121 / 153
120.シドのぬいぐるみは大事
しおりを挟む
「カイ、目が覚めたのね。気分はどう? どこか痛かったり苦しかったりしない?」
寝ていた僕を抱き起こすアスティの声に、大丈夫と返した。どこも痛くないよ。お爺ちゃん先生も、調べてくれた。
「あのね。僕とシドはたくさん約束をしたの。だから、シドは僕の中で眠るって」
温めて離さないと決めた。シドの分も長く生きて、アスティと幸せになるの。説明する僕の黒髪に頬を擦り寄せたアスティが「素敵ね」と笑ってくれた。
「おいおい、中で話がついたのか? それで譲渡が早かったんだな」
ラーシュが呆れたと肩をすくめる。普通はもっと長くかかるはずの術が、すぐに終わったんだって。僕が目を閉じてから起きるまで、1日掛からなかった。今はもう夕方みたい。
「シドのぬいぐるみは?」
「これよ」
羊皮紙は白紙になっていた。綺麗なたくさんの魔法陣の模様は消えて、柔らかなクリーム色の紙だけ。それをもう一度巻いて黒猫の中にしまう。
「どうするの?」
「持って歩くんだよ。そうしたら、シドがいるみたいでしょ?」
ラーシュが頷くので、アスティも許してくれた。赤いリボンが可愛い黒猫は、とても可愛い。シドが入ってなくても、連れて歩きたいの。大人はぬいぐるみを抱いてないから、きっと僕も大人になるまでだよ。
「ちょうどいい。これを抱いていれば、奪われるだけで済む」
「なるほど。囮か」
二人が大人の話をしている間、僕は黒猫のリボンを直した。少し曲がってるんだもん。引っ張って直したところで、アスティが腕を伸ばす。
「おいで、カイ。帰ろう」
「うん!」
まだお部屋は色を塗っただけで、住むのは無理だった。扉も付いてないし、窓もガラスがないんだよ。結界は張ったと聞いたけど、全部工事が終わるまでアベルのお家に帰るんだ。
「ヒスイは?」
「もう帰ったわ。今夜はボリスも泊まるわよ」
「わーい!」
ボリスは毎日お家まで飛んで帰ってたんだけど、今日は疲れたんだって。一緒にご飯を食べると聞いて嬉しくなった。
「僕、ボリスとお風呂に入る」
「どうして? 私と一緒に入りましょう」
「えっとね、ヒスイがボリスと大きいお風呂に入るんだよ。僕も行きたい」
「わかったわ。お風呂は譲るけど、眠るのは私と一緒ね」
「もちろん一緒だよ」
アスティの許可をもらったので、ヒスイの部屋に飛び込んだ。ボリスがお迎えに来るまで、折り紙をして遊ぶ。これはラーシュのお友達のイェルドが教えてくれたの。
四角い紙を折っていくと、鳥さんが出来るんだ。羽を広げてお腹の部分を膨らました。その隣で別の紙を折る。
「何を作ってるの?」
「ドラゴンが作れないかと思いまして」
「うわぁ! 作れたら僕にも教えてね」
「はい」
ドラゴンを作り終わる前に、ボリスが迎えにきた。
「風呂に入るぞ」
「「はい」」
師匠であるボリスの右に僕、左にヒスイが手を繋ぎ、一緒にお風呂に向かった。お部屋にあるお風呂以外に、大きなお風呂があるんだよ。到着した部屋で服を脱いだら、3人で並んで入った。
「来たのか?」
「ラーシュだ」
「あっちにアベルもいるぞ、ほら」
ボリスに促されて、大きなお風呂に目を見開く。泳げるくらい広いお風呂には、ラーシュやアベルが既に浸かっていた。手招きされて、近くまで行ってゆっくり入る。
「ヒスイもおいでよ」
タオルを巻いて恥ずかしそうに隠れるヒスイを呼んで、並んでお湯に浸る。お月様が浮かんだ空を見ながら、心の中で話しかけた。
シド、綺麗だよ。そうだなって、返事が聞こえる気がした。
寝ていた僕を抱き起こすアスティの声に、大丈夫と返した。どこも痛くないよ。お爺ちゃん先生も、調べてくれた。
「あのね。僕とシドはたくさん約束をしたの。だから、シドは僕の中で眠るって」
温めて離さないと決めた。シドの分も長く生きて、アスティと幸せになるの。説明する僕の黒髪に頬を擦り寄せたアスティが「素敵ね」と笑ってくれた。
「おいおい、中で話がついたのか? それで譲渡が早かったんだな」
ラーシュが呆れたと肩をすくめる。普通はもっと長くかかるはずの術が、すぐに終わったんだって。僕が目を閉じてから起きるまで、1日掛からなかった。今はもう夕方みたい。
「シドのぬいぐるみは?」
「これよ」
羊皮紙は白紙になっていた。綺麗なたくさんの魔法陣の模様は消えて、柔らかなクリーム色の紙だけ。それをもう一度巻いて黒猫の中にしまう。
「どうするの?」
「持って歩くんだよ。そうしたら、シドがいるみたいでしょ?」
ラーシュが頷くので、アスティも許してくれた。赤いリボンが可愛い黒猫は、とても可愛い。シドが入ってなくても、連れて歩きたいの。大人はぬいぐるみを抱いてないから、きっと僕も大人になるまでだよ。
「ちょうどいい。これを抱いていれば、奪われるだけで済む」
「なるほど。囮か」
二人が大人の話をしている間、僕は黒猫のリボンを直した。少し曲がってるんだもん。引っ張って直したところで、アスティが腕を伸ばす。
「おいで、カイ。帰ろう」
「うん!」
まだお部屋は色を塗っただけで、住むのは無理だった。扉も付いてないし、窓もガラスがないんだよ。結界は張ったと聞いたけど、全部工事が終わるまでアベルのお家に帰るんだ。
「ヒスイは?」
「もう帰ったわ。今夜はボリスも泊まるわよ」
「わーい!」
ボリスは毎日お家まで飛んで帰ってたんだけど、今日は疲れたんだって。一緒にご飯を食べると聞いて嬉しくなった。
「僕、ボリスとお風呂に入る」
「どうして? 私と一緒に入りましょう」
「えっとね、ヒスイがボリスと大きいお風呂に入るんだよ。僕も行きたい」
「わかったわ。お風呂は譲るけど、眠るのは私と一緒ね」
「もちろん一緒だよ」
アスティの許可をもらったので、ヒスイの部屋に飛び込んだ。ボリスがお迎えに来るまで、折り紙をして遊ぶ。これはラーシュのお友達のイェルドが教えてくれたの。
四角い紙を折っていくと、鳥さんが出来るんだ。羽を広げてお腹の部分を膨らました。その隣で別の紙を折る。
「何を作ってるの?」
「ドラゴンが作れないかと思いまして」
「うわぁ! 作れたら僕にも教えてね」
「はい」
ドラゴンを作り終わる前に、ボリスが迎えにきた。
「風呂に入るぞ」
「「はい」」
師匠であるボリスの右に僕、左にヒスイが手を繋ぎ、一緒にお風呂に向かった。お部屋にあるお風呂以外に、大きなお風呂があるんだよ。到着した部屋で服を脱いだら、3人で並んで入った。
「来たのか?」
「ラーシュだ」
「あっちにアベルもいるぞ、ほら」
ボリスに促されて、大きなお風呂に目を見開く。泳げるくらい広いお風呂には、ラーシュやアベルが既に浸かっていた。手招きされて、近くまで行ってゆっくり入る。
「ヒスイもおいでよ」
タオルを巻いて恥ずかしそうに隠れるヒスイを呼んで、並んでお湯に浸る。お月様が浮かんだ空を見ながら、心の中で話しかけた。
シド、綺麗だよ。そうだなって、返事が聞こえる気がした。
20
お気に入りに追加
468
あなたにおすすめの小説

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。
新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜
京
恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。
右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。
そんな乙女ゲームのようなお話。

私のお父様とパパ様
棗
ファンタジー
非常に過保護で愛情深い二人の父親から愛される娘メアリー。
婚約者の皇太子と毎月あるお茶会で顔を合わせるも、彼の隣には幼馴染の女性がいて。
大好きなお父様とパパ様がいれば、皇太子との婚約は白紙になっても何も問題はない。
※箱入り娘な主人公と娘溺愛過保護な父親コンビのとある日のお話。
追記(2021/10/7)
お茶会の後を追加します。
更に追記(2022/3/9)
連載として再開します。

【電子書籍化進行中】声を失った令嬢は、次期公爵の義理のお兄さまに恋をしました
八重
恋愛
※発売日少し前を目安に作品を引き下げます
修道院で生まれ育ったローゼマリーは、14歳の時火事に巻き込まれる。
その火事の唯一の生き残りとなった彼女は、領主であるヴィルフェルト公爵に拾われ、彼の養子になる。
彼には息子が一人おり、名をラルス・ヴィルフェルトといった。
ラルスは容姿端麗で文武両道の次期公爵として申し分なく、社交界でも評価されていた。
一方、怠惰なシスターが文字を教えなかったため、ローゼマリーは読み書きができなかった。
必死になんとか義理の父や兄に身振り手振りで伝えようとも、なかなか伝わらない。
なぜなら、彼女は火事で声を失ってしまっていたからだ──
そして次第に優しく文字を教えてくれたり、面倒を見てくれるラルスに恋をしてしまって……。
これは、義理の家族の役に立ちたくて頑張りながら、言えない「好き」を内に秘める、そんな物語。
※小説家になろうが先行公開です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる