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105.国が滅びて叶う夢――SIDE元伯爵夫人

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 国が滅びた。そう表現するしかないけど、私は今の状況の方が好きだわ。

 伯爵令嬢に生まれて、兄と弟がいる。間に挟まれた娘である私の価値は、家のために政略結婚することだけ。出来るだけ高く値段を付けてくれる有力な貴族に嫁ぐ。それ以外を両親から求められたことはなかった。

 勉強も礼儀作法も出来て当たり前、刺繍や楽器も覚えた。着飾るために必要な費用は出してくれるけど、それ以外は与えられなかった。いずれ外へ出す娘は売り出す商品であり、価値を維持して高く売りつける飾り付けはすれど、愛情なんて注がれない。

 期待される兄も、私以上に期待されない弟も。我が家はまとまりがなかった。互いを羨み距離を置く。そんな生活の中、エリサリデ侯爵令嬢と親しくなった。隣国の皇族の血を引く彼女は、美しい金髪と皇族特有の琥珀色の瞳をした美人だ。

 授業に必要な道具を忘れた私に、快く貸してくれた。その縁で、徐々に親しくなる。エリサリデ侯爵家に招かれてお茶会を楽しみ、将来の夢を語った。いつか国を動かすような文官になりたい。女の身では無理だけど、そう呟いた私は諦めていた。

 どうせ叶うはずがない。

「うーん、それだと……文官の家系の方と婚約したらいいかしら。それともいっそ他国へ渡って、文官になるのも素敵ね」

 無理だと言われる。いつものことよ。そんな私の心に、侯爵令嬢バレンティナ様の言葉が染み渡った。いつか、叶うかもしれない。一度結婚しても、その方が外交関係で他国へ渡れば、同行した先で未来が開けるかも。彼女は私の夢を広げて、現実へと紐づけてくれた。

 エリサリデ侯爵令嬢バレンティナ様は、やがてセルラノ侯爵家嫡男と結婚した。彼女の夢はお嫁さんになって可愛い我が子を抱くこと。夢を叶えた彼女だったが、数年後破綻した。噂では、夫が浮気したという。

 国王カルロス陛下が激怒し、呼びつけて爵位を剥奪したと……それほどの大事おおごとだなんて。カルレオン帝国から軍が派遣され、バレンティナ様はお母様の母国へ帰られた。挨拶する暇もない、あっという間の出来事だ。

 私も婚約したの。あなたと話した通り、文官で女性の自立に理解のある伯爵家の方よ。そう報告したかったけれど、カルレオン帝国は遠い。結婚してすぐ、国が崩壊した。あちこちから輸入が途絶え、じわじわと物価の高騰が始まる。

 あまり長くは持たない。生活が破綻する心配を始めた矢先、国が亡くなった。周辺諸国が分割して統治すると決まり、夫の伯爵領はアルムニア公国へ編入される。すぐに文官の登用が始まり、私は夫の勧めで一緒に登録した。

 カルレオン帝国配下の国では、女性でも能力で採用される。その噂は本当だった。かつてバレンティナ様が話してくれた通り、私は他国になった領地の管理人として夢を叶えた。文官になり、民のために仕事をして生活の糧を得る。

 不敬かもしれない。不謹慎かもしれない。でも私は断言出来る。モンテシーノス王国が滅びて、私は夢を叶えたのだと。いつか胸を張って、バレンティナ様に伝えたいと新しい夢を描いた。
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