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71.カイが災厄だと?――SIDE竜女王

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 眠ったカイを見ていると、本当に時間が早い。寝たばかりのような気がするのに、アベルが怖い顔で迎えに来た。仕方ないと溜め息をつく。起きるまで隣にいてやりたかったが、代わりに猫のぬいぐるみを抱かせた。離れた途端に丸まった手足が、するりと猫に絡みつく。

 なんて羨ましい。その位置に戻りたいと思いながら、後ろ髪を引かれつつ部屋を出た。起こさないよう気遣い、声を出さなかったアベルが足早に促す。

「急いでください。厄介な状況です」

 危急の問題が迫っているような口調に、眉を寄せる。疑問はあるが、急かすなら廊下で話せない内容だろうと足を速めた。執務室に入るなり、彼は遮音の魔法を使う。そこまでする理由が分からず、私は首を傾げた。

「何があった」

 敵襲程度の話ではないと分かる。ドラゴンならば、他国の来襲に騒ぐ必要がないからだ。とすれば、何か不穏な気配を掴んだか? それとも大災害でも起きたのか。

「陛下、いや……アストリッド様」

 従兄弟であるが、普段は立場を考えて陛下と呼称するアベルの声に怒りと焦りが滲んでいた。名を呼んだアベルに、私的な立場で応じる。

「アストリッドでいい。何があったのだ」

「イース神聖国から、が公表された。端的に言えば、アストリッドの番はであり、抹殺するべし。信徒に動揺が広がっている」

 普段の宰相としての口調を改めた彼は、予想外の言葉を吐いた。あのカイが、世界を滅ぼす? 災厄であると予言されただと?

「なに、を」

「ナイセル王国、ソドムを滅ぼしたのは、その予兆と喧伝された。黒髪赤瞳も不吉の証らしい」

「ばかなっ! あれは人族共の蛮行のせいではないか! そもそも髪や瞳の色など千差万別だ。人身売買の犠牲は我が民も……っ?!」

 ナイセル王国は、竜女王の番を攫い殺そうとした。その罰を受けただけのこと。国王は殺したが、それ以外の民は我が国で統合し受け入れた。支配国の慈悲は施している。

 ソドムも滅ぼしたが、我が番のカイを虐げた者らの都だ。幼子を虐待することが横行する国であり、同時に人身売買の証拠も挙がっている。他種族の幼子を攫って売買した証拠をイース神聖国に提出したばかりで……。

 はたと気づいた。もしや、我らは彼らにとって都合の悪い闇を暴いたのではないか?

 目をさ迷わせた私に、アベルは溜め息を吐いた。いつも丁寧に整える銀髪をぐしゃりと乱す。大きく溜め息を吐き、乱暴な口調で最悪の展開を口にした。

「事前の根回しなく感情で動くな! 竜族の流儀は、他国では通用しないんだ。すでに抗議の声明を出した。反応次第だが、世界を敵に回す可能性がある」

 アベルの声に頷きながら、頭の芯が沸騰している。あの可愛らしい子を、哀れなほどに純粋な子を、災厄扱いするなら……世界など滅ぼしてくれる!
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