112 / 122
112.忘れられない一夜
しおりを挟む
お披露目の宴が一段落したところで、眠そうに目を擦るリリアナを連れて先に退場する。再婚なので、初夜の花嫁の役割は理解していた。ましてやオスカルは初婚だもの。
部屋でリリアナと湯浴みをして、先に彼女を寝かしつけた。乳母のバーサが連れて来たエルも、一緒にベッドへ寝かせる。今夜はバーサとお母様が、交代で部屋にいてくれるの。とても助かるわ。
安心して自分の身支度に入った。香油を髪に絡め、指先を桜色に染め直す。薄化粧を施し、レースで作られたナイトドレスを身に纏った。当然透けてしまうので、上にローブを羽織る。ロングコートのように襟から足首まですっぽり覆い、首のところで結ぶ。内側からローブを掴んで、そそくさと移動した。
寝室は間接照明のみで薄暗く、キャンドルや花びらの演出がなされている。嬉しいのだけれど、恥ずかしいわ。緊張しながらベッドの端に腰掛けた。すぐにノックの音がして、びくりと肩が揺れる。
「はい」
「……っ、綺麗だよ。ティナ」
入室して息を呑んだオスカルの言葉に、頬が赤くなる。だって、まだ恥ずかしくてローブが脱げないんだもの。合わせ目をしっかり掴んだ指から力を抜き、ひとつ深呼吸した。立ち上がって自分で紐を解くべき?
オスカルはプレゼントを自分で開封したい人かしら。それとも開封された中身を重視する? 分からないので視線で問う。微笑んだ彼は近づき、ローブごと私を抱きしめた。
「解いて見せてくれる?」
囁く彼に押し倒され、優しく口付けられた。するりと紐が解けて、前が開く。恥ずかしさに潤んだ私の目元へキスが送られた。
「愛してる、ティナはとても素敵だ」
愛を告げるオスカルの前に全てを曝け出した。咄嗟に胸元を隠していた手を解き、彼の首に腕を絡める。ゆっくりと影が重なって、私達は忘れられない一夜を過ごした。
10日ほどゆっくり過ごし、私達は寝台馬車に揺られて、アルムニア公国へ向かった。リリアナとエルが一緒よ。お父様はぎりぎりまで仕事をして駆け付けるし、お祖父様も同じ。お祖母様とお母様は別の馬車で同行する。ひいお祖父様とオスカルは、愛馬に跨って馬車の隣を走った。
皇族の移動は警護が大変だ。以前にモンテシーノス王国から逃れた時と同じ、テントや野営道具を積んだ荷馬車も列に並んだ。一日あれば移動可能な大公屋敷と宮殿だけれど、今回はわざと森で一泊する。そのためお昼過ぎに宮殿を出発した。
アルムニア公国との境は、他国の国境より近い。実質的に皇族の直轄領と見做した過去が影響していた。アルムニア公国以外で一番近い国境まで、馬で騎士が三日かかると聞く。
「近くていいわね」
お母様は緊急時に駆けつけられる距離、という嫁ぎ先に大満足だった。お祖母様は久しぶりの馬車で酔ってしまい、いつもより多めに休憩を取る。一泊する予定にして正解だったわ。
「尻が痛い……」
「鈍っておられるようですな、先皇陛下」
泣き言をベルトラン将軍に揶揄われ、ひいお祖父様と手合わせが始まる。もう止めようなんて思わない。だって楽しそうなんだもの。それに将軍閣下が勝つに決まってるわ。
部屋でリリアナと湯浴みをして、先に彼女を寝かしつけた。乳母のバーサが連れて来たエルも、一緒にベッドへ寝かせる。今夜はバーサとお母様が、交代で部屋にいてくれるの。とても助かるわ。
安心して自分の身支度に入った。香油を髪に絡め、指先を桜色に染め直す。薄化粧を施し、レースで作られたナイトドレスを身に纏った。当然透けてしまうので、上にローブを羽織る。ロングコートのように襟から足首まですっぽり覆い、首のところで結ぶ。内側からローブを掴んで、そそくさと移動した。
寝室は間接照明のみで薄暗く、キャンドルや花びらの演出がなされている。嬉しいのだけれど、恥ずかしいわ。緊張しながらベッドの端に腰掛けた。すぐにノックの音がして、びくりと肩が揺れる。
「はい」
「……っ、綺麗だよ。ティナ」
入室して息を呑んだオスカルの言葉に、頬が赤くなる。だって、まだ恥ずかしくてローブが脱げないんだもの。合わせ目をしっかり掴んだ指から力を抜き、ひとつ深呼吸した。立ち上がって自分で紐を解くべき?
オスカルはプレゼントを自分で開封したい人かしら。それとも開封された中身を重視する? 分からないので視線で問う。微笑んだ彼は近づき、ローブごと私を抱きしめた。
「解いて見せてくれる?」
囁く彼に押し倒され、優しく口付けられた。するりと紐が解けて、前が開く。恥ずかしさに潤んだ私の目元へキスが送られた。
「愛してる、ティナはとても素敵だ」
愛を告げるオスカルの前に全てを曝け出した。咄嗟に胸元を隠していた手を解き、彼の首に腕を絡める。ゆっくりと影が重なって、私達は忘れられない一夜を過ごした。
10日ほどゆっくり過ごし、私達は寝台馬車に揺られて、アルムニア公国へ向かった。リリアナとエルが一緒よ。お父様はぎりぎりまで仕事をして駆け付けるし、お祖父様も同じ。お祖母様とお母様は別の馬車で同行する。ひいお祖父様とオスカルは、愛馬に跨って馬車の隣を走った。
皇族の移動は警護が大変だ。以前にモンテシーノス王国から逃れた時と同じ、テントや野営道具を積んだ荷馬車も列に並んだ。一日あれば移動可能な大公屋敷と宮殿だけれど、今回はわざと森で一泊する。そのためお昼過ぎに宮殿を出発した。
アルムニア公国との境は、他国の国境より近い。実質的に皇族の直轄領と見做した過去が影響していた。アルムニア公国以外で一番近い国境まで、馬で騎士が三日かかると聞く。
「近くていいわね」
お母様は緊急時に駆けつけられる距離、という嫁ぎ先に大満足だった。お祖母様は久しぶりの馬車で酔ってしまい、いつもより多めに休憩を取る。一泊する予定にして正解だったわ。
「尻が痛い……」
「鈍っておられるようですな、先皇陛下」
泣き言をベルトラン将軍に揶揄われ、ひいお祖父様と手合わせが始まる。もう止めようなんて思わない。だって楽しそうなんだもの。それに将軍閣下が勝つに決まってるわ。
16
お気に入りに追加
2,772
あなたにおすすめの小説
この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~
柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。
家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。
そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。
というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。
けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。
そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。
ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。
それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。
そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。
一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。
これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。
他サイトでも掲載中。
罠にはめられた公爵令嬢~今度は私が報復する番です
結城芙由奈
ファンタジー
【私と私の家族の命を奪ったのは一体誰?】
私には婚約中の王子がいた。
ある夜のこと、内密で王子から城に呼び出されると、彼は見知らぬ女性と共に私を待ち受けていた。
そして突然告げられた一方的な婚約破棄。しかし二人の婚約は政略的なものであり、とてもでは無いが受け入れられるものではなかった。そこで婚約破棄の件は持ち帰らせてもらうことにしたその帰り道。突然馬車が襲われ、逃げる途中で私は滝に落下してしまう。
次に目覚めた場所は粗末な小屋の中で、私を助けたという青年が側にいた。そして彼の話で私は驚愕の事実を知ることになる。
目覚めた世界は10年後であり、家族は反逆罪で全員処刑されていた。更に驚くべきことに蘇った身体は全く別人の女性であった。
名前も素性も分からないこの身体で、自分と家族の命を奪った相手に必ず報復することに私は決めた――。
※他サイトでも投稿中
【完結】もう結構ですわ!
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
どこぞの物語のように、夜会で婚約破棄を告げられる。結構ですわ、お受けしますと返答し、私シャルリーヌ・リン・ル・フォールは微笑み返した。
愚かな王子を擁するヴァロワ王家は、あっという間に追い詰められていく。逆に、ル・フォール公国は独立し、豊かさを享受し始めた。シャルリーヌは、豊かな国と愛する人、両方を手に入れられるのか!
ハッピーエンド確定
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/11/29……完結
2024/09/12……小説家になろう 異世界日間連載 7位 恋愛日間連載 11位
2024/09/12……エブリスタ、恋愛ファンタジー 1位
2024/09/12……カクヨム恋愛日間 4位、週間 65位
2024/09/12……アルファポリス、女性向けHOT 42位
2024/09/11……連載開始
この婚約は白い結婚に繋がっていたはずですが? 〜深窓の令嬢は赤獅子騎士団長に溺愛される〜
氷雨そら
恋愛
婚約相手のいない婚約式。
通常であれば、この上なく惨めであろうその場所に、辺境伯令嬢ルナシェは、美しいベールをなびかせて、毅然とした姿で立っていた。
ベールから、こぼれ落ちるような髪は白銀にも見える。プラチナブロンドが、日差しに輝いて神々しい。
さすがは、白薔薇姫との呼び名高い辺境伯令嬢だという周囲の感嘆。
けれど、ルナシェの内心は、実はそれどころではなかった。
(まさかのやり直し……?)
先ほど確かに、ルナシェは断頭台に露と消えたのだ。しかし、この場所は確かに、あの日経験した、たった一人の婚約式だった。
ルナシェは、人生を変えるため、婚約式に現れなかった婚約者に、婚約破棄を告げるため、激戦の地へと足を向けるのだった。
小説家になろう様にも投稿しています。
婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~
tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!!
壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは???
一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
婚約者を譲れと姉に「お願い」されました。代わりに軍人侯爵との結婚を押し付けられましたが、私は形だけの妻のようです。
ナナカ
恋愛
メリオス伯爵の次女エレナは、幼い頃から姉アルチーナに振り回されてきた。そんな姉に婚約者ロエルを譲れと言われる。さらに自分の代わりに結婚しろとまで言い出した。結婚相手は貴族たちが成り上がりと侮蔑する軍人侯爵。伯爵家との縁組が目的だからか、エレナに入れ替わった結婚も承諾する。
こうして、ほとんど顔を合わせることない別居生活が始まった。冷め切った関係になるかと思われたが、年の離れた侯爵はエレナに丁寧に接してくれるし、意外に優しい人。エレナも数少ない会話の機会が楽しみになっていく。
(本編、番外編、完結しました)
旦那様、政略結婚ですので離婚しましょう
おてんば松尾
恋愛
王命により政略結婚したアイリス。
本来ならば皆に祝福され幸せの絶頂を味わっているはずなのにそうはならなかった。
初夜の場で夫の公爵であるスノウに「今日は疲れただろう。もう少し互いの事を知って、納得した上で夫婦として閨を共にするべきだ」と言われ寝室に一人残されてしまった。
翌日から夫は仕事で屋敷には帰ってこなくなり使用人たちには冷たく扱われてしまうアイリス……
(※この物語はフィクションです。実在の人物や事件とは関係ありません。)
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる