50 / 153
49.悪い人は退治したわ
しおりを挟む
アスティ達のお話は難しいけど、僕が誘拐された原因が目の前のおじさんと理解した。たぶん合ってると思う。ボリスが怖い顔で、おじさんと向き合った。
お口は閉じておいてと言われたので、まだ右手でお口を押さえている。このおじさん、騒いでるけど……アスティは許さないよね。僕はお口を塞いで見てるだけ。
勝手に僕が判断して、お口を自由にしたらいけないの。おじさんを助けるほど、僕はこの人を知らない。だけど可哀想な気もした。謝るなら許してあげたい。でもアスティが嫌な思いをするなら、許さなくてもいい気がした。
縋るような目を向けられても、僕は動けないから。謝る言葉も聞こえなかった。どうして、なぜ、やめては聞こえてきたけどね。謝れない人はダメだよ。悪いことをしたら、まず謝らなくちゃ。すぐ許してもらえなくても、謝ることが大切なの。
後ろで大きな音がして、赤いドラゴンのお姉さんが、尻尾を壁に叩きつけていた。隣では茶色いドラゴンが門を倒す。あっという間に、お城の周りの建物は壊されてしまった。
「この国は制圧し統合する。お前は罪を贖え」
アスティは怖い声で言い切ると、僕の目を手で塞いだ。見ちゃダメなら、アスティの首に顔を埋める。これなら間違えて見ちゃうことないよね。撫でるアスティの手が、頬や髪に触れると嬉しかった。
ぎゃああああ! そんな声が聞こえて、びくりと肩を揺らす。振り返りそうになって、アスティにしがみついた。お口を押さえてた右手も一緒に首に回し、ぎゅっとくっつく。これなら距離もないし、アスティ以外は見えない。
銀色に浮かんだ鱗が綺麗で、じっと見つめていた。怖い音も嫌な臭いも、すべて無視する。ボキボキと耳障りな音がして、騒ぐ声が聞こえなくなった。
「ごめんなさいね、音や臭いも遮断しておけばよかったわ」
首を横に振る。ううん、僕は平気だよ。そう伝えたいけど、アスティがまだお口を開けていいと言わないから。
「ふふっ、いい子ね。もう話しても大丈夫よ」
いつものアスティだ。安心して腕を少し緩めた。アスティの頬に僕の頬をくっつけて、体の力を抜く。どきどきする僕の胸が煩い。アスティの手が優しく背中を叩いた。痛くなくて、気持ちいい。
「悪いおじさんは退治したわ」
「もう怖くない?」
「ええ。二度と攫ったりされない。私の大切なカイだもの。しっかり守らなくちゃね」
ちゅっとキスをもらう。唇の触れた頬が熱い気がして、へにゃりと笑った。僕はアスティにとって大切だって。その言葉が嬉しくて、僕もアスティの頬にキスをする。
「今日はこのお城に泊まるの?」
「残念だけど、壊れちゃったから屋敷に帰りましょう」
言われて周囲をぐるりと見たら、お城が半分なかった。立派な建物だったのに、ドラゴンはすごく強いんだね。壊したドラゴンが得意げに鳴き声を上げる。数人のドラゴンが残るので手を振って別れた。
「ボリス、お顔が赤く汚れてる」
ケガしたのかな。心配した僕に、ごしごしと拭いた彼は肩を揺らして笑った。
「ケガではありません。よく汚れだとわかりましたな」
偉いと褒められた。帰りの旅は高さのある飛び方で、遠くに沈んでいく赤い夕日がすごく鮮やかだった。
お口は閉じておいてと言われたので、まだ右手でお口を押さえている。このおじさん、騒いでるけど……アスティは許さないよね。僕はお口を塞いで見てるだけ。
勝手に僕が判断して、お口を自由にしたらいけないの。おじさんを助けるほど、僕はこの人を知らない。だけど可哀想な気もした。謝るなら許してあげたい。でもアスティが嫌な思いをするなら、許さなくてもいい気がした。
縋るような目を向けられても、僕は動けないから。謝る言葉も聞こえなかった。どうして、なぜ、やめては聞こえてきたけどね。謝れない人はダメだよ。悪いことをしたら、まず謝らなくちゃ。すぐ許してもらえなくても、謝ることが大切なの。
後ろで大きな音がして、赤いドラゴンのお姉さんが、尻尾を壁に叩きつけていた。隣では茶色いドラゴンが門を倒す。あっという間に、お城の周りの建物は壊されてしまった。
「この国は制圧し統合する。お前は罪を贖え」
アスティは怖い声で言い切ると、僕の目を手で塞いだ。見ちゃダメなら、アスティの首に顔を埋める。これなら間違えて見ちゃうことないよね。撫でるアスティの手が、頬や髪に触れると嬉しかった。
ぎゃああああ! そんな声が聞こえて、びくりと肩を揺らす。振り返りそうになって、アスティにしがみついた。お口を押さえてた右手も一緒に首に回し、ぎゅっとくっつく。これなら距離もないし、アスティ以外は見えない。
銀色に浮かんだ鱗が綺麗で、じっと見つめていた。怖い音も嫌な臭いも、すべて無視する。ボキボキと耳障りな音がして、騒ぐ声が聞こえなくなった。
「ごめんなさいね、音や臭いも遮断しておけばよかったわ」
首を横に振る。ううん、僕は平気だよ。そう伝えたいけど、アスティがまだお口を開けていいと言わないから。
「ふふっ、いい子ね。もう話しても大丈夫よ」
いつものアスティだ。安心して腕を少し緩めた。アスティの頬に僕の頬をくっつけて、体の力を抜く。どきどきする僕の胸が煩い。アスティの手が優しく背中を叩いた。痛くなくて、気持ちいい。
「悪いおじさんは退治したわ」
「もう怖くない?」
「ええ。二度と攫ったりされない。私の大切なカイだもの。しっかり守らなくちゃね」
ちゅっとキスをもらう。唇の触れた頬が熱い気がして、へにゃりと笑った。僕はアスティにとって大切だって。その言葉が嬉しくて、僕もアスティの頬にキスをする。
「今日はこのお城に泊まるの?」
「残念だけど、壊れちゃったから屋敷に帰りましょう」
言われて周囲をぐるりと見たら、お城が半分なかった。立派な建物だったのに、ドラゴンはすごく強いんだね。壊したドラゴンが得意げに鳴き声を上げる。数人のドラゴンが残るので手を振って別れた。
「ボリス、お顔が赤く汚れてる」
ケガしたのかな。心配した僕に、ごしごしと拭いた彼は肩を揺らして笑った。
「ケガではありません。よく汚れだとわかりましたな」
偉いと褒められた。帰りの旅は高さのある飛び方で、遠くに沈んでいく赤い夕日がすごく鮮やかだった。
25
お気に入りに追加
458
あなたにおすすめの小説
【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!
桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。
「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。
異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。
初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!
俺の武器が最弱のブーメランだった件〜でも、レベルを上げたら強すぎた。なんか伝説作ってます!?〜
神伊 咲児
ファンタジー
守護武器とは、自分の中にあるエネルギーを司祭に具現化してもらって武器にするというもの。
世界は皆、自分だけの守護武器を持っていた。
剣聖に憧れた主人公マワル・ヤイバーン。
しかし、守護武器の認定式で具現化した武器は小さなブーメランだった。
ブーメランは最弱武器。
みんなに笑われたマワルはブーメランで最強になることを決意する。
冒険者になったマワルは初日から快進撃が続く。
そんな評判をよく思わないのが2人の冒険者。立派な剣の守護武器の持ち主ケンゼランドと槍を守護武器とするヤーリーだった。
2人はマワルを陥れる為に色々と工作するが、その行動はことごとく失敗。その度に苦水を飲まされるのであった。
マワルはドンドン強くなり! いい仲間に巡り会える!
一方、ケンゼランドとヤーリーにはざまぁ展開が待ち受ける!
攻撃方法もざまぁ展開もブーメラン。
痛快ブーメラン無双冒険譚!!
他サイトにも掲載していた物をアルファポリス用に改稿いたしました。
全37話、10万字程度。
転生幼女具現化スキルでハードな異世界生活
高梨
ファンタジー
ストレス社会、労働社会、希薄な社会、それに揉まれ石化した心で唯一の親友を守って私は死んだ……のだけれども、死後に閻魔に下されたのは願ってもない異世界転生の判決だった。
黒髪ロングのアメジストの眼をもつ美少女転生して、
接客業後遺症の無表情と接客業の武器営業スマイルと、勝手に進んで行く周りにゲンナリしながら彼女は異世界でくらします。考えてるのに最終的にめんどくさくなって突拍子もないことをしでかして周りに振り回されると同じくらい周りを振り回します。
中性パッツン氷帝と黒の『ナンでも?』できる少女の恋愛ファンタジー。平穏は遙か彼方の代物……この物語をどうぞ見届けてくださいませ。
無表情中性おかっぱ王子?、純粋培養王女、オカマ、下働き大好き系国王、考え過ぎて首を落としたまま過ごす医者、女装メイド男の娘。
猫耳獣人なんでもござれ……。
ほの暗い恋愛ありファンタジーの始まります。
R15タグのように15に収まる範囲の描写がありますご注意ください。
そして『ほの暗いです』
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
目が覚めたら異世界でした!~病弱だけど、心優しい人達に出会えました。なので現代の知識で恩返ししながら元気に頑張って生きていきます!〜
楠ノ木雫
恋愛
病院に入院中だった私、奥村菖は知らず知らずに異世界へ続く穴に落っこちていたらしく、目が覚めたら知らない屋敷のベッドにいた。倒れていた菖を保護してくれたのはこの国の公爵家。彼女達からは、地球には帰れないと言われてしまった。
病気を患っている私はこのままでは死んでしまうのではないだろうかと悟ってしまったその時、いきなり目の前に〝妖精〟が現れた。その妖精達が持っていたものは幻の薬草と呼ばれるもので、自分の病気が治る事が発覚。治療を始めてどんどん元気になった。
元気になり、この国の公爵家にも歓迎されて。だから、恩返しの為に現代の知識をフル活用して頑張って元気に生きたいと思います!
でも、あれ? この世界には私の知る食材はないはずなのに、どうして食事にこの四角くて白い〝コレ〟が出てきたの……!?
※他の投稿サイトにも掲載しています。
【完結】魔法は使えるけど、話が違うんじゃね!?
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
「話が違う!!」
思わず叫んだオレはがくりと膝をついた。頭を抱えて呻く姿に、周囲はドン引きだ。
「確かに! 確かに『魔法』は使える。でもオレが望んだのと全っ然! 違うじゃないか!!」
全力で世界を否定する異世界人に、誰も口を挟めなかった。
異世界転移―――魔法が使え、皇帝や貴族、魔物、獣人もいる中世ヨーロッパ風の世界。簡易説明とカミサマ曰くのチート能力『魔法』『転生先基準の美形』を授かったオレの新たな人生が始まる!
と思ったが、違う! 説明と違う!!! オレが知ってるファンタジーな世界じゃない!?
放り込まれた戦場を絶叫しながら駆け抜けること数十回。
あれ? この話は詐欺じゃないのか? 絶対にオレ、騙されたよな?
これは、間違った意味で想像を超える『ファンタジーな魔法世界』を生き抜く青年の成長物語―――ではなく、苦労しながら足掻く青年の哀れな戦場記録である。
【注意事項】BLっぽい表現が一部ありますが、BLではありません
(ネタバレになるので詳細は伏せます)
【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう
2019年7月 ※エブリスタ「特集 最強無敵の主人公~どんな逆境もイージーモード!~」掲載
2020年6月 ※ノベルアップ+ 第2回小説大賞「異世界ファンタジー」二次選考通過作品(24作品)
2021年5月 ※ノベルバ 第1回ノベルバノベル登竜門コンテスト、最終選考掲載作品
2021年9月 9/26完結、エブリスタ、ファンタジー4位
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
異世界キャンパー~無敵テントで気ままなキャンプ飯スローライフ?
夢・風魔
ファンタジー
仕事の疲れを癒すためにソロキャンを始めた神楽拓海。
気づけばキャンプグッズ一式と一緒に、見知らぬ森の中へ。
落ち着くためにキャンプ飯を作っていると、そこへ四人の老人が現れた。
彼らはこの世界の神。
キャンプ飯と、見知らぬ老人にも親切にするタクミを気に入った神々は、彼に加護を授ける。
ここに──伝説のドラゴンをもぶん殴れるテントを手に、伝説のドラゴンの牙すら通さない最強の肉体を得たキャンパーが誕生する。
「せっかく異世界に来たんなら、仕事のことも忘れて世界中をキャンプしまくろう!」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる