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74.絶対守ると決意した――SIDEヒスイ

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 緑の鱗が全身をびっしりと覆う蜥蜴の獣人である俺は、昔から嫌悪されてきた。蛇はドラゴンの眷属とされるが、蜥蜴はただの獣人だ。いっそ毛皮がある獣人ならば良かったのだろう。爬虫類特有の縦に割れた瞳孔は、ドラゴンならば誉れだった。しかし蜥蜴なら気持ち悪いの一言で片づけられる。

 何が違うのか! そう怒りを露わにしたのは、本物のドラゴンに遭遇するまで。出会ってしまえば、圧倒的な力の差に打ちのめされた。それでも憧れが捨てきれず、未練がましく竜族の御屋敷に勤める。大きな屋敷の主は、積極的に竜族以外の獣人を採用していた。

 かろうじて字が読める俺も採用され、手紙を分類して運ぶ仕事を任される。書類の運搬もこなすが、内容を読んで理解できないので書類処理や分類は無理だった。学ぼうにもチャンスがない。仕事に追われて、このまま下働きで人生を終えるのか。そう諦めかけた俺の人生を変えたのは、一人の幼子だった。

 竜族の番として望まれ、誰からも愛される可愛らしい御子だ。無邪気に話しかけ、誰かに嫌われるなんて考えたこともないように思われた。実際は違う。番であるカイ様は、誰よりも過酷な状況を生き抜いた方だ。父の顔を知らず、唯一の味方であった母を失い、人族に虐げられてきた。

 体の痛みだけでなく、心まで引き裂かれたのに……俺に手を差し伸べた。その優しさに驚く。一緒に学び、友と呼び、共に並ぶことを許された幸せを、どう伝えたらいいか。侍女や騎士の話を聞くたびに、カイ様の傷を癒したいと思うようになった。

 友達であると認められた翌朝、御屋敷の主である女王陛下に呼ばれる。あの場では認めたが叱咤されるのだと思った。竜族の番に対する嫉妬は凄まじいと聞く。覚悟して臨んだあの朝、女王陛下はカイ様の境遇を口にされ、俺に「友として振舞う」ことを望まれた。

 配下や使用人ではなく、隣に並ぶ同列の友人が欲しいとカイ様が望んだから。嫉妬はあるが、カイ様と同性の子どもに八つ当たりする気はない、と。その深い想いは、まさに竜が番へ向ける無償の愛だった。俺はカイ様の友人として共に学び、遊び、眠る許可をいただく。

 その栄誉に身が引き締まる思いだった。醜いと貶された鱗や瞳孔も、カイ様は「羨ましい、綺麗」と屈託なく褒める。声や表情に嘘の色はなく、本音だと知った時……この方の為なら命を投げ出すと誓った。硬い髪に触れて、ほわりと笑う笑顔を守りたい。

 優しいカイ様を、人族が「災厄」と呼んで殺そうとしている。艶のある黒髪と宝石のような赤い瞳を、悪魔の証拠と罵った。イース神聖国がどのくらい影響力を誇ったとしても、所詮は人族だ。獣人や竜族に敵うはずがない。分かっていても腹が立った。

 カイ様のお耳にこのような騒動を入れたくない。心を痛めるだろうから、決して知られてはならない。宰相であるアベル様が仰った言葉を胸に刻んだ。

 拉致や誘拐があるかも知れない。そばを離れず、どんな時も守って欲しい。無理ならドラゴンの鱗を握って助けを呼べ。将軍であるボリス様に命じられた。当然だ、カイ様を傷つける者は誰であれ近づけない。

「ヒスイ、このお菓子半分にしよう」

 貰ったお菓子を半分に割ろうと苦戦するカイ様に微笑み、受け取ってから割った。大きい方を返したら、交換すると駄々を捏ねる。最近我が侭を言えるようになったばかりと聞いたので、素直に交換して理由を尋ねた。

「だって、僕よりヒスイの方がお兄さんだから。体の大きさに合わせて食べるんだよ」

 感動しすぎて言葉に詰まった。たとえ僕が盾になっても、この方を決して傷つけさせない。新たな決意を胸に、僕は「ありがとうございます」と微笑んだ。
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