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50.亀さんとお話したよ

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 朝はお魚を獲って焼く。そのまま齧ると思ったのに、火にかけたお鍋に入れた。このお鍋、起きたらあったけど……アガリの荷物入れの穴から出てきたのかな。

 中を覗いても、白い湯気で見えなかった。火が燃えて出るのが煙、お湯から出るのが湯気。これは火にかけたお鍋のお湯から……どっちだろ。

「アガリ、これは湯気? 煙?」

「湯気ですね」

 湯気で合ってた。煙はけほんと咳が出ちゃうけど、湯気はあったかいだけ。違いを思い出す僕は、抱っこで鍋から離された。

「火傷するから離れてください」

「僕、熱いのは平気だよ」

「見てる私が怖いです」

 僕はお父さんと同じで、火傷はしないの。熱いご飯は、ちょっと苦手だけど。アガリは心配だと僕を離した。無理に近寄ったりしないで、お座りして待つ。見上げると、亀さんはもう首を短くしていた。

「昨日の夜はありがと、水は冷たくなかった?」

 頭の上にたくさん落ちたんじゃないかな。お礼と心配を伝えたら、穏やかに返事をしてくれた。

「平気だ、ありがとう、ぼうや」

「僕ね、ルンっていうの」

「ルンか、良い名だ」

 褒めてもらった! お父さんとお母さんが考えたお名前を褒められると嬉しい。にこにこする僕は、手を伸ばして、亀さんの肌に触れる。しっとりして冷たくて、でも気持ちよかった。撫で撫でしていると、アガリに呼ばれる。

「ルン、ご飯ができました」

「うん!」

 亀さんに手を振って、アガリの横まで行く。深い器に入れてもらったのは、お魚のスープだった。冷まして、スプーンで「あーん」をしてもらう。美味しいスープは、お魚の身が混じってる。

「美味しい!」

「よかったです。もっと食べてください」

 僕にあーんして、すぐに自分も食べて、また僕に。スプーンが忙しく動く。だからパンを千切って、入れるのは僕の役目だよ。アガリの持ってる器に、小さくしたパンを投げた。スープをたっぷり吸って、僕のお口に返ってくる。

 お腹いっぱい。膨らんだお腹を撫でて、ごろりと横になった。洞窟の入り口は濡れているけど、奥の方は乾いている場所があるの。

「食べてすぐ横になると、カバになるぞ」

 脅すみたいに言われて、亀さんを見上げる。

「かば?」

「そうだ。大きくて動きがゆっくりの動物でな」

 説明を聞いたけど、僕が知らない動物だ。不思議だな。川に住んでいて、大きくて毛皮がない。見てみたいけど、近くにいないんだって。

「亀さんはどこで見たの?」

「はるか昔、南の方だったか」

 みなみ……後でアガリに教えてもらおう。帰り道に見られたら嬉しいな。今回が無理でも、次のお出かけで会えるかも。

「準備できました。どうしました? ルン」

 ご飯の道具を片付けたアガリは、薄いシャツを僕に差し出す。これを着て泳ぐの? すぽんと脱いでシャツを着る。それから薄くて短いズボンも。これはお膝の上までしかない。

 両方とも綺麗な赤だった。アガリはズボンだけで、上は裸だった。鱗があるから平気なんだ。僕を抱っこして、亀さんに挨拶してから滝へ飛び込む。すぐに亀さんも来るよね。
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