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59.悪い時はやっつけてもいいの
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「ルンが足りない」
ディーはよくわからないことを言って、僕を抱きしめる。頭の上で匂いを嗅がないで。ぺちぺちと腕を叩いたら、緩めてくれた。
「もっと旅のお話を聞かせてちょうだい」
フィルはくすくす笑いながら、先を促す。だから、僕はもっとたくさんお話しした。ご飯はどんなものを食べたか、何をしたか。寝る前にどんなことを考えたか。全部話したんだ。
話している間に瞼が降りてきて、ごしごしと袖で擦る。その手を掴んだディーが、首を横に振った。これはダメだよ、の合図だ。我慢しないと……でも眠い。ふわっと欠伸が出た。フィルに促されて、ディーが僕を運ぶ。
ふわふわと移動する感覚が伝わるのに、まるで夢の中にいるみたいだった。ベッドのシーツがひんやりして、くるっと丸くなる。宥めるように、背中をぽんぽんと叩かれた。
「気づかれていないか?」
「ええ、問題ありません」
ディーとアガリ?
「知ったら気にするもの。教えない方がいいわ」
フィルも、何のお話だろう。起きて、何? と聞きたいのに、どうやっても目が開かない。そのまま起きていられなくなって、声も遠くなって聞こえなくなった。
不思議な夢を見たの。たくさんのドラゴンが火を吹いたり、氷を飛ばしたり、尻尾で建物を壊していた。逃げる人がいるのに、全然気にしないんだよ。僕の知るドラゴンさんは優しいから、これはただの夢。
遠い世界の映像みたいで、ただ見入ってしまった。ドラゴンって本当に強いんだよ。家から飛び出して逃げる人が、小さな虫みたい。アリの巣をつついた時を思い出した。わっと飛び出して走るんだよ。あの後、お母さんに叱られたっけ。
強い人は弱い人をやっつけちゃダメなの。でも弱い人が悪いことした時は別だった。僕がアリに噛まれたり、おやつを取られたりしたら、やり返してもいい。でもそうじゃないなら、攻撃しちゃダメよって。
ドラゴンが小さな人を襲うなら、きっと悪いことしたんだと思う。ディーのお家に住んでいるドラゴンは、皆優しかった。
「起きたの?」
フィルの声に驚いた。目を開けた僕を、お膝の上で抱っこしている。大きなお胸が目の前にあって、すぐに抱っこされた。ぎゅっと抱き寄せられて、ちょっと苦しい。お母さんの時は平気だったけど、フィルはお胸が大きいから苦しいの。隙間の量かな。
「フィルぅ」
「あら、ごめんなさい。苦しかった?」
ふふっと笑って、侍女の人が用意した布で、僕の顔を拭いた。たぶん、顔を洗う代わりだと思う。濡れた布は冷たくて、気持ちよかった。丁寧に拭いてもらい、起き上がってお膝に座る。
「ディーは?」
「仕事よ」
「アガリも?」
「ええ、そうね。二人とも仕事なの」
二人がいないから、フィルが僕を抱っこした。起きた時に一人は怖いから、嬉しい。そう伝えて、ぎゅっと抱きついた。
「あらあら、これは魔王陛下も可愛くて仕方なかったでしょうね」
「まおーへーかはお母さん? お母さんは可愛いじゃなくて、綺麗だよ」
可愛いのは違うよ。
「可愛いのはルンよ」
僕のこと? 僕、カッコいいのに憧れているんだけど。まだ遠いみたい。
ディーはよくわからないことを言って、僕を抱きしめる。頭の上で匂いを嗅がないで。ぺちぺちと腕を叩いたら、緩めてくれた。
「もっと旅のお話を聞かせてちょうだい」
フィルはくすくす笑いながら、先を促す。だから、僕はもっとたくさんお話しした。ご飯はどんなものを食べたか、何をしたか。寝る前にどんなことを考えたか。全部話したんだ。
話している間に瞼が降りてきて、ごしごしと袖で擦る。その手を掴んだディーが、首を横に振った。これはダメだよ、の合図だ。我慢しないと……でも眠い。ふわっと欠伸が出た。フィルに促されて、ディーが僕を運ぶ。
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「ええ、問題ありません」
ディーとアガリ?
「知ったら気にするもの。教えない方がいいわ」
フィルも、何のお話だろう。起きて、何? と聞きたいのに、どうやっても目が開かない。そのまま起きていられなくなって、声も遠くなって聞こえなくなった。
不思議な夢を見たの。たくさんのドラゴンが火を吹いたり、氷を飛ばしたり、尻尾で建物を壊していた。逃げる人がいるのに、全然気にしないんだよ。僕の知るドラゴンさんは優しいから、これはただの夢。
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強い人は弱い人をやっつけちゃダメなの。でも弱い人が悪いことした時は別だった。僕がアリに噛まれたり、おやつを取られたりしたら、やり返してもいい。でもそうじゃないなら、攻撃しちゃダメよって。
ドラゴンが小さな人を襲うなら、きっと悪いことしたんだと思う。ディーのお家に住んでいるドラゴンは、皆優しかった。
「起きたの?」
フィルの声に驚いた。目を開けた僕を、お膝の上で抱っこしている。大きなお胸が目の前にあって、すぐに抱っこされた。ぎゅっと抱き寄せられて、ちょっと苦しい。お母さんの時は平気だったけど、フィルはお胸が大きいから苦しいの。隙間の量かな。
「フィルぅ」
「あら、ごめんなさい。苦しかった?」
ふふっと笑って、侍女の人が用意した布で、僕の顔を拭いた。たぶん、顔を洗う代わりだと思う。濡れた布は冷たくて、気持ちよかった。丁寧に拭いてもらい、起き上がってお膝に座る。
「ディーは?」
「仕事よ」
「アガリも?」
「ええ、そうね。二人とも仕事なの」
二人がいないから、フィルが僕を抱っこした。起きた時に一人は怖いから、嬉しい。そう伝えて、ぎゅっと抱きついた。
「あらあら、これは魔王陛下も可愛くて仕方なかったでしょうね」
「まおーへーかはお母さん? お母さんは可愛いじゃなくて、綺麗だよ」
可愛いのは違うよ。
「可愛いのはルンよ」
僕のこと? 僕、カッコいいのに憧れているんだけど。まだ遠いみたい。
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