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外伝

122.幸せが幸せを呼ぶ(最終話)

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 長 長男ナサニエルの誕生日当日、私は忙しく準備をしていた。友人を呼ばず家族だけで祝いたいと聞いている。だからお祖父様やお母様達にも声をかけた。

 以前は一日掛りで馬車に揺られた距離も、今は近くなった。途中にあった山をくり抜いて、大きな穴を掘ったの。お祖父様の一大工事で、皇族の私財を投入したから早かったわ。完成した穴を走れば、時間は半日ほど。街道も広く平らに整えられ、民も便利になったと喜んだ。

 そのため帝都の屋敷は学院へ通う子ども達だけ、週末は私や夫オスカルも帝都へ向かう。たまに子ども達がアルムニア公国へ帰ってくることもあった。だから誕生祝いを公国の屋敷で、家族だけと言われた時も、さほど驚きはない。週末でよかったと思う程度だった。

 飾り付けは前日から執事や侍従達が取り組んでくれたし、掃除は侍女が頑張ったわ。美しい色のテーブルクロスに花瓶を置いて、全体を見回す。

「皆、ありがとう。間に合ったわね」

 前日から屋敷に入ったエリサリデ公爵夫妻こと、両親がぐるりと見回す。お祖父様達もそろそろ到着ね。馬車の到着を告げる執事に頷き、慌てて迎えに行った。やっぱりお祖父様達だわ。大急ぎで客間へご案内して、また到着の連絡に駆けて戻る。

「おっと、転んでしまうよ」

 躓いた私を、オスカルが受け止めた。ほっとする。裾を踏んでしまったの。顔から転ぶかと思ったわ。

「ありがとう、オスカル。子ども達が着いたのよ」

「ならば一緒に行こう。お手をどうぞ、奥様」

 ふふっと笑い、彼の腕にするりと手を絡ませる。玄関ホールには、すでに三人が到着していた。お父様達が出迎えてくれたみたい。

「お帰りなさい。リリー、エル、セラ」

 口々にただいまが聞こえ、立派になった我が子達が抱きつく。オスカルに支えてもらいながら、全員をいっぺんに受け止めた。両手に余る可愛い子ども達と居間へ移動する。土産話を聞きながら、着替えるよう促した。服はそれぞれの私室に用意したわ。

 さっと湯を浴びて、着替えた子ども達を迎えるのは、夜会や晩餐会で使用される広間だ。家族だけでなく、使用人も招待することにしたの。家族同然の彼らに祝ってもらったら、エルも喜ぶわ。

「お母様、どうですか?」

 着飾ったリリーは淑女と呼ぶには若く、どこまでも透き通った美しさがある。淡い水色のドレスも、銀髪によく似合っていた。手を繋いで一緒に現れたセラは、可愛いピンク色。金髪を左右二つに結んで、リボンを結ぶ髪型も似合っていた。

「二人とも素敵よ」

「お待たせ……僕はどう?」

 入り口で微笑むのは、エル。お祖父様達が目を見開き、今日の主役に拍手が送られた。お祝いの声が飛び交う中、堂々と歩いてくる。もう11歳、立派に育った彼は大人への階段に足をかけた。

「似合ってるわ」

 仕立てた上着はぴったりね。本人が希望した通り、紺色に銀の刺繍を施した。腰の儀礼用の飾り剣の房飾りも銀という徹底ぶり。でも似合っているし、素敵だった。本心から褒めると、照れて赤くなる。私の知る幼いエルが顔を覗かせた。

「今日はありがとう。僕は11歳になった。もう子どもじゃありません。好きな人がいるんです」

 挨拶を始めたエルの言葉に、ざわめきが起きた。誰もが驚いた顔をしているけど、不思議とセラは平然としている。手を繋いだリリーが青ざめた。

「嘘っ……」

 長女であるリリーより先にエルが恋愛話を始めるなんて。一般的には女の子の方が早いというけれど、うちは男の子の方が早熟だったみたいね。微笑ましい気分で耳を傾ける。

 コツコツと靴音を響かせたエルが、剣を腰から抜いて片膝を突いた。捧げるように剣を持ち、リリーを見上げる。まさか?

「リリアナ・サラ・アルムニア嬢。ナサニエル・ジ・エリサリデが愛を捧げます、僕を選んでください」

 婚約の申し込みだわ。感動して目が潤む。ふらついた私をオスカルが支えた。

「私?」

 驚いたリリーの声に、全員が頷いた。誰も反対しないし、咎めようとしない。姉弟だけど、エルは真剣だった。リリーが受け入れるなら、この婚約は成立可能だわ。先ほどエルが名乗った通り、二人は家族なのに姓が違うんだもの。いずれ継ぐべき家の名をそれぞれに名乗っている。

「……あ、姉だけど」

「関係ないよ。僕はリリーが好き」

 姉が好きなんじゃない。君だから好きなんだ。その言葉に、リリアナの頬が濡れた。セラと繋いでいた手を離し、何度も顔を拭う。化粧は崩れてしまったけど、満面の笑みを浮かべるリリーは綺麗だった。

「はい」

 聞こえるかどうか。小さな返答だけど、耳を澄ませていた使用人が拳を握り、息を呑んだ家族がわっと喜びの声を上げた。あっという間に誕生日会は、婚約成立のパーティーへと格上げされ、豪華なケーキが運ばれる。誕生祝いを刻んだチョコ板の隣に、大急ぎで用意した文字が追加された。

 ――婚約おめでとう。

 誰がどの家を継ぐとか、どこに住むかなんてどうでも構わない。ただこれだけは確かよ。私の手が届く範囲は、すべて幸せで埋め尽くされている。全員可愛い私の子ども達なの。自慢したい気持ちで、誇らしさに胸を張った。

「エルもやるなぁ」

 オスカルが呆れたように呟き、私よりよほど手が早いと笑った。そうね、あなたは奥手だったもの。呟いた言葉ごと、重ねた唇に奪い取られた。








 三年後――末娘が思わぬ行動に出た。

「エルお兄様はリリアナお姉様と結婚して、アルムニア大公家に入るのでしょう? なら私がエリサリデ公爵家を継ぐわ。夫も見つけてきたの」

 侯爵家次男、それも首席を争う優等生。長男ナサニエルの友人と聞いて、私達は額を押さえた。おかしいわ、育て方を間違えたのかしら。

「夫ではなく、婚約者でしょう?」

「同じよ。彼は私を愛してるんだもの」

 にっこり笑う末っ子は、逞しさを遺憾なく発揮した。

「愛されて結婚すれば幸せになれるのよ!」

 間違っていないだけに、私と夫オスカルは咎められない。あなたが幸せになれるなら、それでいいわよ。微笑んだ一言に、セラフィナは満面の笑みで応えた。私達の子どもは三人とも幸せを掴むことに貪欲過ぎるわ。誰に似たのかしらね。






 The END……









*********************
外伝終了です。ここで完結となります。お付き合いありがとうございました(o´-ω-)o)ペコッ


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感想 359

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みんなの感想(359件)

ぱら
2023.01.14 ぱら

完結おめでとう㊗御座います!!

エル君もセラちゃんも肉.食.系!?
(*´罒`*)
嫌いじゃ無いよ?!寧ろ好き(*´˘`*)♡

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
2023.01.15 綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)

ありがとうございました(o´-ω-)o)ペコッ
もしかしたらティナの血筋が肉食((((;´・ω・`)))ガクガクブルブル リリアナちゃん、食べられてしまうw
幸せになる彼らを見送ってくださいませσ(*´∀`*)ニコッ☆

解除
荒谷創
2023.01.14 荒谷創

完全なるハッピーエンド万歳
\(^^)/

ああ、ほっこり(*´ω`*)
みんな、おめでとう~♪

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
2023.01.15 綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)

ハッピーエンドです (`・ω・´)キリッ 全員が幸せになれましたね。まあ某侯爵家を除く、だけど。
子爵もオスカルが上司になって働きが正当に評価されてそうです_( _*´ ꒳ `*)_

解除
ぽん桔
2023.01.14 ぽん桔

完結おめでとうございます٩(๑>∀<๑)۶🎉 オメデトゥ♪

エル君、リリアナ嬢と婚約おめでとう҉٩(*´︶`*)۶҉
長年の想いが成熟した瞬間、立ち会いたかったわ~*ヽ(ω・*ヽ)メデ♪(ノ*・ω)ノタイ♪.。゚+.(*・ω・*)ノ。+.゚ナァ♪

そして、セラフィナちゃん、自分の事を愛しているからとエル君の親友君を将来の夫って……やはり尻に敷く予定なのね( ゚∀゚)ハハッ…(´°ᗜ°)アハハッ..

……孫に会いたいが一心で山をくり貫く皇族……まあ、私財を投じてやったのですから文句はでないし、しかも便利になったと民達に喜ばれている辺り凄いなぁと感心してしまいました(σロ-ロ)✧ふむふむ
きっと馬車の改造もやりまくっていくのでしょうね( ,,-`_´-)੭ੇ৸੭ੇ৸

この世界の『作者猫さんは見た!観察日記』を読めなくなるのは寂しくなりますね。

㌧㌧(-ω-疲)p(q・ω・ `)オツカレタマデシタ


綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
2023.01.15 綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)

最後まで来ました゚+.(っ´∀`)っ゚+.゚ありがとうございます。
ジジバカ、ここに極まれり! 先皇陛下もお金出したのかしら(*´艸`*) 突貫工事だったでしょうね。最終的に民の役に立ってるからよし! d(・`ω´・)グッ
リリアナもナサニエルも、セラフィナも幸せを掴みそうなタイプです_( _*´ ꒳ `*)_

解除

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