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26.進化中なので放置 ***SIDE竜王
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魔力の多さに任せてぶっ飛ばすのは得意だが、繊細な調整は竜族の鬼門だ。全くもって不向き、ここは素直に応援を呼ぶことにした。
魔族と窓口を設けたのは、先代竜王ダンダリオン――ルンの父親だ。彼は次期魔王となるフルーレティと結婚した。竜王の妻である竜王妃の地位が、魔女王と重なることを厭うて竜王位を降りた。
魔族との外交や交流が始まったのは、妻フルーレティのためだろう。お陰で、竜族と魔族の結婚や交際も増えた。顔見知りの吸血鬼ヴラドへ連絡を取る。というより、緊急事態だと呼びつけた。
ひとっ飛びして現場を見たら、すぐ戻るつもりだったのに。夕暮れが近づく淡いオレンジの空を見上げる。もうルンのお昼寝は終わったか。早く戻りたい。
「急に呼びつけるから誰かと思えば……」
文句を言いながら現れた吸血鬼は、黒い巨大な蝙蝠だった。まだ陽のある時間帯に呼び出したので、イライラしている。悪いと思うが、そちらの女王の話だぞと切り出した。
「女王陛下?」
「ああ、そこにいるんだが」
居間の奥の部屋を示し、彼が確認するのを待つ。ひっ! 悲鳴をあげて、転げるように戻ったヴラドは、部屋中を見回した。慌てふためいた様子で、長椅子の後ろを確認したり、クッションの陰を覗き込む。その仕草に、察した俺は口を開いた。
「ルンなら俺が預かってる」
「はぁ、それならいいが……」
長椅子の背もたれ部分に着地し、大きな羽を畳んだ蝙蝠は一瞬で人の姿になった。初老の紳士といった風情だ。相変わらず気障ったらしい衣装を好み、人間の貴族のような一礼をした。
「事情を知っていたら教えてくれ」
「女王陛下は進化の寸前でした。何らかのショックで、予定より早く眠りに入られたのだろう。問題は、前竜王様を巻き込んだ部分か?」
何が問題なのか、彼なりに推測したようだ。状況を見る限り、魔王の進化に夫が巻き込まれ、同族のドラゴンが騒いでいる。そう判断した。ある意味、間違っていないが……。
「実は」
かいつまんで事情を説明する。ルンが人間に捕まっていた件で、ヴラドは目を細めた。うっすらと殺気が滲んでいる。魔族にも愛されるルンの状況が窺えた。
「進化の切欠が、ご子息の誘拐だったとしても……変ですね」
腑に落ちないと何度も首を傾げるヴラドだが、問題点はそこではない。あれこれと話し合い、互いの懸念をぶつけた結果……ルンは竜族が預かることになった。
封印が解ける日が明日か、数百年後かわからない。魔族の中には、他者を食うことで魔力を増やす種族もいた。幼いルンが狙われる可能性もある。俺も離れたくなかったので、そこは養育権を主張した。
寝室に封印された二人に危害を加えることは不可能だ。このまま放置が正しい。魔族と竜族から定期的に兵士を派遣し、観察する相談もした。ヴラドはまだ何か唸っているが、俺の意識は屋敷のルンへ一直線だ。
日が暮れて暗くなってきた。夕食を食べるときは、俺が口に運んでやりたい。アガリはきちんと面倒を見ているだろうか。俺がいなくて泣いているかも。想像だけで焦りが募る。
「何かあれば連絡してくれ」
一言残して、大急ぎで屋敷へ向かって飛んだ。今帰るぞ、ルン!!
魔族と窓口を設けたのは、先代竜王ダンダリオン――ルンの父親だ。彼は次期魔王となるフルーレティと結婚した。竜王の妻である竜王妃の地位が、魔女王と重なることを厭うて竜王位を降りた。
魔族との外交や交流が始まったのは、妻フルーレティのためだろう。お陰で、竜族と魔族の結婚や交際も増えた。顔見知りの吸血鬼ヴラドへ連絡を取る。というより、緊急事態だと呼びつけた。
ひとっ飛びして現場を見たら、すぐ戻るつもりだったのに。夕暮れが近づく淡いオレンジの空を見上げる。もうルンのお昼寝は終わったか。早く戻りたい。
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「ルンなら俺が預かってる」
「はぁ、それならいいが……」
長椅子の背もたれ部分に着地し、大きな羽を畳んだ蝙蝠は一瞬で人の姿になった。初老の紳士といった風情だ。相変わらず気障ったらしい衣装を好み、人間の貴族のような一礼をした。
「事情を知っていたら教えてくれ」
「女王陛下は進化の寸前でした。何らかのショックで、予定より早く眠りに入られたのだろう。問題は、前竜王様を巻き込んだ部分か?」
何が問題なのか、彼なりに推測したようだ。状況を見る限り、魔王の進化に夫が巻き込まれ、同族のドラゴンが騒いでいる。そう判断した。ある意味、間違っていないが……。
「実は」
かいつまんで事情を説明する。ルンが人間に捕まっていた件で、ヴラドは目を細めた。うっすらと殺気が滲んでいる。魔族にも愛されるルンの状況が窺えた。
「進化の切欠が、ご子息の誘拐だったとしても……変ですね」
腑に落ちないと何度も首を傾げるヴラドだが、問題点はそこではない。あれこれと話し合い、互いの懸念をぶつけた結果……ルンは竜族が預かることになった。
封印が解ける日が明日か、数百年後かわからない。魔族の中には、他者を食うことで魔力を増やす種族もいた。幼いルンが狙われる可能性もある。俺も離れたくなかったので、そこは養育権を主張した。
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日が暮れて暗くなってきた。夕食を食べるときは、俺が口に運んでやりたい。アガリはきちんと面倒を見ているだろうか。俺がいなくて泣いているかも。想像だけで焦りが募る。
「何かあれば連絡してくれ」
一言残して、大急ぎで屋敷へ向かって飛んだ。今帰るぞ、ルン!!
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