【完結】過保護な竜王による未来の魔王の育て方

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)

文字の大きさ
上 下
58 / 90

58.猫さんを舐めるのはダメ

しおりを挟む
「食べ終わったら、帰りましょうか。兄さんが寂しいそうです」

「うん? いいよ」

 亀さんに会ったし、猫さんとも遊んだ。片方だと思ってたから、二人も会えて嬉しかったの。ディーが寂しいって連絡してきたなら、僕、帰って抱っこするよ。

 いつもはディーが抱っこしてくれるけど、僕から抱きついたら喜ぶかな。アガリは大きく頷いたあと、羨ましいですねと言った。だから、アガリに抱っこの手を伸ばす。ふわりと抱き上げられて、嬉しいからぎゅっと背中まで手を伸ばして抱っこした。

 やっぱり手が届かない。アガリやディーが同じことすると、僕の背中を通り越して両手が握手できるのに。僕はまだ腕が届かなかった。でもいいの。今できることを頑張るんだよ。

「羨ましいのぉ」

 猫さんが頬を擦り寄せるから、この次ねと約束した。小さな約束はすぐ叶うけど、大きな約束は後で叶える。両方大事だよね。アガリがそっと地面に降ろしたので、僕は猫さんの首に抱きついた。もふっと体が埋もれちゃう。

 柔らかくて温かくて、いい匂いのする毛皮が大好き。優しく遊んでくれる猫さんも好き。両手を目一杯伸ばして、大好きを伝えた。猫さんはザラザラの舌で僕を舐める。お礼に僕も舐めたら、口の中がイガイガになった。

「あはひぃ……」

「これで口を濯いで」

 用意されたコップのお水を口に入れて、ぺっと吐き出す。何回か繰り返したら、治った。安心した僕は、こっそり笑っていた猫さんのお尻を叩く。ぺちぺちと叩いたら、尻尾が揺れた。

「笑わないで!」

「すまぬ、詫びにこれをやろう」

 綺麗な石を渡された。猫さんの目みたいに、縦に光が入っている石だ。嬉しいから、お礼を言ったらまた舐められた。でももう舐め返さないよ。代わりに手を伸ばして、首や顔を撫でた。

 朝のご飯はパンで、お昼はお鍋。たっぷり煮て、猫さんも一緒に食べた。僕とアガリが器に入れたスープの残りを、お鍋から直接食べちゃったんだ。驚いたけど、猫さんは大きいからね。

 お腹いっぱいになって、猫さんに手を振って帰る。アガリの抱っこで空を飛んでいると、気持ちよくて眠くなってきた。いつもならお昼寝の時間だ。

「寝ていていいですよ」

 アガリはそう言うけど、飛んでいる風景も見たい。頑張って目を開けていたけど、途中から景色を覚えていなかった。子供だから寝ちゃうのかな。

「起きたか? おかえり、ルン」

「ただぃま、ディー。おかえり」

「ああ、ただいま」

 ディーのお膝で起きて、両手を上にあげて体を伸ばす。お部屋はディーのお部屋で、アガリとフィルもいた。きょろきょろしたけど、バラムがいない。

「ディー、バラムは?」

「扉の外だ」

 お仕事してるんだ。邪魔しないように、あとで「ただいま」するね。

「楽しかったかしら? ルン、おかえりなさい」

「フィルもただいま!」

 ご挨拶して、旅のお話をした。亀さんと猫さんのこと、低く飛んだ風景のこと、それから新しい約束や泳げた話も。嬉しそうに聞くディーに何してたのか聞いたら、唸っちゃった。難しいお仕事してたみたい。
しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた

菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…? ※他サイトでも掲載中しております。

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。

新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

「無加護」で孤児な私は追い出されたのでのんびりスローライフ生活!…のはずが精霊王に甘く溺愛されてます!?

白井
恋愛
誰もが精霊の加護を受ける国で、リリアは何の精霊の加護も持たない『無加護』として生まれる。 「魂の罪人め、呪われた悪魔め!」 精霊に嫌われ、人に石を投げられ泥まみれ孤児院ではこき使われてきた。 それでも生きるしかないリリアは決心する。 誰にも迷惑をかけないように、森でスローライフをしよう! それなのに―…… 「麗しき私の乙女よ」 すっごい美形…。えっ精霊王!? どうして無加護の私が精霊王に溺愛されてるの!? 森で出会った精霊王に愛され、リリアの運命は変わっていく。

【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜

光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。 それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。 自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。 隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。 それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。 私のことは私で何とかします。 ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。 魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。 もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ? これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。 表紙はPhoto AC様よりお借りしております。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

目が覚めたら異世界でした!~病弱だけど、心優しい人達に出会えました。なので現代の知識で恩返ししながら元気に頑張って生きていきます!〜

楠ノ木雫
恋愛
 病院に入院中だった私、奥村菖は知らず知らずに異世界へ続く穴に落っこちていたらしく、目が覚めたら知らない屋敷のベッドにいた。倒れていた菖を保護してくれたのはこの国の公爵家。彼女達からは、地球には帰れないと言われてしまった。  病気を患っている私はこのままでは死んでしまうのではないだろうかと悟ってしまったその時、いきなり目の前に〝妖精〟が現れた。その妖精達が持っていたものは幻の薬草と呼ばれるもので、自分の病気が治る事が発覚。治療を始めてどんどん元気になった。  元気になり、この国の公爵家にも歓迎されて。だから、恩返しの為に現代の知識をフル活用して頑張って元気に生きたいと思います!  でも、あれ? この世界には私の知る食材はないはずなのに、どうして食事にこの四角くて白い〝コレ〟が出てきたの……!?  ※他の投稿サイトにも掲載しています。

処理中です...