195 / 238
本編
第192話 王女という厄介な火種
しおりを挟む
「修道院へ入れて二度と世俗に触れない……これ以上の騒動は起こさせないのでなんとか」
穏やかに事を収めて欲しい。矛先を収めてもらえないか。持て余しているとはいえ、娘である事実は変わらない。王太子のように立派に育てられなかったのは、親の責任だ。そう擁護する国王へ、メフィストは不思議そうな目を向けた。
魔族にとっても、血族を絶やさないことは重要だ。己の誇りや魔術を引き継ぐ子孫は、それなりに重要視される。だが、使えない上に他国に迷惑をかけ、一族の名を汚す者を擁護する習慣はなかった。
「使えないのに、甘やかすのですか?」
本心から出た疑問だった。驚きすぎて他に言葉が出てこない。
クリスタ国のカサンドラ達を思い浮かべる。魔王に見初められた娘は自慢だろう。国王となり血を繋ぐ息子も価値がある。だがそこに我が侭で邪魔にしかならない弟妹がいたとして、彼女らは人間のように擁護するだろうか。
育て損ねた責任を痛感し、他国に迷惑をかけた自覚があるなら、このような甘い処罰はあり得ない。修道院へ入れることは、神の妻になる意味だ。つまり宗教的に第三者との結婚を諦めさせ、閉ざされた檻で飼い殺しにする。
甘やかされた王女が我慢できる環境ではない。苦しめるなら早めに止めを刺すのも親の愛ではないか? ぐるぐると頭の中で浮かんでは消える疑問を、そのままぶつけた。
「修道院で大人しくなる女性ではありません。慎ましく暮らす修道女達に我が侭を振りかざし、実家の権威を利用して騒ぐでしょう。万が一にも彼女が他国の男と子を成せば、後の禍いとなるのですよ?」
彼女が女性という点もまずかった。男ならば落胤という形で子供が名乗り出ても、否定することは可能だった。どんなに似ていても、相手の女性が他の男の種をもらった可能性を否定できないからだ。しかし王女の場合は話が違う。
彼女自身の腹から出たという事実があれば、王家の血を引くことを否定できない。何らかの貴族位を与える必要が出てくるだろう。その子供は将来に渡って王家を揺るがす害虫となり得た。
そこまで説明しなくても、国王と王弟クリストフは理解した。青ざめていく彼らの脳裏を過るのは、息子や孫の代になって王家の土台を食い荒らす幻だ。限りなく現実になる可能性が高い。
あのアクアマリン王女は、我が侭で自分勝手だ。裏を返せば、ちょっと煽てて褒めればその気になって動く。何より女性が子を宿すのに同意は不要という、危険な考えも浮かんでいた。
薬で無理やり勃たせても、男は子が出来にくい。メンタル面が伴わない性行為での妊娠確率が低いのは知られていた。だが女性の場合は話が別だ。中に、奥深くに注がれれば眠った状態でも孕む可能性はあった。
「同盟国として提案します。禍根を断つ方法は2つです。王女という存在の抹消、または子を成せない腹にするか」
命を奪う方法が嫌なら、子が出来ぬようにすればいい。彼女だけなら王城の敷地で飼い殺すことも可能でしょう。魔族の宰相らしい残酷な選択肢を与え、メフィストは反応を窺った。
穏やかに事を収めて欲しい。矛先を収めてもらえないか。持て余しているとはいえ、娘である事実は変わらない。王太子のように立派に育てられなかったのは、親の責任だ。そう擁護する国王へ、メフィストは不思議そうな目を向けた。
魔族にとっても、血族を絶やさないことは重要だ。己の誇りや魔術を引き継ぐ子孫は、それなりに重要視される。だが、使えない上に他国に迷惑をかけ、一族の名を汚す者を擁護する習慣はなかった。
「使えないのに、甘やかすのですか?」
本心から出た疑問だった。驚きすぎて他に言葉が出てこない。
クリスタ国のカサンドラ達を思い浮かべる。魔王に見初められた娘は自慢だろう。国王となり血を繋ぐ息子も価値がある。だがそこに我が侭で邪魔にしかならない弟妹がいたとして、彼女らは人間のように擁護するだろうか。
育て損ねた責任を痛感し、他国に迷惑をかけた自覚があるなら、このような甘い処罰はあり得ない。修道院へ入れることは、神の妻になる意味だ。つまり宗教的に第三者との結婚を諦めさせ、閉ざされた檻で飼い殺しにする。
甘やかされた王女が我慢できる環境ではない。苦しめるなら早めに止めを刺すのも親の愛ではないか? ぐるぐると頭の中で浮かんでは消える疑問を、そのままぶつけた。
「修道院で大人しくなる女性ではありません。慎ましく暮らす修道女達に我が侭を振りかざし、実家の権威を利用して騒ぐでしょう。万が一にも彼女が他国の男と子を成せば、後の禍いとなるのですよ?」
彼女が女性という点もまずかった。男ならば落胤という形で子供が名乗り出ても、否定することは可能だった。どんなに似ていても、相手の女性が他の男の種をもらった可能性を否定できないからだ。しかし王女の場合は話が違う。
彼女自身の腹から出たという事実があれば、王家の血を引くことを否定できない。何らかの貴族位を与える必要が出てくるだろう。その子供は将来に渡って王家を揺るがす害虫となり得た。
そこまで説明しなくても、国王と王弟クリストフは理解した。青ざめていく彼らの脳裏を過るのは、息子や孫の代になって王家の土台を食い荒らす幻だ。限りなく現実になる可能性が高い。
あのアクアマリン王女は、我が侭で自分勝手だ。裏を返せば、ちょっと煽てて褒めればその気になって動く。何より女性が子を宿すのに同意は不要という、危険な考えも浮かんでいた。
薬で無理やり勃たせても、男は子が出来にくい。メンタル面が伴わない性行為での妊娠確率が低いのは知られていた。だが女性の場合は話が別だ。中に、奥深くに注がれれば眠った状態でも孕む可能性はあった。
「同盟国として提案します。禍根を断つ方法は2つです。王女という存在の抹消、または子を成せない腹にするか」
命を奪う方法が嫌なら、子が出来ぬようにすればいい。彼女だけなら王城の敷地で飼い殺すことも可能でしょう。魔族の宰相らしい残酷な選択肢を与え、メフィストは反応を窺った。
0
お気に入りに追加
3,696
あなたにおすすめの小説
その聖女、娼婦につき ~何もかもが遅すぎた~
ノ木瀬 優
恋愛
卒業パーティーにて、ライル王太子は、レイチェルに婚約破棄を突き付ける。それを受けたレイチェルは……。
「――あー、はい。もう、そういうのいいです。もうどうしようもないので」
あっけらかんとそう言い放った。実は、この国の聖女システムには、ある秘密が隠されていたのだ。
思い付きで書いてみました。全2話、本日中に完結予定です。
設定ガバガバなところもありますが、気楽に楽しんで頂けたら幸いです。
R15は保険ですので、安心してお楽しみ下さい。
婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです
秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。
そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。
いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが──
他サイト様でも掲載しております。
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
幼馴染が熱を出した? どうせいつもの仮病でしょう?【完結】
小平ニコ
恋愛
「パメラが熱を出したから、今日は約束の場所に行けなくなった。今度埋め合わせするから許してくれ」
ジョセフはそう言って、婚約者である私とのデートをキャンセルした。……いったいこれで、何度目のドタキャンだろう。彼はいつも、体の弱い幼馴染――パメラを優先し、私をないがしろにする。『埋め合わせするから』というのも、口だけだ。
きっと私のことを、適当に謝っておけば何でも許してくれる、甘い女だと思っているのだろう。
いい加減うんざりした私は、ジョセフとの婚約関係を終わらせることにした。パメラは嬉しそうに笑っていたが、ジョセフは大いにショックを受けている。……それはそうでしょうね。私のお父様からの援助がなければ、ジョセフの家は、貴族らしい、ぜいたくな暮らしを続けることはできないのだから。
神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜
星井柚乃(旧名:星里有乃)
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」
「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」
(レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)
美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。
やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。
* 2023年01月15日、連載完結しました。
* ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました!
* 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。
* この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。
* ブクマ、感想、ありがとうございます。
【完結】聖女を害した公爵令嬢の私は国外追放をされ宿屋で住み込み女中をしております。え、偽聖女だった? ごめんなさい知りません。
藍生蕗
恋愛
かれこれ五年ほど前、公爵令嬢だった私───オリランダは、王太子の婚約者と実家の娘の立場の両方を聖女であるメイルティン様に奪われた事を許せずに、彼女を害してしまいました。しかしそれが王太子と実家から不興を買い、私は国外追放をされてしまいます。
そうして私は自らの罪と向き合い、平民となり宿屋で住み込み女中として過ごしていたのですが……
偽聖女だった? 更にどうして偽聖女の償いを今更私がしなければならないのでしょうか? とりあえず今幸せなので帰って下さい。
※ 設定は甘めです
※ 他のサイトにも投稿しています
逆行令嬢は聖女を辞退します
仲室日月奈
恋愛
――ああ、神様。もしも生まれ変わるなら、人並みの幸せを。
死ぬ間際に転生後の望みを心の中でつぶやき、倒れた後。目を開けると、三年前の自室にいました。しかも、今日は神殿から一行がやってきて「聖女としてお出迎え」する日ですって?
聖女なんてお断りです!
神託を聞けた姉が聖女に選ばれました。私、女神様自体を見ることが出来るんですけど… (21話完結 作成済み)
京月
恋愛
両親がいない私達姉妹。
生きていくために身を粉にして働く妹マリン。
家事を全て妹の私に押し付けて、村の男の子たちと遊ぶ姉シーナ。
ある日、ゼラス教の大司祭様が我が家を訪ねてきて神託が聞けるかと質問してきた。
姉「あ、私聞けた!これから雨が降るって!!」
司祭「雨が降ってきた……!間違いない!彼女こそが聖女だ!!」
妹「…(このふわふわ浮いている女性誰だろう?)」
※本日を持ちまして完結とさせていただきます。
更新が出来ない日があったり、時間が不定期など様々なご迷惑をおかけいたしましたが、この作品を読んでくださった皆様には感謝しかございません。
ありがとうございました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる