラは、この騒動を弟や義妹から聞き出すなり夫を呼びつけた。現在、クリスタ国の王族はすべて出払っている。問題ないかと問われれば問題だらけだった。だが、部下のアルブレヒト侯爵にすべて押し付けて駆けつける。今のアウグストにとって、妻の命令は最優先だった。
かつて辺境伯として自治権を振るったアルブレヒト侯爵なら、それなりに誤魔化してくれるだろう。数日内に転移で戻ればいい。安易に考えたアウグストは、愛用の剣片手に森を駆け抜けたのだ。
窓の下を通る貴族達を眺める女性達をよそに、ベルンハルトは書き取りに忙しかった。入城時に読み上げられる貴族家の名の横に、種族を書き込んでいく。
「あ、そこは虎じゃなく豹よ」
違いが分かりにくい猫科の猛獣の間違いを指摘し、ヴィルヘルミーナが別の欄を指さした。
「これはただの狼じゃなくて、灰色狼と書いて。自尊心が高いの」
「助かります」
婚約者の助けを借りながら、ベルンハルトは貴族年鑑を作っていた。カサンドラが嫁いでから、新しく貴族家が増えたり逆に減ったりした。さらに結婚した後生まれた子が、別種族だったりと入れ替わりが激しい。人間の髪や瞳の色と同じように、遺伝の悪戯で予想外の先祖返りもあるらしい。
一部の盛り上がりをよそに、アゼリアは好奇心から目を輝かせた。見たこともない種類の獣人ばかりで、美しく着飾った奥方のドレスにも目を引かれる。大きな宝石を頭の角につけた女性に気付く。
「あの方は? ツノがあるわ」
「ああ、ヒュッター子爵家だろう。魔族と結婚した珍しい貴族家だ」
自ら婚姻の許可証を発行したため、イヴリースは覚えていた。己の長い寿命を捨て、妻が死んだら一緒に殺してくれるよう願った男の子孫だ。アゼリアが好む物語風にして語り聞かせる間に、登城の行列が途絶えた。
演者となる貴族が集まったことを確認し、ベルンハルトの促しで移動を始める。謁見の大広間に集まった人々を一望できる貴賓室があるらしい。場所を知る元王女の先導で、一行は足早に窓を離れた。
「あれは何?」
「ああ、象ですわ。ご存知ありませんか? こんな感じの鼻が長い動物です」
「たしか絵本にあったわ」
アゼリアと意気投合したヴィルヘルミーナが、登城する獣人の特徴を確認して説明する。目を輝かせて動物が描かれた絵本と比較するアゼリアを、イヴリースはすぐ隣で微笑ましく見守っていた。ちなみに絵本をプレゼントしたのは魔王で、今もお姫様は膝に乗せている。
ベルンハルトは羨ましく思うものの、イヴリースほど積極的になれなかった。その結果、さり気なくヴィルヘルミーナの長椅子に一緒に腰掛けるのが手一杯だ。窓際に置かれた椅子はこれだけではなかった。
「あなた、ほら。前に戦った獅子のアイブリンガー伯爵よ」
「覚えてるぞ。あの右手の一閃は凄かった」
退屈だからと実家に遊びに来たカサンドラは、この騒動を弟や義妹から聞き出すなり夫を呼びつけた。現在、クリスタ国の王族はすべて出払っている。問題ないかと問われれば問題だらけだった。だが、部下のアルブレヒト侯爵にすべて押し付けて駆けつける。今のアウグストにとって、妻の命令は最優先だった。
かつて辺境伯として自治権を振るったアルブレヒト侯爵なら、それなりに誤魔化してくれるだろう。数日内に転移で戻ればいい。安易に考えたアウグストは、愛用の剣片手に森を駆け抜けたのだ。
窓の下を通る貴族達を眺める女性達をよそに、ベルンハルトは書き取りに忙しかった。入城時に読み上げられる貴族家の名の横に、種族を書き込んでいく。
「あ、そこは虎じゃなく豹よ」
違いが分かりにくい猫科の猛獣の間違いを指摘し、ヴィルヘルミーナが別の欄を指さした。
「これはただの狼じゃなくて、灰色狼と書いて。自尊心が高いの」
「助かります」
婚約者の助けを借りながら、ベルンハルトは貴族年鑑を作っていた。カサンドラが嫁いでから、新しく貴族家が増えたり逆に減ったりした。さらに結婚した後生まれた子が、別種族だったりと入れ替わりが激しい。人間の髪や瞳の色と同じように、遺伝の悪戯で予想外の先祖返りもあるらしい。
一部の盛り上がりをよそに、アゼリアは好奇心から目を輝かせた。見たこともない種類の獣人ばかりで、美しく着飾った奥方のドレスにも目を引かれる。大きな宝石を頭の角につけた女性に気付く。
「あの方は? ツノがあるわ」
「ああ、ヒュッター子爵家だろう。魔族と結婚した珍しい貴族家だ」
自ら婚姻の許可証を発行したため、イヴリースは覚えていた。己の長い寿命を捨て、妻が死んだら一緒に殺してくれるよう願った男の子孫だ。アゼリアが好む物語風にして語り聞かせる間に、登城の行列が途絶えた。
演者となる貴族が集まったことを確認し、ベルンハルトの促しで移動を始める。謁見の大広間に集まった人々を一望できる貴賓室があるらしい。場所を知る元王女の先導で、一行は足早に窓を離れた。
0
お気に入りに追加
3,696
あなたにおすすめの小説
その聖女、娼婦につき ~何もかもが遅すぎた~
ノ木瀬 優
恋愛
卒業パーティーにて、ライル王太子は、レイチェルに婚約破棄を突き付ける。それを受けたレイチェルは……。
「――あー、はい。もう、そういうのいいです。もうどうしようもないので」
あっけらかんとそう言い放った。実は、この国の聖女システムには、ある秘密が隠されていたのだ。
思い付きで書いてみました。全2話、本日中に完結予定です。
設定ガバガバなところもありますが、気楽に楽しんで頂けたら幸いです。
R15は保険ですので、安心してお楽しみ下さい。
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
幼馴染が熱を出した? どうせいつもの仮病でしょう?【完結】
小平ニコ
恋愛
「パメラが熱を出したから、今日は約束の場所に行けなくなった。今度埋め合わせするから許してくれ」
ジョセフはそう言って、婚約者である私とのデートをキャンセルした。……いったいこれで、何度目のドタキャンだろう。彼はいつも、体の弱い幼馴染――パメラを優先し、私をないがしろにする。『埋め合わせするから』というのも、口だけだ。
きっと私のことを、適当に謝っておけば何でも許してくれる、甘い女だと思っているのだろう。
いい加減うんざりした私は、ジョセフとの婚約関係を終わらせることにした。パメラは嬉しそうに笑っていたが、ジョセフは大いにショックを受けている。……それはそうでしょうね。私のお父様からの援助がなければ、ジョセフの家は、貴族らしい、ぜいたくな暮らしを続けることはできないのだから。
逆行令嬢は聖女を辞退します
仲室日月奈
恋愛
――ああ、神様。もしも生まれ変わるなら、人並みの幸せを。
死ぬ間際に転生後の望みを心の中でつぶやき、倒れた後。目を開けると、三年前の自室にいました。しかも、今日は神殿から一行がやってきて「聖女としてお出迎え」する日ですって?
聖女なんてお断りです!
神託を聞けた姉が聖女に選ばれました。私、女神様自体を見ることが出来るんですけど… (21話完結 作成済み)
京月
恋愛
両親がいない私達姉妹。
生きていくために身を粉にして働く妹マリン。
家事を全て妹の私に押し付けて、村の男の子たちと遊ぶ姉シーナ。
ある日、ゼラス教の大司祭様が我が家を訪ねてきて神託が聞けるかと質問してきた。
姉「あ、私聞けた!これから雨が降るって!!」
司祭「雨が降ってきた……!間違いない!彼女こそが聖女だ!!」
妹「…(このふわふわ浮いている女性誰だろう?)」
※本日を持ちまして完結とさせていただきます。
更新が出来ない日があったり、時間が不定期など様々なご迷惑をおかけいたしましたが、この作品を読んでくださった皆様には感謝しかございません。
ありがとうございました。
私は聖女(ヒロイン)のおまけ
音無砂月
ファンタジー
ある日突然、異世界に召喚された二人の少女
100年前、異世界に召喚された聖女の手によって魔王を封印し、アルガシュカル国の危機は救われたが100年経った今、再び魔王の封印が解かれかけている。その為に呼ばれた二人の少女
しかし、聖女は一人。聖女と同じ色彩を持つヒナコ・ハヤカワを聖女候補として考えるアルガシュカルだが念のため、ミズキ・カナエも聖女として扱う。内気で何も自分で決められないヒナコを支えながらミズキは何とか元の世界に帰れないか方法を探す。
みんなで追放令嬢を監視しよう!
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
王太子ジョージは、太陽神殿が聖別した魔封の聖女メグを虐めた罪で、婚約者の公爵令嬢オリビアを処刑しようとした。だが父王と重臣達の反対で追放刑に止めることになった。聖女メグに恋する王太子ジョージと若者世代は、オリビアを恐れる聖女メグを安心させるため、重臣達と遠見の鏡でオリビアを監視し、その罪を明らかにして処刑しようとする
【完結】お父様。私、悪役令嬢なんですって。何ですかそれって。
紅月
恋愛
小説家になろうで書いていたものを加筆、訂正したリメイク版です。
「何故、私の娘が処刑されなければならないんだ」
最愛の娘が冤罪で処刑された。
時を巻き戻し、復讐を誓う家族。
娘は前と違う人生を歩み、家族は元凶へ復讐の手を伸ばすが、巻き戻す前と違う展開のため様々な事が見えてきた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる