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12.自分で名前を伝えられたよ
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アストリッドさんは、アスティと呼ばれたいんだって。僕は愛称という呼び方を知らないけど、仲良くなれば呼ぶのだと教えてもらった。
「僕が呼んでもいいの?」
「ええ、カイにアスティと呼んで欲しいわ。これからもっと仲良くしましょうね」
「もっと?」
僕がいてもいいの。捨てたりしないってこと? 仲良くなんて、どきどきする。どうしたらいいか分からない。困ってアスティを見ていたら、呼んでと言われた。
「アスティ」
「そうよ、カイ。ありがとう」
お礼を言うくらい嬉しいのかな、たくさん呼べるように頑張ろう。僕の声も嫌いじゃないみたいだし、笑っても気持ち悪いと言われなかった。
「アスティ、僕がんばる」
「ふふっ、そうね。私もがんばるわね」
気持ちがぽかぽかする。アスティのシャツを着た僕は、裾を踏んで転びそうだった。危ないからとアスティが抱っこしてくれる。寝ていたお部屋を出て、少し先を左に曲がって一番奥のお部屋へ入った。
中は全体に白と青が多い。壁や絨毯は白くて、青い色を中心に家具が並んでる。家具の種類はよくわからないけど、壁についてる煉瓦は暖炉だよ。それと低いテーブルとソファ。ぴかぴか光る金属が使われていた。金色だ。
お部屋では待ってる人がいた。女の人で、僕達を見て頭を下げる。慌てて僕もぺこりとした。前いた場所は僕が一番下なの。だから誰が相手でも、僕が先に頭を下げるんだよ。
「カイ、挨拶が出来て偉いけど、あなたは頭を下げなくていいのよ。私の番だもの」
「つがい?」
「ええ、私の一番大切な人って意味。だから私と同じくらい偉いのよ」
よく分からなくて首を傾げたら「後で説明してあげるわね」と柔らかく言われた。アスティの紫の目がきらきらと綺麗。見惚れる僕は、ソファに座ったアスティの隣に降ろされた。
「この子の採寸をして、そうね……既製品を20着くらい手直ししてちょうだい。それから下着類も全部よ」
「あらぁ、どこから攫ってきたんです? 着替えひとつなしで連れてきちゃうなんて」
くすくす笑いながら、アスティの向かいにいる赤い髪のお姉さんは箱を開けた。持ってきたバッグの隣にあった箱は、上に取っ手がついてる。中はいろんな道具が入っていた。
僕が知ってるのは、針とハサミ。あとは紐やベルトみたいなのもあるね。不思議で覗いていると、ベルトに似た細い物を手にした赤毛のお姉さんが僕を手招きした。
「こちらで手を広げて立ってくれるかしら。こんな感じよ」
「……痛い?」
心配で尋ねると、驚いた顔をした後で床に膝を突いた。ソファに座る僕と同じ高さで、濃い色の手を差し出す。アスティとお姉さんを交互に見て、手のひらの上に僕の手を重ねた。
「ごめんなさい、最初に自己紹介だったわ。洋服を作るマレーナよ。痛いことはないし、嫌なら出来るだけ触らないようにするわ」
「カイ、です。痛くないなら平気」
アスティが頷くから、僕もがんばった。そう約束したから、自分で名前と平気を伝える。載せた手を気持ち悪いと言われなくてよかった。ゆっくり引かれて、ソファを降りる。前は足が痛かったけど、今は大丈夫だよ。治してもらったから。
「手を広げて、上手ね」
マレーナがしたのと同じように両手を広げて立つと、すぐに細いベルトを当てて何かを書き始めた。あっという間に終わって、僕はアスティに頬擦りされている。
「さすがはカイだわ。偉かったわね、私の番だけあって、賢くて可愛いでしょう」
「自慢したいのは当然ね。本当にいい子だもの。逃げられないようにね、女王様」
「もちろんよ」
交互に顔を見る僕を、二人は優しく見つめて頭を撫でる。それが気持ちよくて、へにゃりと笑ったら大喜びしてくれた。
「僕が呼んでもいいの?」
「ええ、カイにアスティと呼んで欲しいわ。これからもっと仲良くしましょうね」
「もっと?」
僕がいてもいいの。捨てたりしないってこと? 仲良くなんて、どきどきする。どうしたらいいか分からない。困ってアスティを見ていたら、呼んでと言われた。
「アスティ」
「そうよ、カイ。ありがとう」
お礼を言うくらい嬉しいのかな、たくさん呼べるように頑張ろう。僕の声も嫌いじゃないみたいだし、笑っても気持ち悪いと言われなかった。
「アスティ、僕がんばる」
「ふふっ、そうね。私もがんばるわね」
気持ちがぽかぽかする。アスティのシャツを着た僕は、裾を踏んで転びそうだった。危ないからとアスティが抱っこしてくれる。寝ていたお部屋を出て、少し先を左に曲がって一番奥のお部屋へ入った。
中は全体に白と青が多い。壁や絨毯は白くて、青い色を中心に家具が並んでる。家具の種類はよくわからないけど、壁についてる煉瓦は暖炉だよ。それと低いテーブルとソファ。ぴかぴか光る金属が使われていた。金色だ。
お部屋では待ってる人がいた。女の人で、僕達を見て頭を下げる。慌てて僕もぺこりとした。前いた場所は僕が一番下なの。だから誰が相手でも、僕が先に頭を下げるんだよ。
「カイ、挨拶が出来て偉いけど、あなたは頭を下げなくていいのよ。私の番だもの」
「つがい?」
「ええ、私の一番大切な人って意味。だから私と同じくらい偉いのよ」
よく分からなくて首を傾げたら「後で説明してあげるわね」と柔らかく言われた。アスティの紫の目がきらきらと綺麗。見惚れる僕は、ソファに座ったアスティの隣に降ろされた。
「この子の採寸をして、そうね……既製品を20着くらい手直ししてちょうだい。それから下着類も全部よ」
「あらぁ、どこから攫ってきたんです? 着替えひとつなしで連れてきちゃうなんて」
くすくす笑いながら、アスティの向かいにいる赤い髪のお姉さんは箱を開けた。持ってきたバッグの隣にあった箱は、上に取っ手がついてる。中はいろんな道具が入っていた。
僕が知ってるのは、針とハサミ。あとは紐やベルトみたいなのもあるね。不思議で覗いていると、ベルトに似た細い物を手にした赤毛のお姉さんが僕を手招きした。
「こちらで手を広げて立ってくれるかしら。こんな感じよ」
「……痛い?」
心配で尋ねると、驚いた顔をした後で床に膝を突いた。ソファに座る僕と同じ高さで、濃い色の手を差し出す。アスティとお姉さんを交互に見て、手のひらの上に僕の手を重ねた。
「ごめんなさい、最初に自己紹介だったわ。洋服を作るマレーナよ。痛いことはないし、嫌なら出来るだけ触らないようにするわ」
「カイ、です。痛くないなら平気」
アスティが頷くから、僕もがんばった。そう約束したから、自分で名前と平気を伝える。載せた手を気持ち悪いと言われなくてよかった。ゆっくり引かれて、ソファを降りる。前は足が痛かったけど、今は大丈夫だよ。治してもらったから。
「手を広げて、上手ね」
マレーナがしたのと同じように両手を広げて立つと、すぐに細いベルトを当てて何かを書き始めた。あっという間に終わって、僕はアスティに頬擦りされている。
「さすがはカイだわ。偉かったわね、私の番だけあって、賢くて可愛いでしょう」
「自慢したいのは当然ね。本当にいい子だもの。逃げられないようにね、女王様」
「もちろんよ」
交互に顔を見る僕を、二人は優しく見つめて頭を撫でる。それが気持ちよくて、へにゃりと笑ったら大喜びしてくれた。
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