29 / 153
28.僕も役に立てることがあった
しおりを挟む
荷物は誰にも取られていなかった。ほっとしてアスティを見上げる。
「抱っこしましょうね」
そうじゃないよ。疲れたんじゃないの、でも嬉しいから頷いた。アスティに抱っこされて、近くで匂いを嗅ぐと幸せな気持ちになる。うっとりして胸がぽかぽかするんだ。だからアスティの抱っこは好き。首に手を回しても怒らないし、重いのに僕を落とさないくらい強い女王様なんだね。
近づくと、荷物の周りで番をしていた人が頭を下げる。さっと後ろへ下がった。腰に金属の棒を下げてるけど、あれは剣? あまりキラキラしていない。僕の知ってる剣はナイフの大きい奴で、表面が光ってたな。もしかしたら強くなると棒が光るのかも。
初めて見る騎士の装いに、マントが邪魔そうと眉を寄せた。歩く時裾を踏まないのかな、それにブーツも暑そうだよ。僕達みたいにサンダルにすればいいのに。長袖の服をきっちり着てカッコいいけど、汗かいてる。僕なら暑くて倒れちゃうと思う。
じろじろと上から下まで見ていたから、騎士の人も僕を見てくる。アスティに抱っこされた僕と目が合うと、にっこり笑った。怖い人じゃないみたい。
「ありがとう、でした」
アスティはうんと偉い人だから、お礼を言わない。僕はそこまで偉くないからお礼をしないと、失礼だよね。ぺこっと頭を下げたら「いいえ、お役に立てて光栄です」と頭を下げて挨拶された。いいえの後ろの「光栄」は分からないけど。
アスティがいい子ねと僕を撫でる。それから荷物を開け始めた。中には、テントや毛布も入ってる。広げた皮は大きくて、縁がぎざぎざとしていた。
「これはね、以前に退治した巨大な熊の毛皮なのよ。使い勝手がいいから愛用してるの」
熊なの? 僕をぱくりと食べてもまだ食べられそうだよ。アスティも入っちゃいそうなのに、戦って勝ったなんて驚いた。戦う強いアスティも見てみたかったな。
「大きいね」
「ええ。この上にテントを張って夜中になったら帰りましょう。朝までいるとここの国王が煩いでしょうし、貴族が詰めかけてくるのも御免だわ」
夜に帰る、朝は変な人が来るから。小声で復唱して忘れないようにしてたら、アスティがくすくすと笑った。
「手伝ってね、カイ」
「うん!」
騎士の人は手伝いたそうに見てるけど、アスティは頼むつもりはない。僕が頼まれたの! 普段何も出来ないと蹴られた僕に、大切なアスティが頼んでくれたんだ。嬉しくて大きな声で返事をした。
僕が手伝うのは、テントの棒を持ってる仕事だった。皮の上に並んだ荷物を中央に寄せて、その真ん中に棒を立てる。倒れて来ないように押さえてる役が僕で、アスティがふわりと浮いて上からテントの布を被せた。重くなったけど、ちゃんと支えたよ。
「偉いわ、さすが私の番、私のカイね。頼りになるわ」
その言葉が嬉しくて、アスティが周囲を固定するまで棒を掴んでいた。もう大丈夫と言われて手を離したけど、棒はぐらぐらしない。荷物の中から毛布を取り出して一緒に敷いた。下の砂が熱いかと思ったら、そうでもないの。
「荷物の下だったから、熱くないのよ」
「そうなんだね」
また教えてもらう。いろいろと知らなくても、アスティは嬉しいと笑うの。僕に教えることが出来て嬉しい、幸せって言うのが不思議だけど。僕もね、アスティから教えてもらうの好きだよ。優しいし、嬉しそうなアスティが見られるから。
並んで座る僕達のテントは、海に向いた方だけ開いてる。周りはぐるりと布に囲われていた。見えるのは寄せて返す波と、赤い空が暗くなっていく景色だけ。後ろの荷物を開けて、お茶のセットやご飯を取り出した。
「食べちゃいましょうか」
「うん」
お店を見て歩いたからお腹が空いたよ。開いた箱の中は、焼いたり揚げたりしたお肉と柔らかいパン、それから野菜が入っていた。
「たくさんだね」
「そうね」
「お外の騎士の人にあげてもいい?」
小さく頷くアスティと一緒に外へ出て、立っていた騎士の人に配った。お茶も渡して、半分になったご飯を僕とアスティで食べる。たくさん入れてくれたのは、お屋敷の人がこうなると知ってたから? すごいな。美味しく食べて、アスティに抱き着いて海を見つめる。
毎日、ずっとアスティとこうしていられたらいいな。
「抱っこしましょうね」
そうじゃないよ。疲れたんじゃないの、でも嬉しいから頷いた。アスティに抱っこされて、近くで匂いを嗅ぐと幸せな気持ちになる。うっとりして胸がぽかぽかするんだ。だからアスティの抱っこは好き。首に手を回しても怒らないし、重いのに僕を落とさないくらい強い女王様なんだね。
近づくと、荷物の周りで番をしていた人が頭を下げる。さっと後ろへ下がった。腰に金属の棒を下げてるけど、あれは剣? あまりキラキラしていない。僕の知ってる剣はナイフの大きい奴で、表面が光ってたな。もしかしたら強くなると棒が光るのかも。
初めて見る騎士の装いに、マントが邪魔そうと眉を寄せた。歩く時裾を踏まないのかな、それにブーツも暑そうだよ。僕達みたいにサンダルにすればいいのに。長袖の服をきっちり着てカッコいいけど、汗かいてる。僕なら暑くて倒れちゃうと思う。
じろじろと上から下まで見ていたから、騎士の人も僕を見てくる。アスティに抱っこされた僕と目が合うと、にっこり笑った。怖い人じゃないみたい。
「ありがとう、でした」
アスティはうんと偉い人だから、お礼を言わない。僕はそこまで偉くないからお礼をしないと、失礼だよね。ぺこっと頭を下げたら「いいえ、お役に立てて光栄です」と頭を下げて挨拶された。いいえの後ろの「光栄」は分からないけど。
アスティがいい子ねと僕を撫でる。それから荷物を開け始めた。中には、テントや毛布も入ってる。広げた皮は大きくて、縁がぎざぎざとしていた。
「これはね、以前に退治した巨大な熊の毛皮なのよ。使い勝手がいいから愛用してるの」
熊なの? 僕をぱくりと食べてもまだ食べられそうだよ。アスティも入っちゃいそうなのに、戦って勝ったなんて驚いた。戦う強いアスティも見てみたかったな。
「大きいね」
「ええ。この上にテントを張って夜中になったら帰りましょう。朝までいるとここの国王が煩いでしょうし、貴族が詰めかけてくるのも御免だわ」
夜に帰る、朝は変な人が来るから。小声で復唱して忘れないようにしてたら、アスティがくすくすと笑った。
「手伝ってね、カイ」
「うん!」
騎士の人は手伝いたそうに見てるけど、アスティは頼むつもりはない。僕が頼まれたの! 普段何も出来ないと蹴られた僕に、大切なアスティが頼んでくれたんだ。嬉しくて大きな声で返事をした。
僕が手伝うのは、テントの棒を持ってる仕事だった。皮の上に並んだ荷物を中央に寄せて、その真ん中に棒を立てる。倒れて来ないように押さえてる役が僕で、アスティがふわりと浮いて上からテントの布を被せた。重くなったけど、ちゃんと支えたよ。
「偉いわ、さすが私の番、私のカイね。頼りになるわ」
その言葉が嬉しくて、アスティが周囲を固定するまで棒を掴んでいた。もう大丈夫と言われて手を離したけど、棒はぐらぐらしない。荷物の中から毛布を取り出して一緒に敷いた。下の砂が熱いかと思ったら、そうでもないの。
「荷物の下だったから、熱くないのよ」
「そうなんだね」
また教えてもらう。いろいろと知らなくても、アスティは嬉しいと笑うの。僕に教えることが出来て嬉しい、幸せって言うのが不思議だけど。僕もね、アスティから教えてもらうの好きだよ。優しいし、嬉しそうなアスティが見られるから。
並んで座る僕達のテントは、海に向いた方だけ開いてる。周りはぐるりと布に囲われていた。見えるのは寄せて返す波と、赤い空が暗くなっていく景色だけ。後ろの荷物を開けて、お茶のセットやご飯を取り出した。
「食べちゃいましょうか」
「うん」
お店を見て歩いたからお腹が空いたよ。開いた箱の中は、焼いたり揚げたりしたお肉と柔らかいパン、それから野菜が入っていた。
「たくさんだね」
「そうね」
「お外の騎士の人にあげてもいい?」
小さく頷くアスティと一緒に外へ出て、立っていた騎士の人に配った。お茶も渡して、半分になったご飯を僕とアスティで食べる。たくさん入れてくれたのは、お屋敷の人がこうなると知ってたから? すごいな。美味しく食べて、アスティに抱き着いて海を見つめる。
毎日、ずっとアスティとこうしていられたらいいな。
37
お気に入りに追加
468
あなたにおすすめの小説

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。
新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜
京
恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。
右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。
そんな乙女ゲームのようなお話。

私のお父様とパパ様
棗
ファンタジー
非常に過保護で愛情深い二人の父親から愛される娘メアリー。
婚約者の皇太子と毎月あるお茶会で顔を合わせるも、彼の隣には幼馴染の女性がいて。
大好きなお父様とパパ様がいれば、皇太子との婚約は白紙になっても何も問題はない。
※箱入り娘な主人公と娘溺愛過保護な父親コンビのとある日のお話。
追記(2021/10/7)
お茶会の後を追加します。
更に追記(2022/3/9)
連載として再開します。

【電子書籍化進行中】声を失った令嬢は、次期公爵の義理のお兄さまに恋をしました
八重
恋愛
※発売日少し前を目安に作品を引き下げます
修道院で生まれ育ったローゼマリーは、14歳の時火事に巻き込まれる。
その火事の唯一の生き残りとなった彼女は、領主であるヴィルフェルト公爵に拾われ、彼の養子になる。
彼には息子が一人おり、名をラルス・ヴィルフェルトといった。
ラルスは容姿端麗で文武両道の次期公爵として申し分なく、社交界でも評価されていた。
一方、怠惰なシスターが文字を教えなかったため、ローゼマリーは読み書きができなかった。
必死になんとか義理の父や兄に身振り手振りで伝えようとも、なかなか伝わらない。
なぜなら、彼女は火事で声を失ってしまっていたからだ──
そして次第に優しく文字を教えてくれたり、面倒を見てくれるラルスに恋をしてしまって……。
これは、義理の家族の役に立ちたくて頑張りながら、言えない「好き」を内に秘める、そんな物語。
※小説家になろうが先行公開です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる