111 / 238
本編
第108話 犯罪じゃないのか!?
しおりを挟む
「ベルンハルトのお嫁さんが決まったわ!!」
浮かれたカサンドラの発表に、当事者なのに何も知らされなかったベルンハルトが目を見開く。
「えええ! 私が探したかったのに」
がっかりして項垂れるアゼリアだが、すかさず抱き締めるイヴリースが「よしよし」と甘やかす。当たり前のように娘の隣に陣取る魔王に、アウグストは歯噛みする。しかし妻のカサンドラに窘められて、甘えるように彼女を引き寄せた。
やたらと仲のいい父母と、妹と婚約者……間に挟まれる独り身のベルンハルトは溜め息をついた。まさかとは思うが、年の離れた弟妹が出来るかも知れない。覚悟だけはしておこう。場合によっては俺の養子にしてもいいか。そうしたら子供を作らなくていいから、俺は結婚しなくて済むんじゃないか?
子孫に家名や領地を引き継ぐことは、王侯貴族最大の義務だった。もちろん民を守り繁栄させることも重要だが、義務と考えるなら現状維持できれば文句は言われない。
絵姿と釣り書きが向かい合う本のような1冊は、豪華な装丁が施されていた。どうやら金に困った実家が娘を売ったわけではないらしい。見も知らぬ女性を妻として迎えることに抵抗のあるベルンハルトは、現実逃避を兼ねて窓の外へ目を向けた。
「ベル、こちらにきて確認して」
「そうよ、兄様。すごく可愛らしい方よ」
目を輝かせる母と妹をよそに、ベルンハルトは気乗りしなかった。見たことさえないご令嬢に失礼だが、誰でも同じなのだ。恋愛の経験がない彼にとって、家族以上に愛情を注げる相手は想像外だ。そんな人がみつかるわけない。そう思いながら、仕方なく立ち上がった。
「アゼリアより可愛い者など、世の中に存在しないぞ」
「カサンドラもいる!!」
「二番手だ」
「なんだと!?」
互いの番を自慢してケンカする大人げない魔王と竜殺しの英雄の隣をすり抜けた。この2人が本気でケンカしたら領地など一瞬で吹き飛ぶだろう。その前に、我がヘーファーマイアー家最強の妹が立ちはだかるか。
溜め息をつきそうになって飲み込み、なぜか絵姿を誇らしげに差し出す妹から受け取った。ソファに座ってじっくり眺める。アゼリアの言葉通り愛らしい姿をしているが……これは犯罪じゃないのか? 顔を上げると正面で母がにこにこと釣り書きの一部を指し示した。
「ヴィルヘルミーナ嬢、ですか。18歳……18っ!?」
犯罪ではなかった。外見の絵姿がここ最近のものであるのは間違いないが、12歳前後に見えた。いくら王族との政略結婚でも可哀想ではないかと同情した気持ちの落としどころは、どこに見つけたらよいのか。
「本当に、年齢は合ってますか!?」
「ええ。ベルにぴったりのお嫁さんが見つかってよかったわ。彼女、ルベウス国の公爵令嬢なの。私のお祖母様からみてひ孫ね」
家柄は申し分なく、国同士の繋がりを考えてもバランスがいい。唸るベルンハルトだが、この婚約はほぼ決定事項だと思われた。しかし……外見が幼すぎる。
「お会いするまで、保留させてください」
そう絞り出すのがやっとだった。
浮かれたカサンドラの発表に、当事者なのに何も知らされなかったベルンハルトが目を見開く。
「えええ! 私が探したかったのに」
がっかりして項垂れるアゼリアだが、すかさず抱き締めるイヴリースが「よしよし」と甘やかす。当たり前のように娘の隣に陣取る魔王に、アウグストは歯噛みする。しかし妻のカサンドラに窘められて、甘えるように彼女を引き寄せた。
やたらと仲のいい父母と、妹と婚約者……間に挟まれる独り身のベルンハルトは溜め息をついた。まさかとは思うが、年の離れた弟妹が出来るかも知れない。覚悟だけはしておこう。場合によっては俺の養子にしてもいいか。そうしたら子供を作らなくていいから、俺は結婚しなくて済むんじゃないか?
子孫に家名や領地を引き継ぐことは、王侯貴族最大の義務だった。もちろん民を守り繁栄させることも重要だが、義務と考えるなら現状維持できれば文句は言われない。
絵姿と釣り書きが向かい合う本のような1冊は、豪華な装丁が施されていた。どうやら金に困った実家が娘を売ったわけではないらしい。見も知らぬ女性を妻として迎えることに抵抗のあるベルンハルトは、現実逃避を兼ねて窓の外へ目を向けた。
「ベル、こちらにきて確認して」
「そうよ、兄様。すごく可愛らしい方よ」
目を輝かせる母と妹をよそに、ベルンハルトは気乗りしなかった。見たことさえないご令嬢に失礼だが、誰でも同じなのだ。恋愛の経験がない彼にとって、家族以上に愛情を注げる相手は想像外だ。そんな人がみつかるわけない。そう思いながら、仕方なく立ち上がった。
「アゼリアより可愛い者など、世の中に存在しないぞ」
「カサンドラもいる!!」
「二番手だ」
「なんだと!?」
互いの番を自慢してケンカする大人げない魔王と竜殺しの英雄の隣をすり抜けた。この2人が本気でケンカしたら領地など一瞬で吹き飛ぶだろう。その前に、我がヘーファーマイアー家最強の妹が立ちはだかるか。
溜め息をつきそうになって飲み込み、なぜか絵姿を誇らしげに差し出す妹から受け取った。ソファに座ってじっくり眺める。アゼリアの言葉通り愛らしい姿をしているが……これは犯罪じゃないのか? 顔を上げると正面で母がにこにこと釣り書きの一部を指し示した。
「ヴィルヘルミーナ嬢、ですか。18歳……18っ!?」
犯罪ではなかった。外見の絵姿がここ最近のものであるのは間違いないが、12歳前後に見えた。いくら王族との政略結婚でも可哀想ではないかと同情した気持ちの落としどころは、どこに見つけたらよいのか。
「本当に、年齢は合ってますか!?」
「ええ。ベルにぴったりのお嫁さんが見つかってよかったわ。彼女、ルベウス国の公爵令嬢なの。私のお祖母様からみてひ孫ね」
家柄は申し分なく、国同士の繋がりを考えてもバランスがいい。唸るベルンハルトだが、この婚約はほぼ決定事項だと思われた。しかし……外見が幼すぎる。
「お会いするまで、保留させてください」
そう絞り出すのがやっとだった。
0
お気に入りに追加
3,707
あなたにおすすめの小説
いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!
夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。
しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。
ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。
愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。
いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。
一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ!
世界観はゆるいです!
カクヨム様にも投稿しております。
※10万文字を超えたので長編に変更しました。
絶望?いえいえ、余裕です! 10年にも及ぶ婚約を解消されても化物令嬢はモフモフに夢中ですので
ハートリオ
恋愛
伯爵令嬢ステラは6才の時に隣国の公爵令息ディングに見初められて婚約し、10才から婚約者ディングの公爵邸の別邸で暮らしていた。
しかし、ステラを呼び寄せてすぐにディングは婚約を後悔し、ステラを放置する事となる。
異様な姿で異臭を放つ『化物令嬢』となったステラを嫌った為だ。
異国の公爵邸の別邸で一人放置される事となった10才の少女ステラだが。
公爵邸別邸は森の中にあり、その森には白いモフモフがいたので。
『ツン』だけど優しい白クマさんがいたので耐えられた。
更にある事件をきっかけに自分を取り戻した後は、ディングの執事カロンと共に公爵家の仕事をこなすなどして暮らして来た。
だがステラが16才、王立高等学校卒業一ヶ月前にとうとう婚約解消され、ステラは公爵邸を出て行く。
ステラを厄介払い出来たはずの公爵令息ディングはなぜかモヤモヤする。
モヤモヤの理由が分からないまま、ステラが出て行った後の公爵邸では次々と不具合が起こり始めて――
奇跡的に出会い、優しい時を過ごして愛を育んだ一人と一頭(?)の愛の物語です。
異世界、魔法のある世界です。
色々ゆるゆるです。
とある令嬢が男装し第二王子がいる全寮制魔法学院へ転入する
春夏秋冬/光逆榮
恋愛
クリバンス王国内のフォークロス領主の娘アリス・フォークロスは、母親からとある理由で憧れである月の魔女が通っていた王都メルト魔法学院の転入を言い渡される。
しかし、その転入時には名前を偽り、さらには男装することが条件であった。
その理由は同じ学院に通う、第二王子ルーク・クリバンスの鼻を折り、将来王国を担う王としての自覚を持たせるためだった。
だがルーク王子の鼻を折る前に、無駄にイケメン揃いな個性的な寮生やクラスメイト達に囲まれた学院生活を送るはめになり、ハプニングの連続で正体がバレていないかドキドキの日々を過ごす。
そして目的であるルーク王子には、目向きもなれない最大のピンチが待っていた。
さて、アリスの運命はどうなるのか。
【完結】 私を忌み嫌って義妹を贔屓したいのなら、家を出て行くのでお好きにしてください
ゆうき@初書籍化作品発売中
恋愛
苦しむ民を救う使命を持つ、国のお抱えの聖女でありながら、悪魔の子と呼ばれて忌み嫌われている者が持つ、赤い目を持っているせいで、民に恐れられ、陰口を叩かれ、家族には忌み嫌われて劣悪な環境に置かれている少女、サーシャはある日、義妹が屋敷にやってきたことをきっかけに、聖女の座と婚約者を義妹に奪われてしまった。
義父は義妹を贔屓し、なにを言っても聞き入れてもらえない。これでは聖女としての使命も、幼い頃にとある男の子と交わした誓いも果たせない……そう思ったサーシャは、誰にも言わずに外の世界に飛び出した。
外の世界に出てから間もなく、サーシャも知っている、とある家からの捜索願が出されていたことを知ったサーシャは、急いでその家に向かうと、その家のご子息様に迎えられた。
彼とは何度か社交界で顔を合わせていたが、なぜかサーシャにだけは冷たかった。なのに、出会うなりサーシャのことを抱きしめて、衝撃の一言を口にする。
「おお、サーシャ! 我が愛しの人よ!」
――これは一人の少女が、溺愛されながらも、聖女の使命と大切な人との誓いを果たすために奮闘しながら、愛を育む物語。
⭐︎小説家になろう様にも投稿されています⭐︎
【完結】身を引いたつもりが逆効果でした
風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。
一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。
平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません!
というか、婚約者にされそうです!
【本編完結】婚約者を守ろうとしたら寧ろ盾にされました。腹が立ったので記憶を失ったふりをして婚約解消を目指します。
しろねこ。
恋愛
「君との婚約を解消したい」
その言葉を聞いてエカテリーナはニコリと微笑む。
「了承しました」
ようやくこの日が来たと内心で神に感謝をする。
(わたくしを盾にし、更に記憶喪失となったのに手助けもせず、他の女性に擦り寄った婚約者なんていらないもの)
そんな者との婚約が破談となって本当に良かった。
(それに欲しいものは手に入れたわ)
壁際で沈痛な面持ちでこちらを見る人物を見て、頬が赤くなる。
(愛してくれない者よりも、自分を愛してくれる人の方がいいじゃない?)
エカテリーナはあっさりと自分を捨てた男に向けて頭を下げる。
「今までありがとうございました。殿下もお幸せに」
類まれなる美貌と十分な地位、そして魔法の珍しいこの世界で魔法を使えるエカテリーナ。
だからこそ、ここバークレイ国で第二王子の婚約者に選ばれたのだが……それも今日で終わりだ。
今後は自分の力で頑張ってもらおう。
ハピエン、自己満足、ご都合主義なお話です。
ちゃっかりとシリーズ化というか、他作品と繋がっています。
カクヨムさん、小説家になろうさん、ノベルアッププラスさんでも連載中(*´ω`*)
妹と寝たんですか?エセ聖女ですよ?~妃の座を奪われかけた令嬢の反撃~
岡暁舟
恋愛
100年に一度の確率で、令嬢に宿るとされる、聖なる魂。これを授かった令嬢は聖女と認定され、無条件で時の皇帝と婚約することになる。そして、その魂を引き当てたのが、この私、エミリー・バレットである。
本来ならば、私が皇帝と婚約することになるのだが、どういうわけだか、偽物の聖女を名乗る不届き者がいるようだ。その名はジューン・バレット。私の妹である。
別にどうしても皇帝と婚約したかったわけではない。でも、妹に裏切られたと思うと、少し癪だった。そして、既に二人は一夜を過ごしてしまったそう!ジューンの笑顔と言ったら……ああ、憎たらしい!
そんなこんなで、いよいよ私に名誉挽回のチャンスが回ってきた。ここで私が聖女であることを証明すれば……。
呪われ令嬢、王妃になる
八重
恋愛
「シェリー、お前とは婚約破棄させてもらう」
「はい、承知しました」
「いいのか……?」
「ええ、私の『呪い』のせいでしょう?」
シェリー・グローヴは自身の『呪い』のせいで、何度も婚約破棄される29歳の侯爵令嬢。
家族にも邪魔と虐げられる存在である彼女に、思わぬ婚約話が舞い込んできた。
「ジェラルド・ヴィンセント王から婚約の申し出が来た」
「──っ!?」
若き33歳の国王からの婚約の申し出に戸惑うシェリー。
だがそんな国王にも何やら思惑があるようで──
自身の『呪い』を気にせず溺愛してくる国王に、戸惑いつつも段々惹かれてそして、成長していくシェリーは、果たして『呪い』に打ち勝ち幸せを掴めるのか?
一方、今まで虐げてきた家族には次第に不幸が訪れるようになり……。
★この作品の特徴★
展開早めで進んでいきます。ざまぁの始まりは16話からの予定です。主人公であるシェリーとヒーローのジェラルドのラブラブや切ない恋の物語、あっと驚く、次が気になる!を目指して作品を書いています。
※小説家になろう先行公開中
※他サイトでも投稿しております(小説家になろうにて先行公開)
※アルファポリスにてホットランキングに載りました
※小説家になろう 日間異世界恋愛ランキングにのりました(初ランクイン2022.11.26)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる