【完結】世界を滅ぼす僕だけど、愛されてもいいですか

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)

文字の大きさ
上 下
120 / 153

119.いっぱい約束をした

しおりを挟む
 木を見上げて動かないシグルドの手を引っ張る。前は真っ黒に見えた彼も、綺麗な黒髪の人になった。僕と同じ赤い瞳で、黒い髪。違うのは、僕よりずっと長い髪が腰まで届くことだった。

「シグルド、お座りしよう」

「ああ」

 木の根本まで歩き、寄りかかって座る。シグルドは僕より手足が長くて、もう大人だった。ずっと、同じ年齢くらいだと思ってたの。アスティくらい背が高い。

「シグルドって大きいんだね」

「これでも昔は魔王だったし、強かったんだぞ」

「うん。信じる」

 昔はアスティが勝ったけど、シグルドも強かったよ。だからアスティが心配するんだ。でもね、本当に強い人は弱い僕を倒すのに、騙したりはしないから。シグルドは今でも僕を乗っ取れると思う。なのにしないのは、僕とお友達になったから。

「信じる? 簡単に言うんだな」

「ううん、簡単じゃないよ。信じたら怖いもん。嘘をつかれたら胸が痛い。だから嘘をつかない人を選んで信じるの。シグルドを僕は信じてる」

 吸い出された最後に、手を離したのは僕のためでしょう? あのままなら、僕が力尽きて外へ出たかも。守るために手を離して、自分が痛いのに我慢してくれた。信じるのに十分だよ。

 手を動かして必死に説明したら、シグルドは顔を手で覆って「はぁ」と大きな息を吐いた。

「ほんと、お前は俺と真逆だ。俺も信じるか。お前が死ぬ日まで、温め続けてくれるんだろ?」

「うん。カイと呼んで。僕はシグルドとお友達だから、ずっと一緒だよ」

 目を瞬いたシグルドは、不思議そうに呟いた。

「そういや、なんで俺の名を隠した」

「特別なお名前でしょう? だから普段はシド。でも今は二人だからシグルドって呼ばせてね」

 にっこり笑ってお願いしてみる。シグルドは大きく見開いた目を細めて、泣きそうになった。

「そっか、特別……それでいい」

 何だろう。鼻の奥がツンとして、僕も泣きそう。二人で目を擦って、お互いに見なかったフリをした。泣いてないからね! 僕は強い子になるんだもん。

「覚えておけ。俺の魔力は自由に使えるが、無理をすると体が痛くなる。その信号があれば、魔法を使うな。それから……俺に用がある時は、寝てから夢の中で呼べ。シグルドと呼んだら、必ず答えてやる」

「約束だね。僕、ちゃんと守るよ」

 右手の指を差し出し、困惑した様子のシグルドの指と絡める。絶対に約束を破らないと誓う歌を歌った。少し寂しそうなシグルドを両手で抱き締める。

 こうして抱っこされると、愛されてると感じるの。シグルドにも、同じに感じて欲しかった。

「シグルドは大事なお友達だから、絶対に消えたりしないでね」

「ああ、分かった。変な心配するな」

 シグルドがおずおずと持ち上げた手で、僕の黒髪を撫でる。それから背中に腕を回した。短い腕で必死にしがみ付く僕だけど、シグルドは簡単に閉じ込める。いっぱい抱き締めてから、僕はもう一つ約束した。

「夢の中で、いつも出てきて。呼ばなくても、ケンカした次の日も会いたいの」

「ケンカしても? 俺は本当に酷い奴だから、会わない方がいいんじゃないか」

「僕の知るシグルドは酷くないから平気。約束だからね」

 透き通っていく僕の腕、慌てて見つめる先で、シグルドも透明になった。また夢の中で、会おうね。約束を繰り返して、僕は目を覚ました。











*********************
恋愛系、新作

【古代竜の生贄姫 ~虐待から溺愛に逆転した世界で~】
 
 王家に嫁ぐはずだった私は婚約破棄され、古代竜の生贄として捧げられた。呪いを吐いて飛び降りたはずが、目覚めたらタイムリープしている。ところが2度目の世界は、何かがおかしくて? 虐待していた彼らが、なぜか溺愛してくる。逃げ出した先で古代竜に求愛された。私、古代竜の花嫁になり、幸せになります。ハッピーエンド確定
 
https://www.alphapolis.co.jp/novel/470462601/169667751
しおりを挟む
感想 204

あなたにおすすめの小説

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。

新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

【電子書籍化進行中】声を失った令嬢は、次期公爵の義理のお兄さまに恋をしました

八重
恋愛
※発売日少し前を目安に作品を引き下げます 修道院で生まれ育ったローゼマリーは、14歳の時火事に巻き込まれる。 その火事の唯一の生き残りとなった彼女は、領主であるヴィルフェルト公爵に拾われ、彼の養子になる。 彼には息子が一人おり、名をラルス・ヴィルフェルトといった。 ラルスは容姿端麗で文武両道の次期公爵として申し分なく、社交界でも評価されていた。 一方、怠惰なシスターが文字を教えなかったため、ローゼマリーは読み書きができなかった。 必死になんとか義理の父や兄に身振り手振りで伝えようとも、なかなか伝わらない。 なぜなら、彼女は火事で声を失ってしまっていたからだ── そして次第に優しく文字を教えてくれたり、面倒を見てくれるラルスに恋をしてしまって……。 これは、義理の家族の役に立ちたくて頑張りながら、言えない「好き」を内に秘める、そんな物語。 ※小説家になろうが先行公開です

処理中です...