27 / 90
27.まだ帰ってこない
しおりを挟む
僕のお昼寝中に、ディーは仕事に出かけた。お日様が傾く頃には帰ってくる。アガリはそう言ったのに、全然帰ってこない。窓に肘をついて、外を眺めた。
お日様は斜めになって、お空を薄いオレンジ色にした。横向きに傾く頃には、青とピンクになる。真っ赤な色にならなかったお日様が沈んで、青が多くなった。まだかな、ぶらぶらと足を揺らす。こつん、つま先が壁に当たった。
「あっ! ディーだ」
まだ姿は見えないけど、すごい勢いで飛んでくる。あれはディーだよ! 叫んだ僕に、作業をしていたアガリが駆け寄った。
「兄さん?」
「うん。ほら、あっちの方」
指差した方角は、もう暗くて青より黒だった。その中に、ぽちっと白い星がある。でもあれじゃないの。その下の方だよ。何度も教える僕の横に顔を並べて、アガリはじっと見つめた。
「あっ、本当に兄さんです」
「うん」
帰ってきたディーは、そのまま窓へ向かってくる。お庭に降りるんじゃないのかな? シエルのところへ遊びに行った時は、広い場所に降りたのに。こてりと首を傾げた僕を、アガリがさっと抱き寄せた。
「危ないから、このままで」
アガリの言葉が終わるより早く、天井で変な音がした。べこっとか、ぐしゃっとか。見上げるけど、穴は空いてない。ディーはどこへ行ったのかな。きょろきょろする僕は、廊下の方を見て止まった。
「アガリ」
あっち、指差す前に扉が開く。廊下から入ってきたディーは、背中の羽が広がったまま。入り口の扉に羽がぶつかって、変な音がした。痛そうなのに、全然平気な顔をしている。でも扉が変な形になったよ。
「兄さん、急ぐのは理解しますが壊さないでください」
「やわな扉が悪い」
ぶつぶつ文句を言うアガリに、ディーはぴしゃっと返した。両手を広げて僕を抱き上げ、いつもみたいに腕に座らせる。頬を擦り寄せたら、いっぱいチューをしてくれた。
「ただいま、ルン」
「おかーりなさい」
上手に言えた。嬉しくなってにっこり笑う。後ろでドラゴンの一族の人が何か騒いでる。つんつんと頬を突いて、後ろを示してみた。呼ばれたディーは、嫌そうに僕を下ろした。代わりにアガリに抱っこしてもらう。
「すぐ戻るから」
待ってるねと手を振って、アガリにお話を聞いた。ディーはいつもの着陸のお庭じゃなくて、屋根に降りたんだって。凹んだり傷になった部分を、直さないとダメなの。
壊さないように、お庭に降りたらいいのに。ね! と二人で笑い合って、僕は温かい気持ちでアガリと待った。さっきとは違うの。すぐ近くにいるのがわかるし、屋根の上で音もしている。
「先にお風呂に入りますか?」
「ううん、ディーと入る。アガリも一緒に入る?」
寂しそうな顔をしたので、三人で行こうと誘った。お付き合いします、とアガリは笑顔になる。そうだよね、一人でおふろは寂しいもん。一緒がいいよね。
お日様は斜めになって、お空を薄いオレンジ色にした。横向きに傾く頃には、青とピンクになる。真っ赤な色にならなかったお日様が沈んで、青が多くなった。まだかな、ぶらぶらと足を揺らす。こつん、つま先が壁に当たった。
「あっ! ディーだ」
まだ姿は見えないけど、すごい勢いで飛んでくる。あれはディーだよ! 叫んだ僕に、作業をしていたアガリが駆け寄った。
「兄さん?」
「うん。ほら、あっちの方」
指差した方角は、もう暗くて青より黒だった。その中に、ぽちっと白い星がある。でもあれじゃないの。その下の方だよ。何度も教える僕の横に顔を並べて、アガリはじっと見つめた。
「あっ、本当に兄さんです」
「うん」
帰ってきたディーは、そのまま窓へ向かってくる。お庭に降りるんじゃないのかな? シエルのところへ遊びに行った時は、広い場所に降りたのに。こてりと首を傾げた僕を、アガリがさっと抱き寄せた。
「危ないから、このままで」
アガリの言葉が終わるより早く、天井で変な音がした。べこっとか、ぐしゃっとか。見上げるけど、穴は空いてない。ディーはどこへ行ったのかな。きょろきょろする僕は、廊下の方を見て止まった。
「アガリ」
あっち、指差す前に扉が開く。廊下から入ってきたディーは、背中の羽が広がったまま。入り口の扉に羽がぶつかって、変な音がした。痛そうなのに、全然平気な顔をしている。でも扉が変な形になったよ。
「兄さん、急ぐのは理解しますが壊さないでください」
「やわな扉が悪い」
ぶつぶつ文句を言うアガリに、ディーはぴしゃっと返した。両手を広げて僕を抱き上げ、いつもみたいに腕に座らせる。頬を擦り寄せたら、いっぱいチューをしてくれた。
「ただいま、ルン」
「おかーりなさい」
上手に言えた。嬉しくなってにっこり笑う。後ろでドラゴンの一族の人が何か騒いでる。つんつんと頬を突いて、後ろを示してみた。呼ばれたディーは、嫌そうに僕を下ろした。代わりにアガリに抱っこしてもらう。
「すぐ戻るから」
待ってるねと手を振って、アガリにお話を聞いた。ディーはいつもの着陸のお庭じゃなくて、屋根に降りたんだって。凹んだり傷になった部分を、直さないとダメなの。
壊さないように、お庭に降りたらいいのに。ね! と二人で笑い合って、僕は温かい気持ちでアガリと待った。さっきとは違うの。すぐ近くにいるのがわかるし、屋根の上で音もしている。
「先にお風呂に入りますか?」
「ううん、ディーと入る。アガリも一緒に入る?」
寂しそうな顔をしたので、三人で行こうと誘った。お付き合いします、とアガリは笑顔になる。そうだよね、一人でおふろは寂しいもん。一緒がいいよね。
276
お気に入りに追加
430
あなたにおすすめの小説

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。
新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、
廃妃の再婚
束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの
父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。
ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。
それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。
身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。
あの時助けた青年は、国王になっていたのである。
「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは
結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。
帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。
カトルはイルサナを寵愛しはじめる。
王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。
ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。
引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。
ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。
だがユリシアスは何かを隠しているようだ。
それはカトルの抱える、真実だった──。
若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!
古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。
そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は?
*カクヨム様で先行掲載しております

夫の隠し子を見付けたので、溺愛してみた。
辺野夏子
恋愛
セファイア王国王女アリエノールは八歳の時、王命を受けエメレット伯爵家に嫁いだ。それから十年、ずっと仮面夫婦のままだ。アリエノールは先天性の病のため、残りの寿命はあとわずか。日々を穏やかに過ごしているけれど、このままでは生きた証がないまま短い命を散らしてしまう。そんなある日、アリエノールの元に一人の子供が現れた。夫であるカシウスに生き写しな見た目の子供は「この家の子供になりにきた」と宣言する。これは夫の隠し子に間違いないと、アリエノールは継母としてその子を育てることにするのだが……堅物で不器用な夫と、余命わずかで卑屈になっていた妻がお互いの真実に気が付くまでの話。
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから――
※ 他サイトでも投稿中
子持ちの私は、夫に駆け落ちされました
月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。
冷徹宰相様の嫁探し
菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。
その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。
マレーヌは思う。
いやいやいやっ。
私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!?
実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。
(「小説家になろう」でも公開しています)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる