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サポーター特典

【サポーター特典SS】※2022/09/17公開

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 アストリッド――歴代最強と謳われる従姉妹だ。彼女は竜族の頂点に立ちながら、ずっと番が見つからなかった。300年を生きた頃、諦めたように呟く。

「私の強さは、番と引き換えだったのかも知れない」

 過去も強さを誇った竜王は、番と出会えぬまま亡くなった事例がある。その話をどこかで知ったのだろう。他者のために強さを求めたアストリッドは、その決断を悔いていない。だが一人で長く生きることに飽いていた。緩やかに、停滞したぬるま湯の中で溺れるように……。

「散歩に行って来る」

「はい」

 見送った私は、書類がほとんど片付いた机で溜め息をつく。無駄だと自嘲しながら、彼女は散歩を欠かさない。他国へ足を延ばし、都だけでなく辺境の小さな村も立ち寄った。番を探しているのだ。彼女にとって、竜族の頂点に立ったことは結果でしかない。

 家族や仲間のために奮起したら、いつの間にか頂点に上り詰めていただけ。竜女王の地位も、最強の称号も彼女には価値のない響きだった。今のアストリッドが欲しいと望むのは、番のみ。溜め息をついて、文官達に書類の運搬を支持した。

「見つけたぞ!!」

 興奮した様子で飛び込んだ従姉妹が、小躍りしながら部屋を回る。あまりに興奮しているので、声をかけるのも忘れて眺めた。先ほど咆哮が聞こえたと屋敷の者が興奮していたが、本当だったようだ。今までの経緯が長すぎて、信じられなかった。

「おめでとうございます」

「ありがとう! 私のカイは凄く可愛い」

 惚気を振り撒くと、慌てて駆けて行った。その様子が初恋に翻弄される少女のようで、思わず追いかけてしまう。ぼろぼろの服を着た幼子は、不安そうな顔をしていた。よい生活環境になかったのは、一目で理解できる。痩せ細った手足は棒のようで、頬もこけていた。

 風呂に入れる間にあれこれと手配を掛ける。侍女達に服や靴など、身の回りの品を揃えるよう指示した。だが量は控えめにする。不思議そうな侍女達へ、どうせアストリッドが大量に追加注文すると説明すれば、微笑みながら頷いた。





 アストリッドの番への溺愛は、度を越していた。だが最低限のルールは自分に対して設けたらしい。というのも、番である幼子カイの望みを叶えること、束縛して閉じ込めないこと。前者はどの竜族も抱く感情で納得できるが、後者は不思議だった。

 人懐こい番を雁字搦めに縛り、自分しか見ないように隔離する。それが一般的な竜族の考え方だ。しかしアストリッドはありのままの番を愛した。何とも奇妙な光景だが、幼子は私や将軍ボリスにも懐き、蜥蜴獣人の子を友達として連れてくる。アストリッドはそれすら許した。

 さすがに人懐こすぎて危険なので、護衛を選定する。ボリスと悩んだ結果、忠誠心の強さから男女1名ずつを選びだす。サフィーとルビアだ。攻守にそれぞれ特化した護衛達は、すぐに番と仲良くなった。誰もが気遣い、幼子を「番様」と呼ぶ。竜族の執着と嫉妬の激しさを知るのだから、当然だ。

 アストリッドがどう言い聞かせたのか、番は呼び方に不満は漏らさなかった。しかし友人であるヒスイだけは、アストリッドから名を呼ぶ許可を得たらしい。




「アベル、これね。僕とヒスイが作ったの」

 書類を片付けた執務机で休憩していると、ボリスやヒスイを連れた幼子がドアから入ってくる。真っ黒な髪は艶があり、赤い瞳は楽しそうに笑っていた。初めて出会った頃が嘘のようだ。こうして接するほどに、この幼子を虐待した人族への嫌悪が募る。この子は、それすら望まないのだろう。

「ボリスが先に食べたけど、大丈夫だよ」

 何も言わなかったので不安になったのか、食べ物が安全だと主張する。慌てて席を立って回り込んだ。主君の番だからではなく、この子を悲しませたくない。視線を合わせるために片膝を突き、微笑んで小さな袋を受け取る。

「ありがとうございます。お菓子作りは楽しかったですか?」

「うん! ちゃんとね、美味しく出来たの」

 赤いリボンはルビア、サリーに青いリボンの。それからアスティは白に銀の刺繍が入ったリボンなんだよ。そう言いながら、たくさんの袋が入った籠を見せてくれた。

「……ボリスと少し話してもいいですか?」

 許可を得て、ボリスを手招きする。女王より先にお菓子の袋を受け取ったり、毒見するのは危険では? 嫉妬した彼女から攻撃されますよ。そう囁くと、ボリスはぐいっと右腕の袖を捲り、青黒くなった痣を見せた。

「こういうことだ」

「……次は私のばんですね?」

 すでに毒見したボリスは制裁を受けた。となれば、アストリッドより先に袋を受け取った私にも、何らかの嫉妬を向けてくるだろう。書類の決裁放棄位にして欲しい。戦うのは苦手だからな。溜め息をつきながら、笑顔の幼子を見送った。

 さて、どこへ逃げれば時間を稼げるかな。そんな風に考えるのも悪くない。大急ぎで部屋を出た私だが、黒い笑顔で立ちはだかる女王に反転した。が遅く……襟を掴まれる。

「覚悟は出来ているか?」

「何のことでしょうか」

 とぼけてみたが、数日は蹴飛ばされた腰が痛くて椅子に座る気にならなかった。その間、女王は嬉しそうに番と休暇を楽しんだとか。一石二鳥を考えるなど、狡い。心の底で詰りながら、こんな日々が訪れた奇跡に感謝した。






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カクヨム、サポーター投げ銭で書かせていただいたSSです。1ヵ月を経過しましたので掲載します。
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