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99.やっとお話とお詫びができたわ
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「リリアナ、大丈夫よ。あなたは悪くないわ。心配しないで」
力の入った指先に気付き、不安そうな表情のリリアナを撫でる。銀髪を軽く撫でてから抱き寄せた。今日はエルがお留守番だから、両手が空いている。引き寄せて、膝の上に座らせた。
思ったより重いわ。もう少ししたら一緒に座るのは無理ね。今のうちに膝にたくさん乗せてあげましょう。
「はい」
私の腕を掴んで、リリアナはぎこちなく微笑んだ。まだ誤解してるわね。ぶつかったせいで、私達が叱られてると思ったのかしら。少しすれば理解できると思うけれど……不安をそのままにしたくなくて、さらに引き寄せた。胸元に頬を寄せる形で抱く。
落ち着いた席は長方形だった。向かって左側に私達が入り、ニエト子爵夫妻は右側に腰掛ける。子爵夫人の腕で眠る幼子は、エルよりやや大きく見えた。
丁寧に挨拶を交わし、当時の私の対応を素直に話した。頭がいっぱいで、赤ちゃんである令嬢に乳を与えなかったこと。抱き締めてあげなかったこと。泣きながら遠ざけたことも。オスカル様は何も言わない。
最後まで聞いてから、ニエト子爵夫人は柔らかな声で話し始めた。
「同じです。私は自分の子かも知れないと迷っていたから、乳を与えて育てました。でも最初から他人の子だと確信していたら、きっと我が子を探して混乱したでしょう。責める気はありません」
夫である子爵も同様の意見だった。驚く。もし逆の立場で、私は同じことを言えるか。腕の中で人形を抱きしめるリリアナが、じっと見上げる。視線が絡んだ瞬間、ほわりと笑った。
「私はお義母様が好きです」
短い言葉なのに、慰められた。どんな人でも好きですと言われた気がする。
「ニエト子爵様は、現在どうしておられるのですか」
「幸いにもカルレオン帝国の爵位を賜りました。縁があり、このような恩恵をいただき、感謝に堪えません」
お母様がそんなお話をしていたわ。アルムニア公国へ誘って、匿っていると。王族や他の貴族に圧力をかけられないよう、守ると聞いた。
「実は、彼女はアルムニア大公妃になるんだ」
オスカル様が口を挟んだ。皇族へ戻った後、大公家に嫁ぐ話に子爵夫妻は感激していた。ちょうど話が一段落したところで、お茶と茶菓子が届く。どうやら護衛の騎士が調整してくれたらしい。
リリアナはやっと自分の起こした衝突事故が原因ではないと理解し、笑顔でケーキにフォークを突き刺した。シフォンケーキは、クリームを別添えだ。果物もあるので、リリアナの口に運んだ。
「いいの?」
「ええ。待たせちゃったものね」
お詫びなのよ、そう伝えて彼女の口に果物を入れる。微笑ましそうに見つめる子爵夫人は「幸せそうで安心しました」と声をかけてくれた。アルムニア公国にいらっしゃるなら、今後も仲良くしていただきたいわ。
力の入った指先に気付き、不安そうな表情のリリアナを撫でる。銀髪を軽く撫でてから抱き寄せた。今日はエルがお留守番だから、両手が空いている。引き寄せて、膝の上に座らせた。
思ったより重いわ。もう少ししたら一緒に座るのは無理ね。今のうちに膝にたくさん乗せてあげましょう。
「はい」
私の腕を掴んで、リリアナはぎこちなく微笑んだ。まだ誤解してるわね。ぶつかったせいで、私達が叱られてると思ったのかしら。少しすれば理解できると思うけれど……不安をそのままにしたくなくて、さらに引き寄せた。胸元に頬を寄せる形で抱く。
落ち着いた席は長方形だった。向かって左側に私達が入り、ニエト子爵夫妻は右側に腰掛ける。子爵夫人の腕で眠る幼子は、エルよりやや大きく見えた。
丁寧に挨拶を交わし、当時の私の対応を素直に話した。頭がいっぱいで、赤ちゃんである令嬢に乳を与えなかったこと。抱き締めてあげなかったこと。泣きながら遠ざけたことも。オスカル様は何も言わない。
最後まで聞いてから、ニエト子爵夫人は柔らかな声で話し始めた。
「同じです。私は自分の子かも知れないと迷っていたから、乳を与えて育てました。でも最初から他人の子だと確信していたら、きっと我が子を探して混乱したでしょう。責める気はありません」
夫である子爵も同様の意見だった。驚く。もし逆の立場で、私は同じことを言えるか。腕の中で人形を抱きしめるリリアナが、じっと見上げる。視線が絡んだ瞬間、ほわりと笑った。
「私はお義母様が好きです」
短い言葉なのに、慰められた。どんな人でも好きですと言われた気がする。
「ニエト子爵様は、現在どうしておられるのですか」
「幸いにもカルレオン帝国の爵位を賜りました。縁があり、このような恩恵をいただき、感謝に堪えません」
お母様がそんなお話をしていたわ。アルムニア公国へ誘って、匿っていると。王族や他の貴族に圧力をかけられないよう、守ると聞いた。
「実は、彼女はアルムニア大公妃になるんだ」
オスカル様が口を挟んだ。皇族へ戻った後、大公家に嫁ぐ話に子爵夫妻は感激していた。ちょうど話が一段落したところで、お茶と茶菓子が届く。どうやら護衛の騎士が調整してくれたらしい。
リリアナはやっと自分の起こした衝突事故が原因ではないと理解し、笑顔でケーキにフォークを突き刺した。シフォンケーキは、クリームを別添えだ。果物もあるので、リリアナの口に運んだ。
「いいの?」
「ええ。待たせちゃったものね」
お詫びなのよ、そう伝えて彼女の口に果物を入れる。微笑ましそうに見つめる子爵夫人は「幸せそうで安心しました」と声をかけてくれた。アルムニア公国にいらっしゃるなら、今後も仲良くしていただきたいわ。
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